メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第123号「虚勞治法」―「虚労」章の通し読み ―
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◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
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第123号
○ 「虚勞治法」
―「虚労」章の通し読み ―
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。「虚労」章の通し読み、「虚勞治法」の項です。
前号以上に長いですので、半分に切って読むことにします。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「虚勞治法」 p444 下段・雜病篇 虚勞)
虚勞治法
勞倦之疾百脉空虚非滋潤粘膩之物以養
之不能實也古方用鹿角膠阿膠牛乳飴糖
酥酪糖蜜人參杏仁當歸熟〓之類正此意耳或(〓草かんむりに下)
者妄施金石燥熱等藥以致氣血乾涸心腎不交
故火炎於上爲痰嗽爲喀血爲口乾爲五心熱水
走於下爲遺精爲赤白濁爲小便滑數誤矣哉直指
○虚損皆因水火不濟火降則血脉和暢水升則
精神充滿但以調和心腎爲主兼補脾胃則飮食
進而精神氣血自生矣入門○治損之法損其肺者
益其氣損其心者調其榮血損其脾者調其飮食
適其寒温損其肝者緩其中損其腎者益其精難經
○損其肝者緩其中謂調血也問曰當用何藥以
治之答曰當用四物湯以其中有芍藥故也東垣
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
虚勞治法
勞倦之疾、百脉空虚、非滋潤粘膩之物以養之、不能實也。
古方用鹿角膠、阿膠、牛乳、飴糖、酥酪、糖蜜、
人參、杏仁、當歸、熟〓之類、正此意耳。(〓草かんむりに下)
或者妄施金石燥熱等藥、以致氣血乾涸、心腎不交、
故火炎於上、爲痰嗽、爲喀血、爲口乾、爲五心熱、
水走於下、爲遺精、爲赤白濁、爲小便滑數、誤矣哉。『直指』
虚損皆因水火不濟、火降則血脉和暢、水升則精神充滿。
但以調和心腎爲主、兼補脾胃則飮食進而精神氣血自生矣。『入門』
治損之法、損其肺者、益其氣、損其心者、調其榮血。
損其脾者、調其飮食、適其寒温。損其肝者、緩其中。
損其腎者、益其精。『難經』
損其肝者、緩其中、謂調血也。問曰、當用何藥以治之。
答曰、當用四物湯、以其中有芍藥故也。『東垣』
●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)
語(字)釈
勞倦(ロウケン)勞倦傷、「内傷」の章に項目あり。
〓(草かんむりに下)(コ、ゴ、カ、ゲ)地黄
▲訓読▲(読み下し)
虚勞治法
勞倦の疾は、百脉空虚す、滋潤粘膩の物
以てこれを養ふにあらざれば、實することあたはざるなり。
古方に鹿角膠、阿膠、牛乳、飴糖、酥酪、糖蜜、
人參、杏仁、當歸、熟〓(草かんむりに下)の類を用いるは、
正にこの意のみ。
或ひは妄りに金石燥熱等の藥を施して、以て氣血乾涸し、
心腎交はらざることを致す、
故に火上に炎(もへ)て、痰嗽を爲し、喀血を爲し、
口乾を爲し、五心熱を爲す、
水下に走りて、遺精を爲し、赤白濁を爲し、小便滑數を爲し、
誤まれるかな。『直指』
虚損は皆水火の不濟に因(よ)る、火降るときは則ち血脉和暢し、
水升るときは則ち精神充滿す。
但だ心腎を調和するを以て主と爲し、兼て脾胃を補するときは則ち
飮食進みて精神氣血自(おのずか)ら生ず。『入門』
損を治するの法、その肺を損する者は、その氣を益す。
その心を損する者は、その榮血を調ふ。
その脾を損する者は、その飮食を調へ、その寒温に適ふ。
その肝を損する者は、その中を緩くす。
その腎を損する者は、その精を益す。『難經』
その肝を損する者は、その中を緩くすとは、血を調ふを謂ふなり。
問ふて曰く、當に何(いず)れの藥を用い以てこれを治すべきか。
答へて曰く、當に四物湯を用ゆべし、
その中芍藥有るを以ての故なり。『東垣』
■現代語訳■
虚勞治法
勞倦傷は全ての脈が空虚になるゆえ、滋潤粘膩の性を持つ薬物を
用いて養わなければ実することができない。
古方に鹿角膠、阿膠、牛乳、飴糖、酥酪、糖蜜、
人參、杏仁、当帰、熟地黄などを用いのはまさにこのためである。
妄りに金石や燥熱の性を持つ薬を投じれば気血が枯渇し、
心腎不交の証に至る。
ゆえに火が上に燃え、痰嗽、喀血、口乾、五心熱を呈し、
水は下に走り、遺精、赤白濁、小便滑数を呈してしまう。
誤治の甚だしいものである。『直指』
虚損は全て水火が濟(とお)らないことに起因し、
火が降れば血脈は和暢し、水が昇れば精神が充満する。
先ず心腎を調和することを主として、二次的に脾胃を補すれば、
食欲を増し、精神気血全て自然に調うのである。『入門』
虚損を治する方法は、肺を損じた者は気を益する。
心を損じた者は栄血を調える。
脾を損じた者は飲食を調え、温度を調節する。
肝を損じた者は中(ちゅう)を緩くする。
腎を損じた者は、精を益する。『難経』
肝を損じた者は中を緩くするとは、血を調えることである。
問うて言う、どのような薬で治療すればよいか。
答えて言う、四物湯を用いるとよい。芍薬を含むゆえである。『東垣』
★解説★
「虚勞」の章、前号の「辨氣虚血虚陽虚陰虚」の次の「虚勞治法です。
いよいよ具体的な治療方法に解説が進んできました。文章が長いですので、
約半分で切りました。それでもかなり長いですね。
原文と訓読、さらに訳文を比べていただくと原文の断句でも13行ですが、
訓読も現代語訳も20行を超えています。いかに原文の漢語が簡潔に物事を
表しているかがわかります。
訳もなかなか難しいものが多く、簡潔なだけでなく漢字には一字で多義性
がありますので下手に訳すと原文の持つ意味を殺してしまいかねません。
例えば「和暢」の「和」など漢字としては難しくないですが「やわらげる」
「調和する」などの意味があり「和暢」の「和」はどちらも意味を含んで
いるように思い、どちらかに訳すと他のニュアンスを消してしまいそうで、
そのままにしておきました。
また「水火の不濟」なども、易経の「水火既濟」「火水未濟」などの語を前
提とした言葉と思い、これを「水と火が調和しない」などと訳してしまうと
易をベースとしているであろうことがわからなくなってしまいますので、訳
としてはこなれないですが、あえて「水火が濟(とお)らないことに」と
「濟」の文字を残した訳にしています。
これ以外にも専門用語なども「心腎不交」などどう訳しますか?
以前に触れたように翻訳の段階が数多く存在し、訓読程度で済ます段階から、
現代語に置き換えるレベル、また現代医学の概念で当てはめて訳語を考える
レベル、などなどです。
ただ、現代医学に当てはめると元の意義と違ってしまう可能性も高く、私の
訳はできるだけ原義を残し、解説や他の部分との参照で該当部分の元の意味
を浮かび上がらせる方法を取っていることは、既に触れたとおりです。
さて、内容ですがようやく具体的な薬名が出てきました。
また五臓の損にそれぞれ対応する治療方法が説かれています。肝の損だけ
「中(ちゅう)を緩くする」と、意味がわかりにくく、さらに他の文献の
引用で補っています。編者さんの引用、構成の意図がよくわかる好例と思い
ます。
また前号でも触れたようにこの部分も別の部分との相互参照で全体として
意味をなしており、冒頭の「勞倦」などは「内傷」の章にひとつの項目で
解説されており、そちらの参照を期しています。また薬物名が多く挙げられ、
最後に「芍薬」も出てきますが、これも薬物解説の「湯液篇」など他の部分
を読むことで、なぜ「芍薬」を含むと肝の損の治療に良いのか、などの理由
を調べることができるように、東医宝鑑が全体として構成されていることが
わかります。
ともあれ長いですがこれでもこの項の半分で、次号で残りの半分を読んでこ
の項全体を見ることができます。
◆ 編集後記
虚勞の章の続きです。どんどん文が長くなり、さすがに全部は多すぎて半分
に切ることにしました。これでも長いようですが、あまり切り過ぎると先に
進むのが遅くなり過ぎますので、これぐらいでのお届けとなりました。
今号部分など、文量としても内容としても訳が難しいものが多いです。
以前に先行訳はこの章でこの項目を含めて多くの項を省略していることを見
ましたが、文量や内容の難しさに鑑みると省略した理由がよくわかる気がし
ます。全体を詳細精確に訳していたら、おそらく当時では翻訳の発行はまず
不可能だったと思います。お読みの方も、この部分をご自分ならどう現代語
に訳すかをお考えいただきながら読まれると、また違った深さで原文が読め
ると思います。
次号はこの項の後半戦です。今号と同等の文量になります。
(2015.05.09.第123号)
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◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com
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