メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第139号「陰陽倶虚用藥」(「固真飲子」)─「虚労」章の通し読み ─
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第139号
○ 「陰陽倶虚用藥」(「固真飲子」)
─「虚労」章の通し読み ─
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。ひとつが長いので
ひとつだけでお届けします。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「陰陽倶虚用藥」 p447 上段・雜病篇 虚勞)
固真飲子
治陰陽両虚氣血不足飮食少思五心煩
熱潮熱自汗精氣滑脱行歩無力時或泄
瀉脉度沈弱咳嗽痰多將成勞〓熟地黄一錢半(〓やまいだれ祭)
人参山藥當歸黄〓蜜炒黄栢鹽酒炒各一錢陳(〓くさかんむり氏)
皮白茯苓各八分杜仲炒甘草灸各七分白朮澤
瀉山茱萸破故紙炒各五分五味子十粒右〓作(〓坐りっとう)
一貼水煎服盖門冬地黄雖滋陰久則滯胃滯經
致生癰疽金石桂附雖助陽久則積温成熱耗損
眞陰惟此方備五味合氣冲和養血理脾胃充〓(〓月奏)
理補五藏無寒熱偏併過不及之失中年已上之
人可以
常服入門
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
固真飲子
治陰陽両虚、氣血不足、飮食少思、五心煩熱、
潮熱自汗、精氣滑脱、行歩無力、時或泄瀉、
脉度沈弱、咳嗽痰多、將成勞〓(やまいだれ祭)。
熟地黄一錢半、人参、山藥、當歸、黄〓(くさかんむり氏)、
蜜炒、黄栢鹽酒炒各一錢。
陳皮、白茯苓各八分。杜仲炒、甘草灸各七分。
白朮、澤瀉、山茱萸、破故紙炒各五分。
五味子十粒。右〓(坐りっとう)作一貼、水煎服。
盖門冬、地黄雖滋陰、久則滯胃滯經、致生癰疽。
金石、桂附雖助陽、久則積温成熱、耗損眞陰。
惟此方備五味、合氣冲和、養血理脾胃、
充〓(月奏)理、補五藏、無寒熱偏併、過不及之失。
中年已上之人、可以常服。『入門』
●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)
雙(ソウ)=双
▲訓読▲(読み下し)
固真飲子
陰陽両虚、氣血不足、飮食少なく思ひ、五心煩熱、
潮熱自汗、精氣滑脱、行歩力無く、時に或ひは泄瀉し、
脉度沈弱、咳嗽痰多く、
將に勞〓(やまいだれ祭)に成らんとするを治する。
熟地黄一錢半、人参、山藥、當歸、黄〓(くさかんむり氏)、
蜜炒、黄栢鹽酒炒し各一錢。
陳皮、白茯苓各八分。杜仲炒、甘草灸各七分。
白朮、澤瀉、山茱萸、破故紙炒し各五分。
五味子十粒。右〓(坐りっとう)みて一貼と作し、水煎し服す。
盖(けだ)し門冬、地黄陰を滋す雖(いへ)ども、
久しきときは則ち胃に滯り經に滯りて、癰疽を生じることを致す。
金石、桂附陽を助くと雖(いへ)ども、
久しきときは則ち温積りて熱を成して、眞陰を耗損す。
惟(た)だ此の方五味を備へて、氣の冲和に合す、
血を養ひ脾胃を理し、〓(月奏)理を充(みた)して、
五藏を補ひ、寒熱の偏併、過不及の失無し。
中年已上の人、以て常に服すべし。『入門』
■現代語訳■
固真飲子(こしんいんし)
陰陽が共に虚し、気血が不足し、飲食への意欲が少なく、
五心が煩熱、潮熱自汗、精気滑脱、歩行に力無く、
時々泄瀉し、脈は沈弱、咳嗽痰多く、
すぐにも勞〓(やまいだれ祭)になりそうな者を治する。
熟地黄一銭半、人参、山薬、当帰、黄〓(くさかんむり氏)、
蜜炒、塩酒で炒った黄柏を各一銭。
陳皮、白茯苓各八分。杜仲を炒り、炙甘草各七分。
白朮、沢瀉、山茱萸、破故紙を炒し各五分。
五味子十粒。以上を刻んで一貼とし、水煎して服用する。
およそ麦門冬、地黄は陰を滋すとはいえ、
長く服せば胃に滞りまた経絡が滞って、癰疽を生じるに至る。
金属や鉱物薬、桂枝、附子は陽を助けるとはいえ、
長く服せば温が積もって熱となり、真陰を損耗することになる。
ただこの方のみが五味を備え、気を冲和させるに適い、
血を養い脾胃を整え、〓(月奏)理を充たし、
五臓を補い、寒熱が偏り、過不足させるような失がない。
中年以上の者は、常に服用するとよい。『入門』
★解説★
「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。文が長く原本の行数にして10行以上あり、処方解説でも長いものの部類です。
なぜ長いのかは、上のように通常の処方解説の流れにプラスして、付け足しの文があるからです。
ここで特定の生薬を長く服用することによる害について触れ、反対にこの処方はそのようなことがなく多くの利点を持つもので、一定の年齢以上、つまり普通にしていても虚損に向かいがちな年齢では常に服用するとよいとまで言っています。
普通漢方の処方というのはある症状があってそれに服用するもの、つまり症状というカギ穴に差し込むカギのようなもので、治癒してしまえば、つまりカギが開いてしまえばもうその処方は服用する必要がなく、飲み続ければ反対に害を成す場合すらあり、常に服用してよいという処方は数少ないですが、この固真飲子はその数少ない処方のひとつと考えられていることがわかります。
これまた先行の訳本はこの後半部分を全て削っており、通常の処方解説と同じになってこの処方の特色が全くわからなくなってしまっています。
この部分で他の処方と差別化し、この処方を特徴づける文ですので、やはりここは削ってはいけない部分でしょう、訳本をお持ちの方は補完してくださればと思います。
◆ 編集後記
「陰陽倶虚用藥」の処方解説、長さの都合でひとつだけお届けしました。
二十四節気は9月23日が秋分ですね。今年の3月21日の春分当日に「春分ウキウキ号」と題して配信しましたが、早くも半年が経ってしまったことになります。
そこから24号めの配信で、東医宝鑑影印本のページにして約3ページ分ほどしか読んでいないという遅々とした進みですが、それでも先行訳の誤りや省略を補完したりもしていますので、少しずつでも日本における東医宝鑑需要の推進を果たしているとは言えるかもしれません。
個人的にグループで輪読したりする以外にこのような読解はなかなかできず、公刊された本やネット上の情報でも、原文からここまで詳しく読解しているものは少ないと思い、しっかり読めば他の古典に当たる時にも参考になる点は多いと思います。
なにより執筆している私が一番詳しく原文の読解をしていると言え、私自身が未見の医書に当たる際に目の通りがとても良くなっており、配信によって一番恩恵を被っているのは私自身なのかもしれません。
ともあれ、しばらく処方の列挙が続きましたので、この「陰陽倶虚用藥」を読み終わったら「虚勞」の項は一休みし、別の項目をスポット的に読んでみたいと考えています。
(2015.09.19.第139号)
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発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com
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