メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第357号「精滑脱屬虚」(内景篇・精)16
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◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
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第357号
○ 「精滑脱屬虚」(内景篇・精)
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。「精滑脱屬虚」の処方欄に挙げられた最後
「治小便白濁出髓條方」です。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「治小便白濁出髓條方」p85 上段・内景篇・精)
治小便白濁出髓條方
酸棗仁炒白朮人參白茯苓
破故紙益智仁茴香牡蠣煆
各等分右爲末加青鹽酒糊和丸梧
子大空心温酒或米飮下三十丸心法
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
治小便白濁出髓條方
酸棗仁炒、白朮、人參、白茯苓、破故紙、益智仁、
茴香、牡蠣煆各等分。右爲末、加青鹽酒糊和丸梧子大、
空心、温酒、或米飮下三十丸。心法。
●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)
▲訓読▲(読み下し)
小便白濁(しょうべんはくだく)髓條(ずいじょう)を
出(いだ)すを治(ち)する方(ほう)
酸棗仁(さんそうにん)炒(い)り、白朮(びゃくじゅつ)、
人參(にんじん)、白茯苓(びゃくぶくりょう)、
破故紙(ほごし)、益智仁(やくちにん)、
茴香(ういきょう)、牡蠣(ぼれい)煆(や)き
各(をのをの)等分(とうぶん)。
右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、
青鹽(あおじお)を加(くわ)へ酒糊(しゅこ)に
和(わ)し梧子(ごし)の大(おほひ)さに丸(まる)め、
空心(くうしん)に、温酒(おんしゅ)、或(あるひ)は
米飮(べいいん)にて下(くだ)すこと三十丸(さんじゅうがん)。
心法(しんぽう)。
■現代語訳■
小便が白濁し髓状のものが混ざる者を治する方
酸棗仁(炒)、白朮、人参、白茯苓、破故紙、益智仁、
茴香、牡蠣(煆)、各等分。
以上を粉末にし、青塩を加え酒糊に混ぜて、
青桐の種の大きさに丸め、空腹時に温酒または米のとぎ汁で
三十丸を服用する。『心法』
★ 解説 ★
「精滑脱屬虚」に挙げられた最後の項目「治小便白濁出髓條方」です。 これには処方名がなく、経験方として伝わってきた処方のようです。名前がなくても効果を認められて最後に採用されたと考えられそうです。
まず問題がその症状にあり、「治小便白濁出髓條方」、訓読すると
小便白濁髓條を出すを治する方
となります。初めの「小便白濁」は良いでしょう。ここまでの流れからも読み解けますね。
では次の「出髓條」は?「髓條」は「髄」と「條」とに分けられそうで、 「條」は細い枝、また筋などを意味します。つまり「髄」と「條」とで「髄のようなすじ」と読めそうです。では「髄」はというと通常は骨髄ですが、骨髄が尿に混ざることはないはずで、ですので、ここの読みとしては、尿に混ざった白い物質を骨髄と認識しての表現、または訳に記したように、髄状のものが混ざった状態、と考えられそうです。
韓国の訳では骨髄と訳すものが多いようです。実際にはない現象ですが、文の作者さんが上記のように骨髄が混ざった状態と認識していたら誤訳ではなく、正しい訳となりますが、判定の方法が現状ではありませんため保留としたいと思います。
引用元の『心法』つまり『丹渓心法』を辿るとほぼ同じ簡潔な記述ですが、後の文献ながら清代の『類證治裁』には、「又精傷白濁、小便推出髓條、痛不可忍者、乃由房事失節。宜使出髓條方」と、より具体的に症状を記していて、尿の排出にかなりの痛みを伴うこともわかります。
ただ、東医宝鑑、もしくは丹渓心法の説く「髄條」が出る症状と、類證治裁が説く髄條との症状が同じとは限らず、これも考察の一枚のカードにはなりますが、決定的な材料にはならないところです。
◆ 編集後記
「精滑脱屬虚」の最後、「治小便白濁出髓條方」です。これでこの項目がようやく読み終わりました。
次は続く「白淫」を読む予定です。
(2020.03.15.第357号)
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