メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第141号

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第141号

    ○ 「陰陽倶虚用藥」(「二至丸」他)
      ─「虚労」章の通し読み ─

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。今号も長さの都合で二つの処方をお届けします。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「陰陽倶虚用藥」 p447 下段・雜病篇 虚勞)


二至丸

補虚勞氣血倶損滋陰降火熟地黄龜板白
    朮黄栢各三兩生地黄山茱萸當歸知母各
  二兩兎絲子肉〓蓉黄〓牛膝枸杞子破故紙五(〓くさかんむり從)
                     (〓くさかんむり氏)
  味子白芍藥虎脛骨白茯苓杜仲山藥陳皮人參
  各一兩右爲末蜜丸梧子大鹽湯或温酒下八十
  丸至百丸名二至者取冬至陽生夏至陰生之義
  也入門○一名調元多子方
  夫婦皆服其效如神集略


 異類有情丸
 
      治虚勞補氣血両虚鹿角霜龜板酥灸
      各三兩六錢鹿茸酒洗酥灸虎脛骨酒
  煮酥灸各二兩四錢右爲末雄猪脊髓九條同煉
  蜜擣丸梧子大空心鹽湯下七八十丸盖鹿陽也
  龜虎陰也血氣有情各從其類非金石草木例也
  如厚味善飮之人可加猪膽汁一二合以寓降火
  之義中年覺衰
  者便可服餌入門


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


二至丸

補虚勞氣血倶損、滋陰降火。

  熟地黄、龜板、白朮、黄栢各三兩。

  生地黄、山茱萸、當歸、知母各二兩。

  兎絲子、肉〓(くさかんむり從)蓉、黄〓(くさかんむり氏)、

  牛膝、枸杞子、破故紙、五味子、白芍藥、虎脛骨、

  白茯苓、杜仲、山藥、陳皮、人參各一兩。

  右爲末、蜜丸梧子大、鹽湯或温酒下八十丸至百丸。

  名二至者、取冬至陽生夏至陰生之義也。『入門』

  一名調元多子方、夫婦皆服、其效如神。『集略』


 異類有情丸
 
  治虚勞、補氣血両虚。

  鹿角霜、龜板酥灸各三兩六錢。

  鹿茸酒洗酥灸、虎脛骨酒煮酥灸各二兩四錢。

  右爲末、雄猪脊髓九條、同煉蜜擣丸梧子大、

  空心鹽湯下七八十丸。盖鹿陽也、龜虎陰也、

  血氣有情、各從其類、非金石草木例也。

  如厚味善飮之人、可加猪膽汁一二合、

  以寓降火之義、中年覺衰者、便可服餌。『入門』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  酥灸(酥炙(ソシャ))生薬の修治法のひとつ。
         牛乳、羊乳などから精製した油(酥炙油)を塗り炙る。

  有情(ウジョウ)無情、すなわち心を持たない草木に対して、心を持ち、喜怒哀楽の感情がある動物を指す。


 ▲訓読▲(読み下し)


二至丸

虚勞氣血倶に損するを補ひ、滋陰降火の効を有する。

  熟地黄、亀板、白朮、黄柏各三両。

  生地黄、山茱萸、当帰、知母各二両。

  兎絲子、肉〓(くさかんむり從)蓉、黄〓(くさかんむり氏)、

  牛膝、枸杞子、破故紙、五味子、白芍薬、虎脛骨、

  白茯苓、杜仲、山薬、陳皮、人参各一両。

  右を末と爲し、蜜にて梧子の大に丸め、

  鹽湯或ひは温酒にて下すこと八十丸より百丸に至る。

  二至と名づくる者は、冬至陽生じ夏至陰生ずるの義に取るなり。『入門』

  一名調元多子方、夫婦皆服して、その效神の如し。『集略』


 異類有情丸
 
  虚勞を治し、氣血両虚を補ふ。

  鹿角霜、龜板酥炙し各三兩六錢。

  鹿茸酒に洗ひて酥炙し、虎脛骨酒に煮て酥炙し各二兩四錢。

  右末と爲し、雄猪脊髓九條、同じく煉蜜に擣きて梧子の大に丸め、

  空心鹽湯にて下すこと七八十丸。盖(けだ)し鹿は陽なり、

  龜虎は陰なり、血氣有情、各(おのおの)その類に從ふ、

  金石草木の例に非ざるなり。

  厚味善飮の人の如きは、猪膽汁一二合を加ふべし、

  以て降火の義を寓す、中年衰を覺ゆる者は、

  便(すなは)ち服餌すべし。『入門』


 ■現代語訳■


二至丸(にしがん)

虚労により気血が共に損する者を補し、陰を滋し火を降す。

  熟地黄、亀板、白朮、黄柏各三両。

  生地黄、山茱萸、当帰、知母各二両。

  兎絲子、肉〓(くさかんむり從)蓉、黄〓(くさかんむり氏)、

  牛膝、枸杞子、破故紙、五味子、白芍薬、虎脛骨、

  白茯苓、杜仲、山薬、陳皮、人參各一両。

  以上を粉末にし、蜜にて梧桐の種の大きさに丸め、

  塩湯または温酒にて八十丸から百丸を服用する。

  二至という名称は、冬至には陽が生じ、

  夏至には陰が生じるところに由来する。『入門』

  一名を調元多子方(ちょうげんたしほう)と呼び、

  夫婦が共に服せば神効がある。『集略』


 異類有情丸(いるいうじょうがん)
 
  虚労を治して、気血両虚を補する。

  鹿角霜、酥炙した亀板各三両六銭。

  酒で洗い酥炙した鹿茸、酒で煮て酥炙した虎脛骨各二両四銭。

  以上を粉末にし、雄猪の脊髓九条を入れ、

  煉蜜に混ぜて擣いた後、梧桐の種の大きさに丸め、

  空腹時に塩湯で七十から八十丸を服用する。

  およそ鹿は陽に属し、亀と虎とは陰に属する。

  鉱物や草木と違い、動物類は血や気はそれぞれの種類に従うのである。

  油物を好む者、飲酒する者には、猪胆汁を一から二合加えると、

  降火の義を含み効果が増す。

  中年で衰えを感じる者は、常食するとよい。『入門』

 
 ★解説★
 
 「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。前者は使用する生薬の数が多く、後者は動物由来の生薬ばかりを使用しているところに特徴があります。

 間近の数項目同様、先行訳はこれらに登場する末尾の解説をすっかり削ってしまい、それぞれの処方を特化し特徴づける情報を全て省略しているため単なる処方名と概説、使用生薬の列挙になってしまっています。

 前者ではこの部分に「二至」の名称由来が説かれています。これによりこの処方が陰陽両虚に対応していることを表明しています。

 後者は「異類有情丸」というおどろおどろしい名前(?)ですが、後半部分を読むことでこの名称の意味がわかり、またこちらも陰陽を二つながら調整する役割を持たされていることがわかります。

 すなわち「異類有情丸」という名前も「異類」は異なった種類、「有情」は動物で、それで「異類有情丸」と名づけられたこと、さらに異なった種類は単に異なっているだけでなく、陰と陽とに属する動物がそれぞれ選ばれ、これで陰陽両虚に対応していることまでがわかるようになっています。
 これらもやはり削ってはいけない部分でしょう。

 
 もう一点、「異類有情丸」に三回、「酥灸」という表現が登場します。
 これは上の語釈欄に書いたように、生薬の修治法のひとつで、「酥」、牛や羊などの乳から精製した油(禅や気功をなさる方には白隠さんの「軟酥の法」がお馴染ですよね)を生薬に塗って火であぶる方法です。

 これはここに亀板、鹿茸、虎脛骨に用いられているように、主としてこのような動物薬に用いられる方法で、これによりただ煎じただけでは出にくい成分を予め出やすいように処置しておく方法です。

 より細かく見れば「鹿茸」では酒で洗って酥灸、虎脛骨では酒で煮て酥灸と、さらに細かい方法が指定されており、先人がそれぞれの生薬がどのようにすれば最大限に有効成分が出せるか、つまりより薬効を発揮し治療効果を高めることができるかと、苦心して研究した跡が見てとれます。

 これを先行訳は原文のまま「鹿茸酒洗酥灸・虎脛骨酒煮酥灸」などとしています。これだけ読んで意味がわかる方がどれほどいらっしゃるでしょうか?訳者さんは意味がわかって書かれたのでしょうか?

 東医宝鑑の、朝鮮半島で発行された版本の原文では「炙(あぶる)」という文字が全てこのように「灸」つまり「鍼灸」「お灸」の「灸」の文字を使っています。これはある種の医書では混同して用いられるようですが、本来は別の漢字です。

 実際に、日本で江戸期に発行された『訂正 東医宝鑑』では今号の部分のように「炙(あぶる)」の意味で用いられている「灸」は全て「炙」に直しており、「鍼灸」など、「灸(きゅう)」の意味で用いられている「灸」はそのまにしてあり、これらを明確に区別した上で訂正を施しています。

 江戸版の編者さんはこの違いを認識して、混同することは絶対になかった、つまり、当たり前ではありますが本文をきちんと読み、内容を吟味した上で発行していることがわかります。だからこそ『訂正』と自信をもって表題に上乗せしたのでしょう。

 ちなみにこれを反映してメルマガの解説では原文から断句までを朝鮮版に依拠した「酥灸」、訓読ではこれを訂正した江戸版に依拠した「酥炙」と表記し、現代語訳つまり私の訳文では、これらをふまえた上で私もこの「炙る」の字を採用した、という表明も含めて「炙る」の文字を使っています。こんな細かい点にも気を配って書いているわけです、そんなところも読みとってくださいね(笑)。

 先行訳の「鹿茸酒洗酥灸・虎脛骨酒煮酥灸」は原文をそのままにしており間違いとは言えませんが、「炙(あぶ)る」が「灸(きゅう)」のままになっている点、さらにこのままでは内容がなんだかよくわかりにくい点などで、よい訳とは言えないでしょう。これも先行訳をお持ちの方は補足していただきたいと思います。


 ◆ 編集後記

 「陰陽倶虚用藥」の処方解説、今号も長さの都合でふたつお届けしました。

 以前に書いたように先行訳の誤りを正し省略を補足することもこのメルマガの使命のひとつと捉えて執筆するようになり、毎号先行訳の批判になってしまっていますが、これも以前に書いたように先行訳を貶める意図は全くなく、誤っている点は正すことが先行訳を読ませていただいた恩返しであり、また分野の発展にも寄与するという観点から行っています。

 ここまで読まれた方は先行訳があまりに省略や誤りが多くて驚かれていることと思います。大きな難点は先行訳本にはどこを省略したかの記載がないため省略されている部分といない部分との判別がつかない点です。

 さらに当たり前ながら誤訳はもっとタチがよくなく、省略部分は原文と単純比較すれば抜けたところがすぐにわかるわけですが、誤訳に関しては原文の内容まで踏み込んではじめて気付くのでしっかり読まないと誤訳だと気付けないというさらなる難点があり、全体としてこのような多大かつ複雑な難点を抱えてしまっています。

 解説の都合で現在は虚勞の部分を読んでいますが、もし先行訳をお持ちで率先して検討してみたい部分、この部分を読んだけど原文ではどうなっているのか、訳にどれだけの省略や誤りがあるのか、気になるところがおありの方は、お便りをくださればその部分を優先的に読むことも可能です。

 メルマガは配信スタンド「まぐまぐ!」さんを通じて配信されていますが、配信されたメールに直接返信すると発行者である私のもとにメールが届くという便利なシステムになっています。

 優先的に読みたい部分がおありの方は、無記名でも結構ですのでメールをくださればそちらを先に読みたいと思います。

 読解の順序は便宜的に決めたものですので、ある程度のまとまりはつけつつも、読者さまのご要望次第、また私の気分次第で読む箇所をフレキシブルに選んで配信したいと考えています。
                     (2015.10.03.第141号)
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  ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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