メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第332号「歸元散」(内景篇・精)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第332号
○ 「歸元散」(内景篇・精)
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
こんにちは。「夢泄屬心」に挙げられた具体的な処方のうち「歸元散」
です。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「歸元散」p83 下段・内景篇・精)
歸元散
治夢遺日久氣下陷宜升提腎氣以歸元人
參白朮白茯苓遠志酸棗仁炒麥門冬黄柏
知母二味並童便炒〓頭實蓮花蘂枸杞子陳皮(〓奚隹)
川〓各五分升麻甘草各二分半右〓蓮肉三箇(〓くさかんむり弓)
(〓坐りっとう)
棗子一枚水煎
空心温服回春
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
歸元散
治夢遺日久、氣下陷、宜升提腎氣以歸元。
人參、白朮、白茯苓、遠志、酸棗仁炒、麥門冬、黄柏、
知母二味並童便炒、〓(奚隹)頭實、蓮花蘂、枸杞子、
陳皮、川〓(くさかんむり弓)各五分、升麻、
甘草各二分半。右〓(〓坐りっとう)、蓮肉三箇、
棗子一枚、水煎、空心温服。回春。
●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)
▲訓読▲(読み下し)
歸元散(きげんさん)
夢遺(むい)日(ひ)久(ひさ)しくして、
氣(き)下陷(かかん)するを治(ち)す、
宜(よろし)く腎氣(じんき)を升提(しょうてい)して
以(もっ)て元(げん)に歸(き)すべし。
人參(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、
白茯苓(びゃくぶくりょう)、遠志(おんじ)、
酸棗仁(さんそうにん)炒(い)り、麥門冬(ばくもんどう)、
黄柏(おうばく)、知母(ちも)二味(にみ)並(ならび)に
童便(どうべん)炒(い)り、〓(奚隹)頭實(けいとうじつ)、
蓮花蘂(れんかずい)、枸杞子(くこし)、陳皮(ちんぴ)、
川〓(くさかんむり弓)(せんきゅう)各五分(かくごぶ)、
升麻(しょうま)、甘草(かんぞう)各二分半(かくにぶはん)。
右(みぎ)〓(〓坐りっとう)(きざみ)て、
蓮肉(れんにく)三箇(さんこ)、棗子(そうし)一枚(いちまい)、
水煎(すいせん)して、空心(くうしん)に温服(おんぷく)す。
回春(かいしゅん)。
■現代語訳■
帰元散
夢精が長期にわたり気が下陥する者を治する。
この者には腎気を上昇させ元に帰す(帰元)べきである。
人参、白朮、白茯苓、遠志、酸棗仁(炒)麦門冬、
黄柏と知母(童便に浸し炒る)、〓(奚隹)頭実、蓮花蘂、
枸杞子、陳皮、川〓(くさかんむり弓)各五分、
升麻、甘草各二分半。
以上を刻み、蓮肉三個、大棗一枚を加え、
水煎し、空腹時に温服する。『回春』
★ 解説 ★
「夢泄屬心」に説かれた処方のよっつめ「帰元散」です。現代的には少しわかりにくいですが、前号の保精湯と同様、名称にそのまま効用が織り込まれており、なおかつ本文にその旨が説かれています。
先行訳では生薬解説前の部分をこう訳しています。
夢泄がひどく気力がなくなったときに服用する。
としています。つまり原文の「日久」を「ひどく」、「氣下陷」を「気力がなくなった」とし、さらに「宜升提腎氣以歸元」の部分をまるまる省略していることになります。
これらは全て合格点には遠い解釈と訳と言わざるを得ないようです。
なぜかと言いますと、
原文では「下陷」と「升提」とが対になっていることが読み取れます。 ですので「気が下陷する症状」に対して「腎気を上昇させ」、「歸元(元に帰す)」する、というのがこの文章の趣旨であり、また処方の名称の説明でもあるのですから、「下陷」と「升提」との対が明確になっていて、さらに処方名の元である「帰元」が文章に織り込まれつつ説明されていることが、正しい解釈と翻訳の前提になります。
先行訳はこの点全て不明瞭、もしくは省略があるため初めから読めない、というわけです。
◆ 編集後記
「夢泄屬心」の処方のよっつめ「歸元散」です。
前号同様配信が日曜日になりましたが、週一配信ペースを保てています。
(2019.09.08.第332号)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇