メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第138号「陰陽倶虚用藥」(「加味十全大補湯」他)─「虚労」章の通し読み ─

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第138号

    ○ 「陰陽倶虚用藥」(「加味十全大補湯」他)
      ─「虚労」章の通し読み ─

      ◆ 前号の訂正

      ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。少し短いですが、
 次の「固真飲子」がとても長いですので、今号は短めの二つでお届けします。

 解説の前に、前号解説に誤りがありましたので先にそれを訂正したいと思います。


 ◆前号の訂正

 前号の解説部分に誤りがありました。お気づきの方はいらっしゃいますか?
 
 「雙和湯」の「心力倶勞(心力倶に勞し)」を取り上げてこれが「心」と
 「体」との二つの要素だと読んでみました。そしてこれが「陰陽倶虚用藥」として陰陽を共に補うという発想がベースになっていることを書いたのですが、その際に『「心」が「陰」「体」が「陽」」』と書きました。ここに誤りがあります。

 これは反対で「心は陽」「体は陰」に分類される要素なのですね。

 では「心は陰」「体は陽」はどうして違うのでしょうか?ちょっと考えると、明確に形があり触れることができる体が陽で、目に見えない心のほうが陰のように感じますよね。

 ところが中国医学の発想では逆で、物質的なものは陰、そうでないものは陽、と分類されるのです。

 「雙和湯」の「心力倶勞(心力倶に勞し)」の次に挙げられていた
 「氣血皆傷(氣血皆傷し)」も同じ原理で書かれていますが、これも「氣」が陽で「血」が陰です。物質的な血が陰で、目に見えない、エネルギー的な氣(気)が陽に分類されるわけです。

 
 これは易の思想を考えるとわかりやすいです。易の八卦で純陽は「乾(けん)」ですが、これは陽爻(こう)を三つ重ねて形成されて、「乾為天(けんいてん)」と呼びます。

 反対に純陰は陰爻を三つ重ねて同様に「坤(こん)」で「坤為地(こんいち)」です。

 つまり目に見えない天が陽、形ある地が陰です。陰陽の諸概念はここから派生したと考えられます。逆に諸概念を分類したら二つの原理に分類ができて、形あるものとしての代表を地、反対を陽としたと言えるかもしれません。

 ちなみに、「乾為天(けんいてん)」「坤為地(こんいち)」は馴染みが薄そうに見えますがそうではなく、今でも「乾坤一擲(けんこんいってき)」 などと言いますし、もっと身近では韓国の国旗にこの両者が登場していますね。

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陽爻(こう)を三つ重ねた「乾」、陰爻を三つ重ねた「坤」、がともに
 そのままの図柄で描かれています。

 さらにちなみに、韓国の国旗では棒が三つ重なった図柄がよっつありますが、そのうちの二つが上記の天と地を表す乾坤です。
 あとの二つは「水」と「火」を表しています。三本の真中が一本の棒(陽爻)で、上と下が、切れて二つ(陰爻)になっているほうが「水(坎為水)」です。
 これは漢字の「水」を横にして考えると覚えやすいです。反対側が「火(離為火)」です。易の八卦のうちのよっつです。

 乾坤は、これほどに東洋思想の根幹を支える概念として重視されてきたわけです。


 この東医宝鑑の別の部分、冒頭の「身形」の「保養精氣神」の項にも
 「魂は陽なり、魄は陰なり」とあります。目に見えない魂は陽、身体が陰、というわけで同じ原理に基づいています。東医宝鑑の著作全体がこの原理に貫かれていると言ってよく、広く言えば東洋思想全体がこの原理で貫かれていると言っても過言ではないかもしれません。

 
 この陰陽の分類や考え方はちょっと複雑で、例えば上では体を陰と見ましたが、体全体に視点を移すと、部位によって陰と陽とがわかれます。
 また、あるところから見たら陰であるものが、視点を変えたら陽、という考え方もあったり、相互に入れ替わったり、なかなか複雑でわかりにくいのですが、上に書いたような大本の原理を押えることができればさほど難しくはないです。

 ここでは陰陽について詳細に語ることはできませんが、機会があればこのトピックで特集号など配信してみたいと考えています。

 ともあれ、長くなりましたが、前号の「心は陰」「体は陽」が誤りで、
 「心は陽」「体は陰」が正しいと、お詫びの上訂正いたします。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「陰陽倶虚用藥」 p447 上段・雜病篇 虚勞)


加味十全大補湯

治虚勞氣血倶損漸成勞〓即十(〓やまいだれ祭)
        全大補湯加柴胡一錢黄連五分
  服法同
  上丹心


 黄〓十補湯(〓くさかんむり氏)
 
      補虚勞養血氣白芍藥一錢半黄〓當(〓くさかんむり氏)
      歸熟地黄茯神各七分人参白朮酸棗
  仁半夏陳皮五味子肉桂烏藥麥門冬甘草各五
  分木香沈香各二分右〓作一貼入薑五棗二水(〓坐りっとう)
  煎服
  直指


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


加味十全大補湯

治虚勞、氣血倶損、漸成勞〓(やまいだれ祭)、

  即十全大補湯加柴胡一錢、黄連五分、服法同上。『丹心』


 黄〓十補湯(〓くさかんむり氏)
 
  補虚勞、養血氣。

  白芍藥一錢半。黄〓(くさかんむり氏)當歸、

  熟地黄、茯神各七分。人参、白朮、酸棗仁、半夏、

  陳皮、五味子、肉桂、烏藥、麥門冬、甘草各五分。

  木香、沈香各二分。右〓(坐りっとう)作一貼、入薑五棗二、

  水煎服。『直指』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  雙(ソウ)=双


 ▲訓読▲(読み下し)


加味十全大補湯

虚勞、氣血倶に損し、漸(ようやく)く

  勞〓(やまいだれ祭)と成るを治す、

  即ち十全大補湯に柴胡一錢、黄連五分を加ふ、

  服法上に同じ。『丹心』


 黄〓十補湯(〓くさかんむり氏)
 
  虚勞を補し、血氣を養ふ。

  白芍藥一錢半。黄〓(くさかんむり氏)、當歸、

  熟地黄、茯神各七分。人参、白朮、酸棗仁、半夏、

  陳皮、五味子、肉桂、烏藥、麥門冬、甘草各五分。

  木香、沈香各二分。右〓(坐りっとう)みて一貼と作し、

  薑五棗二を入れ、

  水煎し服す。『直指』


 ■現代語訳■


加味十全大補湯(かみじゅうぜんだいほとう)

虚労して気血が共に損し、

  次第にく勞〓(やまいだれ祭)(ロウサツ)となる者を治する。

  これは十全大補湯に柴胡一銭、黄連五分を加えたものである。

  服法は同上。『丹心』


 黄〓十補湯(〓くさかんむり氏)(おうぎじゅっぽとう)
 
  虚労を補して血と気とを養う。

  白芍薬一銭半。黄〓(くさかんむり氏)、当帰、

  熟地黄、茯神各七分。人参、白朮、酸棗仁、半夏、

  陳皮、五味子、肉桂、烏薬、麦門冬、甘草各五分。

  木香、沈香各二分。以上を刻んで一貼とし、

  生姜五片、大棗二枚を入れて水煎し服す。『直指』

 
 ★解説★
 
 「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。次の「固真飲子」が長いので今号は短めの二つのみを取り上げることにします。

 これはもうほとんど生薬とこれまでの定型文の繰り返しで読みは簡単でしょう。

 これまた先行訳は省略があり、加味十全大補湯の末尾「服法同上(服法は上に同じ)」の部分を省略しています。「上に同じ」の「上」とは前号で読んだ「十全大補湯」のことで、この「加味十全大補湯」の基礎となっている「十全大補湯」に服法も準じていること、両者の関連を表す重要な文句です。

 そもそも服法の記述を省略してしまったらどうやって服用したらよいかわからず、実用に供しません。やはりここは省略してはいけない部分でしょう。

 先行訳はこれまで見た部分でもわかるように、どこを残しどこを省略するという明確な基準がないようです。そして省略した部分に(略)など略したことを明記してありませんので読み手には省略があるのかないのかわからず、全体の実用度と翻訳の信頼度がとても低くなってしまっています。誤りを流布することは分野にとっても害となりますので、このメルマガでは先行訳の誤りを正し省略を補うことも使命のひとつと標榜したいと思います。


 ◆ 編集後記

 「陰陽倶虚用藥」の具体的な処方解説の続きです。本文が短いですが、前号の訂正で長くなり全体ではかなりの長さになりました。
 
 訂正の解説で触れた陰陽の分類はシンプルですが面白くまた奥深い思想、
 または実践原理で、活用次第でいろんな分野に活用、応用することができます。上に書いたように中国を元とする東洋思想はこの陰陽原理に負うところとても大です。中国医学などはこれを外しては成り立たない分野と言ってもよいかもしれません。

 上に書いたようにいつかはこの陰陽の解説をテーマに特集号を組むこともあるかもしれません。ただこれも上に書いたように東医宝鑑全体がこの原理で貫かれていますので、原文を読み進めること自体が陰陽原理を理解する手段のひとつともいえ、このまま淡々と原文を読み、原文に則しながら陰陽原理を読み解いていったほうが効率がよく、また実践的とも言えそうです。

                     (2015.09.12.第138号)
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  ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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