メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第108号「玉井水(玉の産出する場所から湧き出る水)」「碧海水(海の塩からい水)」

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  第108号

    ○ 「玉井水(玉の産出する場所から湧き出る水)」
     「碧海水(海の塩からい水)」

      ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説          
      ◆ 編集後記


           

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 こんにちは。水の項目の15、16番目の「玉井水」「碧海水」です。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「玉井水」「碧海水」 p679 下段・湯液篇 巻一)


玉井水

           性平味甘無毒久服令人
   體潤毛髮不白出諸有玉處山谷中山有玉則
  草木潤猶潤於草木何況於人乎今
  人近山多壽者豈非玉石之津乎本草


 碧海水

       性小温味〓有小毒煮浴去風〓疥(〓酉咸)(〓やまいだれ蚤)
   癬飲一合吐下宿食臚脹○當取大海中味〓(〓酉咸)
  色碧之
  水本草


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


玉井水

  性平、味甘、無毒。

  久服令人體潤、毛髮不白。

  出諸有玉處山谷中、山有玉則草木潤、

  猶潤於草木、何況於人乎。

  今人近山多壽者、豈非玉石之津乎。『本草』


 碧海水

  性小温、味〓、有小毒。(〓酉咸)

  煮浴、去風〓疥(〓やまいだれ蚤)癬。

  飲一合、吐下宿食臚脹。

  當取大海中味〓(〓酉咸)色碧之水。『本草』


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)


 語法

  猶、何乎(A猶(動詞)、何B乎)
      (Aスラなほ(動詞)ス、いわんヤBヲや)
       Aでさえ(動詞)する、ましてやBならなおさらである

  豈(あニ)推量を表す用法、あるいは、おそらく


語釈

  碧(ヘキ)みどり、あお、あおみどり、青い

  〓(やまいだれ蚤)(ソウ)皮膚病の一種

  風〓(〓やまいだれ蚤)(フウソウ)隠疹、蕁麻疹

  〓(酉咸)(カン)=鹹 ←普通はこの文字を用いる。しおからい

  臚(ロ、リョ)腹の前方の肉

  臚脹(ロチョウ)腹部の脹れ、腫脹


 ▲訓読▲(読み下し)


玉井水

  性平、味甘く、毒無し。

  久しく服すれば人をして體潤ほひ、

  毛髮を白からざらしむ。

  諸(もろもろ)の玉有る處の山谷中に出ず、

  山玉有るときは則ち草木潤ほふ、

  猶ほ草木を潤す、いわんや人においてをや。

  今人山に近くして壽多きは、豈に玉石の津にあらずや。『本草』


 碧海水

  性小温、味(〓酉咸)(しほから)く〓、小毒有り。

  煮浴して、風〓(〓やまいだれ蚤)、疥癬を去る。

  一合を飲めば、宿食臚脹を吐下す。

  當に大海中味〓(〓酉咸)く色碧の水を取るべし。『本草』


 ■現代語訳■


玉井水(玉の産出する場所から湧き出る水)

  性平、味甘、無毒。

  久しく飲むと人の身体を潤し、

  毛髮を白くすることがない。

  これは山谷の玉を産する場所に出る水である。

  山に玉があると草木でさえもが潤う。

  草木ですら潤うのであるから、人では尚更である。

  今でも山の付近に長寿の者が多いのは、

  玉石の水の効果によると思われる。『本草』


 碧海水(海の塩からい水)

  性小温、味(〓酉咸)、小毒を有する。

  沸かして浴せば、風〓(〓やまいだれ蚤)、疥癬を治癒する。

  一合飲めば、宿食による臚脹を吐きまたは下すことができる。

  大海中の味が塩からく、色は碧の水を採るとよい。『本草』

 
 ★解説★
 
 水の15、16番目の「玉井水」「碧海水」です。

前号分は家の屋根から落ちる水でしたが、ここでは山と海と場所が移ってい
 ます。完全に季節の水から離れて別の分類に入ったことがわかります。


原文には


 ・猶~何況於―、なほ~す、いわんや―においてをや)
 
 ・豈非 あに~ならずや


 また、いわゆる再読文字の


 ・當 まさに~すべし


 など、漢文の文法書では必ず取り上げられる定番の語法満載の部分です。

 こうした定型文は文法書で通り一遍に読んでもなかなか頭に入らないもので
 すが、このような実際の文章で読むと印象に残りやすいですので、文法書は
 軽く目を通すぐらいの読みで済ませて、実際の文章を読んでいくのが読解力
 をつける実用的な近道のように思います。その文章も自分が興味のある、
 または読むことを必要とする分野で読むのが一番です。

 ただ、いきなり原文に取りついても実際の原文は句読点ひとつない白文です
 ので、このメルマガのような原文から掲載し断句し、かつ語法的な解説をし
 てある文から入って読解のシュミレーションをすることで、原文に目を慣ら
 し、読解の勘や実際の語法を身につけていく、というのが原文読解の近道で
 はと考えます。

 
 内容は特に解説の必要はないでしょう。「玉」は中国で非常に珍重されたも
 のですが、このような効用もあることが読み取れます。美しいだけでなく実
 際の効用の観点からも珍重されたのではと思わせる記述です。

 上で触れたように「猶~何況於―」の構文が使われて、草木でさえ潤うのだ
 から、人ではなおさらだ、という表現が面白いところです。

 前号で表題の後のハングル表記について触れましたが、ここでも通常の現代
 韓国語の知識では読めない文字と文章が登場しています。「湧き出た」と訳
 した部分も、文字も表現も現代語辞典では解決できません。

 前号で触れた『国語大辞典』を引いたところ古語として項目があり、しかも
 この東医宝鑑の文がまるまる引用文として挙げてありました。つまり大辞典
 の項目の引用に格好の用例と文章ということですね。メルマガではハングル
 を掲載できないのが残念ですが、ここで読んでいるのはそんな貴重な文章な
 のです。

 
 二つ目の碧海水では皮膚によいと言っており、これは今の日本でも海水が皮
 膚によいとは提唱されて実際に日常に取り入れている方々もいらっしゃると
 思います。伝統が受け継がれていると考えることもできるでしょうが、世界
 中でそのような考えがあり、また実際の効果もあるのでしょう。

 この碧海水に限らず紹介されている水を現代的な観点から検証し成分分析を
 してみることなども意義深いのではと思います。
 

 ◆ 編集後記

 原文が短いため1号に項目をふたつ紹介しつつ、いつの間にか水の項目も約
 半分をご紹介することができました。

 ひとつひとつの項目は短いのですがそれぞれが多大な文化背景を持った内容
 と記述方法であることを実感し、改めて分野の奥深さを思います。

                 (2015.01.24.第108号)
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         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com
      
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