メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第306号「五藏皆有精」(内景篇・精)その2
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◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
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第306号
○ 「五藏皆有精」(内景篇・精)その2
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。「五藏皆有精」の続きにして最後の部分です。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「五藏皆有精」 p82 上段・内景篇・精)
五藏各有藏精並無停泊于其
所盖人未交感精涵于血中未有形状交感之後
慾火動極而周身流行之血至命門而變爲精以
泄焉故以人所泄之精貯于器拌
少鹽酒露一宿則復爲血矣眞詮
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
五藏各有藏精、並無停泊于其所。盖人未交感、
精涵于血中、未有形状、交感之後、慾火動極、
而周身流行之血、至命門而變爲精以泄焉。
故以人所泄之精、貯于器、拌少鹽酒、
露一宿則復爲血矣。眞詮。
●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)
▲訓読▲(読み下し)
五藏(ごぞう)各(をのをの)精(せい)を
藏(ぞう)すことあり、並(ならび)に
其(そ)の所(ところ)に
停泊(ていはく)すること無(な)し。
盖(けだ)し人(ひと)未(いま)だ
交感(こうかん)せず、
精(せい)血中(けっちゅう)に涵(かん)して、
未(いま)だ形状(けいじょう)有(あ)らず、
交感(こうかん)の後(のち)、
慾火(よくか)動極(どうきょく)して、
周身(しゅうしん)流行(りゅうこう)の血(ち)
命門(めいもん)に至(いた)りて變(へん)じて
精(せい)と爲(な)りて以(もっ)て泄(も)る。
故(ゆへ)に人(ひと)泄(せっ)す所(ところ)の
精(せい)を以(もっ)て、器(うつは)に貯(たくは)へ、
少鹽酒(しょうえんしゅ)に拌(かきま)ぜ、
露(あらはす)こと一宿(いっしゅく)せば則(すなは)ち
復(ま)た血(ち)と爲(な)る。眞詮(しんせん)。
■現代語訳■
五臓はそれぞれ精を有しており、
かつそこに留まっていることはない。
およそ人がまだ交感していない時には、
精は血中に存して形状を持たないが、
交感の後に、情欲の火が激昂して
全身を周る血が命門に集まり、変じて精となり、
排出されることになる。
ゆえに人が排出するところの精を器に貯め、
少量の塩と酒を混ぜ、屋外に一日おけば、
再び血に返る。『眞詮』
★ 解説 ★
「五藏皆有精」の続く部分です。文章では3段目、これでこの項目の最後で
す。
前号の2段目の文で
腎は都會關司の所爲り、
腎一藏獨り精有るに非ざるなり。
(腎は精が集まり、司り、通過する部位であり、
腎のみが精を有するわけではない。)
と言っていたのを受けて、言葉を替えて同じことを説いており、またさらにそれぞれの精が腎に集まり発される機序を説いています。
このように前後の構成で論旨の流れを組み立ててあることがよくわかりますよね。ですから先行訳のように、この項目で言えば前の2段をまるまる省略してしまうと、せっかく編者さんがわかりやすく組み立ててくれた論旨を全て無視し破壊し、著作全体の内容も価値も損なってしまうことになることがおわかりいただけると思います。
さて、この文は最後に凄いことを言っています。排出された精、つまり精液のことと読めますが、それを貯めて塩と酒を混ぜて一日おくともともとの血に戻る、と説いているのですね。
現代的な観点からこれは全くの妄説ですよね。ただなぜこのような記述がまことしやかに説かれたのか、そして伝えられてきたのか、また東医宝鑑は採用したのか、その観点から読むとまた違った読みができるかもしれません。
先行訳情報ですが、前号で書いたように先行訳はこの項目の3段の文で、この段のみを訳出しています。
ところがその冒頭にこんな文があります。
五臓にはそれぞれ精液があるが、
これは原文の
五藏各有藏精
の部分の訳出ですね。先行訳の問題点、おわかりになりますか?
先行訳は原文の「精」を「精液」と訳していることがわかります。これは原文の趣旨に適うでしょうか?
詳しくは書きませんが、適わないのは明白ですよね。どこがどう適わないか、明確に論破できますでしょうか?
いつもは私が解説してしまいますので、ここでは読者さまご自身で、原文の趣旨を読み取って、先行訳の誤謬を明確に、論理的に糺していただけたらと 思います。
◆ 編集後記
「五藏皆有精」を読み終わりました。次は続く項目「脈法」です。全部で 4段文章がありますが、短い文ですので一気に一号で読んでしまう予定です。
(2019.03.02.第306号)
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