メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第3号バックナンバー「身形藏府圖(しんけいぞうふず)」~その2
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第3号 目次
○ 本文 「身形藏府圖(しんけいぞうふず)」~その2
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こんにちは。前号では各項目の下に解説を織り交ぜましたが、既にそれぞ
れの趣旨をお分かりいただけたと思い、今号からは特に解説を挿みたい場合
を除いて、前号の様式で項目のみでお届けします。
今後はずっとこの形式で進行していくことになります。内容は前号の部分の
続きです。
○ 本文 「身形藏府圖(しんけいぞうふず)」~その2
◆原文◆
朱丹溪曰凡人之形長不及短大不及小肥不及
痩人之色白不及黒嫩不及蒼薄不及厚而况肥
人濕多痩人火多白者肺氣虚黒者腎氣足形色
既殊蔵府亦異外證雖同治法迥別 (p.72上段・内景篇 身形)
▼断句▼
朱丹溪曰、凡人之形、長不及短、大不及小、肥不及痩。
人之色、白不及黒、嫩不及蒼、薄不及厚。
而况肥人濕多、痩人火多、白者肺氣虚、黒者腎氣足。
形色既殊、蔵府亦異、外證雖同、治法迥別。
▲訓読▲
朱丹溪曰く、
凡(およ)そ人の形(けい)、長は短に及ばず、
大は小に及ばず、肥は痩に及ばず。
人の色、白は黒に及ばず、
嫩は蒼に及ばず、薄は厚に及ばず。
而(しか)るを况(いわ)んや肥人は濕多く、痩人は火多く、
白き者は肺氣虚し、黒き者は腎氣足る。
形色既に殊(こと)なれば、蔵府も亦(また)異なり、
外證は同じと雖(いえど)も、治法は迥かに別る。
(前号で触れましたように訓読には統一された方法がなく、訓で読むか、
音で読むかもケースバイケースです。上の文でも例えば「形(かたち)」や
「長(なが)きは短(みじか)きに」と読むか、「形(けい)」
「長(ちょう)は短(たん)に」と読むか、どちらも可能ですが、ここでは音
読み中心にしてあります。
概して訓読みにすると日本語の一般語になりますが、原文では通常一般的
な漢字、単語でも場合によって医学の専門用語として用いられていることが
あって、訓読みにするとニュアンスが変わってしまうこともあり、医書の用
語部分に関しては音読みの方が誤り少ないと言えると思います。
その点でも、訓読みにするとニュアンスが変わってしまいそうな部分はでき
るだけ音読みにしてあります。)
●句法・語釈●
・句法
凡 およそ、fan2 そもそも、一般的に、全体として
而况 しかるをいわんや、er2 kuang4 その上、まして、さらに
既A 亦B すでに~また、ji4~yi4 Aである上に、さらにBである
雖 いえども、sui1 たとえ~であったとしても
迥 はるか、jiong3 非常に隔たるさま(原本では中が「向」)
・語釈
朱丹溪 人名、しゅたんけい、zhu1 dan1 xi1、朱震亨。
元代(1281~1358)の医科。いわゆる「金元四大家」の一人。
『格致餘論』『丹溪心法』など。
嫩 ドン、わかい、やわらか、nen4「若い芽の柔らかいさま、淡いさま、
色が薄いさま」
蒼 ソウ、あお、あおい、cang1「青色の、灰白色の、年老いたさま」
■現代語訳■
朱丹溪が説かれた。
「全て人の形態は、身長の高い者は低い者に及ばず、
体躯の大きな者は小さな者に及ばず、
肥えた者は痩せた者に及ばない。
人の色質は、白い者は黒い者に及ばず、
嫩い者は蒼い者に及ばず、
薄い者は厚い者に及ばない。
またさらに、肥えた者は湿が多く、痩せた者は火が多く、
白い者は肺気が虚し、黒い者は腎気が充実している。
このように、形態と色質とが違えば、臓と腑も異なり、
たとえ見た目の証は同じでも、治療法は全く違ったものとなる。」
★解説★
前号で読んだ部分の続きとして挙げられている文です。
前号部分では「天」と「人」、また「地」と「人」とは相関関係にあること
が説かれていましたが、ここではさらにその内の「人」に焦点を移して形態
と色質の違いを述べ、最後にこれらが違えば病気の治療法もまた違ってくる、
つまり人の体質によって治療法を変えるべき、と結ばれています。
これもなかなか意味深く、現代では薬品や治療方法はたいてい誰でも一律に
施されるのが当たり前ですので、現代医学の先にある記述と言ってもよいか
もしれません。
東洋医学ではこの一見同じように見える病気でも人によって、さらに時に応
じ場所に応じて、また病状の変化などに応じて治療法を変えることを
「同病異治(どうびょういち、tong2 bing4 yi4 zhi4」と呼び、古来より治
療の根幹に置かれるテーマです。
前号の天と地と人の相関に続く形で冒頭にこのテーマが掲げられたことにも
また、東医宝鑑を貫く思想を垣間見ることができ、一見固定的に書かれてい
る東医宝鑑の今後の記述を読む際にも、治療の選択にはこのテーマを忘れる
な、という戒めを込めて冒頭に置いているとも考えられます。
前号と今号で東医宝鑑本文の一番の冒頭部分を読んだわけですが、ここに
「天地人相関」「人の体質の違い」「同病異治」のテーマが盛り込まれたこ
とになります。
少し余談ですが、このように、書かれている内容を読む以外に全体の構成な
どにも目を向け掘り下げながら読むことによって、編者であるホジュンさん
の発想が解り、私などはホジュンさんと直接対話し、教えをいただいている
ような気分になってきます。そしてホジュンさんの更に先に引用元である先
達の影があり、連綿と続く伝統に列席し学んでいることを実感します。これ
もまた古典に直接接して学ぶ醍醐味のひとつと言えると思います。
この部分には他にも「肺気」「腎気」やそれと「白」「黒」などとの関わり、
また「湿」「火」など重要な項目もありますが、これをしっかり解説するだ
けで冊子ぐらいの文量になってしまい、解説の初めですのでここでは総論に
触れるだけにし、いずれ号を重ねてだんだん取り上げるテーマも増えかつ深
くなった時での詳細な解説に期したいと思います。
(2011.01.07. 第3号)
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◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ― ◆
発行者 T touyihoukan@gmail.com
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