メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第166号 腎虚薬処方「小安腎丸」─「虚労」章の通し読み ─
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第166号
○ 腎虚薬処方「小安腎丸」
─「虚労」章の通し読み ─
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。さらに腎虚薬処方解説の続きです。前後の長さの都合で今号は処方ひとつでお届けします。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「小安腎丸」 p450 下段・雜病篇 虚勞)
小安腎丸
治虚勞腎氣冷憊夜多〓濁漸覺羸痩面(〓さんずい旋)
黒目暗耳鳴牙齒〓痛香附子川練子各(〓虫主)
半斤用塩二兩水二升同煮候乾〓焙茴香炒六(〓坐りっしんべん)
兩熟地黄四兩川烏炮川椒炒各二兩右爲末酒
糊和丸梧子大空心塩湯
或温酒任下三五十丸得效
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
小安腎丸
治虚勞、腎氣冷憊、夜多〓(さんずい旋)濁、漸覺羸痩、面黒目暗耳鳴、
牙齒〓(虫主)痛。香附子、川練子各半斤。用塩二兩、水二升同煮候乾、
〓(坐りっしんべん)焙。茴香炒六兩。熟地黄四兩。川烏炮、川椒炒各二兩。
右爲末、酒糊和丸梧子大、空心、塩湯或温酒任下三五十丸。『得效』
●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)
特になし
▲訓読▲(読み下し)
小安腎丸(しょうあんじんがん)
治虚勞(きょろう)、腎氣冷憊(じんきれいはい)、
夜(よる)〓(さんずい旋)濁(せんだく)多(おお)く、
漸(ようや)く羸痩(るいそう)を覺(おぼ)え、
面黒(めんくろ)く目暗(めくら)く耳鳴(みみな)り、
牙齒〓(虫主)痛(しがしゅつう)。
香附子(こうぶし)、川練子(せんれんし)各半斤(かくはんきん)。
塩二兩(しおにりょう)、水二升(みずにしょう)を用(いて)
同(おな)じく煮(に)乾(かわ)くを候(まち)て、
〓(坐りっしんべん)(きざ)み焙(あぶ)る。
茴香炒(ういきょうしゃ)六兩(ろくりょう)。
熟地黄(じゅくぢおう)四兩(よんりょう)。川烏炮(せんうほう)、
川椒炒(せんしょうしゃ)各二兩(かくにりょう)。
右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、
酒糊(しゅこ)に和(わ)して
梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、
空心(くうしん)、塩湯(しおゆ)或(ある)ひは
温酒(おんしゅ)にて任(まか)せ下(くだ)すこと
三五十丸(さんごじゅうがん)。『得效(とくこう)』
■現代語訳■
小安腎丸(しょうあんじんがん)
虚労により腎気が冷え、疲弊し、
夜間に尿が増えまた色は濁り、次第に羸痩し、
顔色は黒く、目は暗く耳鳴がし、
虫歯で痛む者を治する。
香附子、川練子各半斤を塩二両と水二升とで煮つめ、
後に刻んで焙る。茴香(炒)六両。
熟地黄四両。川烏(炮)、川椒(炒)各二両。
以上を粉末にし、酒糊に混ぜて梧桐の種の大きさに丸め、
空腹時に塩湯または温酒にて三十から五十丸を服用する。『得效』
★解説★
腎虚薬の処方解説の続きです。しばらく名前の似たものが続き、効用も似ているであろうことが伺われます。それぞれの使い分けは解説と、また構成生薬を具体的に見ていくことで判別していくことを期しているのでしょう。
今までに無い表現として「夜多〓濁(夜〓(さんずい旋)濁多く」があります。これは訳に書いたように夜間に尿量が増えてかつ色が濁るという意味です。
これはさらに前の「腎氣冷憊(じんきれいはい)」が原因と考えられ、そしてその腎氣冷憊の原因が虚労というわけです。
また、「牙齒〓(虫主)痛(がししゅつう)」つまり虫歯が痛むなど腎と関係なさそうな事項もありますが、これはやはり東洋医学的な発想に基づいている、または元々このような症状があったところから割り出された発想とも言えます。
前号でも別の部分との関連について書きましたが、これも腎臓、牙齒などの独立した章があり、そちらを参照することで理解を深めることができます。
先行訳はこれまたいくつか問題点がありますが、上の「夜多〓濁(夜〓(さんずい旋)濁多く」の部分を「小便が濁り」とだけ記している、つまり「夜」の部分を省いています。
これは原文の趣旨からいえばいつでも尿が出て濁るわけではなく、特に夜間ということを言っていますので、「夜」はたった一文字ながら看過してはならない部分でしょう。
そしてもう一点、これも上の「牙齒〓(虫主)痛(しがしゅつう)」を 「牙齒がうく症」としている、つまり「〓(虫主)痛」を「うく」と解釈しているわけです。
歯が浮くのと痛いのとはかなり違いますよね。ここは腎虚による症状ですので、やはり痛みでないと筋が通らないのではと思います。この辺りの違いは「牙齒」の章に詳述されており、同じ歯の痛みでも様々な原因の違いが説かれています。ここでそれらを読むことで、同じ歯痛でも原因が違い、原因が違えば治療法も違ってくる、ということが理解されるという道理になっています。
なお、今号から生薬の炮製の記載を「茴香(炒)」のようにしました。
今までは「炒った茴香」「酒洗した牛膝」などといちいち書いてきましたが、今後はこれを省き、「茴香(炒)」「牛膝(酒洗)」のようにしたいと思います。
◆ 編集後記
腎虚薬処方の続きです。次の長さの都合で今号はひとつだけお届けしました。
(2016.04.30.第166号)
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