メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第295号「煉臍法」「熏臍秘方」「灸臍法」(内景篇・身形)

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第295号

    ○ 「煉臍法」「熏臍秘方」「灸臍法」(内景篇・身形)

        ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説
      ◆ 編集後記


           

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 こんにちは。前号までの「神枕法」の続き、「煉臍法」「熏臍秘方」 「灸臍法」を一気に読んでしまいます。と言っても初めのふたつは別章の参照記事となっており、実質は最後の「灸臍法」だけが解説文を持つ内容です。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「煉臍法」「熏臍秘方」「灸臍法」 p80 下段・内景篇・身形)


煉臍法

         即彭祖固陽固蔕長生
    延壽丹也詳見臍部


 熏臍秘方
 
     除百病保命延
     年詳見臍部

 
 灸臍法

    有人年老而顔如童子者盖毎歳以鼠糞灸臍
    中一壯故也資生經○本朝韓雍侍郎討大藤峽
   獲一賊年逾百歳而甚壯健問其由曰少時多
   病遇一異人教令毎歳灸臍中自後康健云彙言


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


煉臍法

    即彭祖、固陽、固蔕、長生延壽丹也。詳見臍部。


熏臍秘方

    除百病、保命、延年。詳見臍部。


 灸臍法

  有人年老而顔如童子者、

  盖毎歳以鼠糞灸臍中一壯故也。資生經。

  本朝韓雍侍郎、討大藤峽、獲一賊、

  年逾百歳而甚壯健。問其由、曰少時多病、

  遇一異人、教令毎歳灸臍中、自後康健云。彙言。


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)


・句法

 盖 けだし 蓋の異体字 不確実で確認しがたい内容におよその見当を
       述べる。多分、およそ、思うに。

 令 しむ 使役を表す動詞。

 自 より 時間や場所の起点を示す


・語釈 

 本朝 ほんちょう 現在の朝廷。ここでは明朝。

 侍郎 じろう 役職名。六部(中央行政官庁)の副長官。

 壯 そう 壮の異体字。灸を据える時の単位、助数詞。

 逾 こえる、こゆ 超過する、経過する、勝る。

 異人 いじん 風変わりな人、他人、仙人。


 ■現代語訳■


煉臍法

       まさに彭祖が陽と根幹を堅固にした長生延寿丹である。

  詳細は臍部参照。


熏臍秘方

 百病を除き、生命を保持し寿命を延ばす。詳細は臍部参照。


 灸臍法

  ある人が、年老いてなお顔が少年のようであったが、
  これは毎年、鼠の糞で臍に灸を一壮
  すえていたためであるという。『資生經』

  本朝では、侍郎、韓雍が大藤峡を討った際に
  一人の賊を捕らえたが、歳は百を超えてなお
  非常に壮健であった。

  その理由を問うたところ、若い時は多病であったが、
  ある時一人の仙人とめぐり会い、毎年臍に灸をすえる法を
  教わった。それ以降健康になったという。『彙言』


 ★ 解説 ★

 「神枕法」の続きの項目「煉臍法」「熏臍秘方」「灸臍法」です。名前からわかるように並んで「臍」を扱った項目となっています。それだけ臍に延命長寿の根源を見ているわけです。なぜかをいろいろ考察すると面白いテーマとなると思います。

 上でも見えるように、初めの二つは「臍部」の章を参照しており、項目の紹介と概要を記すのみで詳細は臍部に記載してあります。

 内容の吟味のためにはここでそちらに飛んで項目を読むのが良いのですが、今回はそれを省き、いずれの読解を期したいと思います。


 最後の「灸臍法」だけはここに解説文があり、実はこれも前号までの「神枕法」同様、以前に既に読んでいる項目なのですね。

 これは2013年に読んだ神枕法をさらに遡ること1年、2012年の8月23日に配信しています。これは東医宝鑑に説かれた実用的な健康法に関しての特集記事でした。

 はじめの二つはいずれの解説を期すとしまして、「灸臍法」に関しては既に配信した解説で比較的詳細に書いたので、そちらを再録してお届けすることにいたします。

 前回の神枕法では5年前の記事をお読みいただきましたが、6年前にもやはり暑苦しい(?)長めの記事を書いており、当時にはどんな記事を書いていたのか、ご興味おありの方は以下をお読みくだされば幸いです。

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 今号はより実用的な「灸臍法」です。

 前号の「(虫其)鍼法」の文に比べて、難しい句法や語句が少なく、比較的読みやすいと思います。

 最後に「異人」とあり、これを「仙人」と訳してあります。

 日本には「異人さんに連れられて行っちゃった」という、赤い靴の女の子の歌がありますが、あれは仙人に連れていかれたわけではなく、当時の外国人、西洋人を「異人」と呼ぶ、日本独特の用い方です。(あの歌詞を「異人さん」ではなく、「ひいじいさんに連れられて」だと思っていたのは私だけでしょうか(笑))


 古来には上に書いたように「他人、風変わりな人」などの意味もありますが、ここでは長寿の法としての灸臍法を教えてくれたのですから、こうした方法に精通した人として、仙人が一番当てはまるのではと考え、そう訳してあります。ちなみに、中国でも日本でも、仙人やそれに準ずる人と出会って珍しい方法を教わったという話、結構ありますね。

 お臍は鍼灸方面のツボでは「神闕 しんけつ」と呼ばれます。
 この臍の灸は今の日本でも比較的知られる方法です。ツボを探るのが難しい他の部位と違って、場所が誰にでもすぐにわかりますので、その点でも使いやすいツボですね。

 上には鼠のフンを用いる方法も書いてありますが、普通はもぐさ、つまりヨモギの葉の裏の綿状の繊維を用います。

 もちろん直接すえると火傷しますので、塩を臍につめて、その上でもぐさを焼く方法がよく使われます。ネットでの検索が便利な時代、具体的な方法は、「へそ灸」などで検索するといくらでも出ると思います。

 もぐさは精製の具合によって品質と値段にばらつきがあり、品質がよいもののほうが燃え方が良く使い勝手がよいですが、その分値段も高く、頻繁の使用だとお金もかかりますが、直接肌に当てない間接灸でしたら、間接灸用の安めのもぐさでも問題ありません。

 現在は健康産業が盛んで、中には非常にお金のかかるものがありますが、それは売る側、広める側の都合であることが多く、できるだけお金をかけずに健康を保つ方法が王道だと思います。なぜお金をかけない方がよいのかは、経済的な理由以外にも、東洋医学的な発想の根幹に関わる重要な理由がありますが、ここではその解説を保留しておきたいと思います。

なお、日本で買うと間接灸用のもぐさでも結構な値段がしますが、中国や韓国で買うと安いですので、旅行に行く機会がおありの方は、普通のおみやげに加えてもぐさを買われるとよいのではと思います。

 韓国のソウルには世界でも最大級と思われる生薬市場があり、店頭に大きな袋に入った様々な等級のもぐさが無造作に並んで、日本に比べて格安で売っています。業者や現地の人でなくても、誰でも買えます。

 点灸用、つまり直接肌を焼くためのもぐさの品質はおそらく日本が世界で一番良いものを生産していると思いますが、外国では現在直接肌を焼くお灸をすること自体が少なく、その点でさほど質の良くない間接灸用のもぐさで充分に用が足りるのですね。

 プロなら、かかった経費の分をお客様、患者さんに請求できますので懐が痛むことがないですが、家でやる分には使ったら使っただけのお金がかかりますからね、できる限り出費を抑えたい、というのは人情でしょう。

 もちろん、海外で買えば海外にお金を落とすことになりますので、地産池消を考えれば、多少高くても日本製を買った方が国の産業のためにも良い、とお考えの方は、国産を買うのもよいでしょう。

 ただ、日本でも安いもぐさは海外産を売っているところもあり、以前ある業者で一番安いもぐさを試しに購入したら、袋は国産のもぐさ風なのですが、中身は韓国産の安いもぐさが入っていて驚いたこともあり、こんな業者さんもあるので、純粋な国産はある程度の値段を覚悟したほうがよいと思います。

 さて、この灸臍法は上に書いたように、この東医宝鑑の内景篇の身形、つまり著作の冒頭の章で紹介された内容です。

 ブログでは全体の章建ての紹介をし、またこのメルマガでも、全体の章建てやその流れにも重要な意味があると度々書きましたが、この方法が冒頭付近に取り上げられていることもまた意味があることと思います。

 現在日本でも「未病」という言葉がコマーシャルなどを通して言われるようになりましたが、東洋医学では病気になる前に病気を治す、という発想がありました。また、さらに病気でない状態を理想とするのではなく、自分で自分の健康、さらにもっと人間として理想の状態を追求した思想と体系とがあったように思います。

 そして、この東医宝鑑の全体の構成、章建てにも、そんな思想がはっきりと込められており、またそこに東洋医学の真髄もあると思いますので、このような断片を読むのでも、常にそんなところまでを意識した読解をなさっていただけたらと思います。


 健康法としてのお灸というと、日本では臍灸以上に、足の三里の灸が有名で、無病長寿の灸として知る人ぞ知る(?)「八日灸」などという方法もあるのですが、文が長くなりましたので、いずれ別の号でのご紹介を期したいと思います。 

 ◆ 編集後記

 神枕法の続き、臍の三部作?解説です。前の二つは参照記事のままでお届けした代わりに、最後の灸臍法は以前の解説を織り交ぜ長めに取り上げてみました。

 今号で300号を配信を迎えることができました(※ブログでは号数の調整をしているので数が違ってしまっています。2022年6月20日補記)。2011年の初めからもう8年近くもこうして無償のマガジンを元気で配信できる環境でいられることに改めて感謝しつつ、今後も倦まず弛まず配信を続けていく所存です。

 創刊号は配信ではなく配信サイトのまぐまぐ!にアップロードするだけの号で、実質の配信は次の第2号から始まったのですが、第2号の配信部数はたったの4部でした。
 
 それが現在現状では227部の配信をしており、匿名のご登録のためお顔やお名前を存じ上げることはできませんが、ご登録ご講読をいただいている読者様方にもこの場でお礼申し上げたいと思います。

 
 本文読解も今号で実質の「身形」は終わっており、附録の「附養老」に次号から入り、いよいよこの章の読解も最終局面に移ってきました。

 おそらくあと5号で読み終わると思い、間近でひとつの項目に数号を費やした関係もあり年内中に読み終わることはできなそうですが、来年1月内にはこの章を読み終われると思います。年内も来年も、引き続き週一配信を続けたく思っております。今後ともこのメルマガをどうぞよろしくお願い申し上げます
                     (2018.12.08.第295号)
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