メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第102号「春雨水」(正月に初めて降った雨水)

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第102号

    ○ 「春雨水」(正月に初めて降った雨水)

                      ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説          
      ◆ 編集後記
         ◆ 次号の原文

           

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 こんにちは。水の項目の五つめ「春雨水」です。効用になかなか面白い
 ものが交じっていますよ。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「春雨水」 p679 上段・湯液篇 巻一)

 春雨水

    即正月雨水也以器盛接煎
   藥服之令人陽氣上升入門○正月雨水夫妻各
  飮一盃還房當即有子神效本草○其性始得春升
  生發之氣故可以煮中氣不足清氣不升之藥也
  正傳○清明水及穀雨水味甘以
  之造酒色紺味烈可儲久食物


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 春雨水

即正月雨水也。以器盛接、煎藥服之、

  令人陽氣上升。『入門』

  正月雨水、夫妻各飮一盃、

  還房當即有子、神效。『本草』

  其性始得春升生發之氣、故可以煮中氣不足、

  清氣不升之藥也。『正傳』

  清明水及穀雨水、味甘、以之造酒、

  色紺味烈、可儲久。『食物』


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)


 語法

  令(…をして~せしむ)使役用法。…に~させる

  當(当 まさに~すべし)当然、推定、肯定を表す。~するであろう

  可以(以て~すべし)可能、当然。~できる


語釈

  盛接(セイセツ)盛=もる、接=受け継ぐ、迎える

  儲(チョ、たくはふ)貯蔵する


 ▲訓読▲(読み下し)


  春雨水

即ち正月雨水なり。器を以て盛接し、

  藥を煎じてこれを服すれば、

  人をして陽氣上升せしむ。『入門』

  正月雨水、夫妻各々一盃飮みて、

  房に還れば即ち當に子有るべし、神效なり。『本草』

  その性始めて春升生發の氣を得、

  故に以て中氣不足にして、

  清氣升らざるの藥を煮るべきなり。『正傳』

  清明水及び穀雨水、味甘く、これを以て酒を造りて、

  色紺に味烈しく、久しく儲(たく)はうべし。『食物』


 ■現代語訳■


  春雨水(正月に初めて降った雨水)

即ち正月に降った雨水である。

  器に集め薬を煎じ服用することで、

  人の陽気を上升させることができる。『入門』

  正月雨水を夫妻がそれぞれ一盃飲み、

  同衾すれば直ちに子を授かるに神效がある。『本草』

  その性は始めて春の升・生・発の気を受けるがゆえに、

  中気不足で、清気が升らない症状の薬を煎じるによい。『正伝』

  清明水及び穀雨水は味が甘く、酒を造るのに、

  色が紺にして味も強く、長く貯蔵することが可能である。『食物』

 
 ★解説★
 
 水の5番目「春雨水」です。

 ここに引用された文では「即ち正月雨水なり」と言っていて期間がわかりに
 くいですが、ハングルで解説された、上の訳ではカッコで括った部分には
 「正月に初めて降った雨水」と言っていて、単に正月中に降った雨ではなく、
 「初めて」が重視されていることがわかります。

 前号では「大寒」が登場し、その時に「立春」という言葉も書きましたが、
 ここでは「正月」と言うより「立春」と言った方がわかりやすいでしょう、
 つまり立春に降った雨水ということです。

 前号で現在の日本にも大寒のお水取りという風習が残っていると書きました
 が、この立春に採った水も「若水(わかみず)」と言って珍重する風習があ
 り、この若水は邪気を除く効果があるとされます。

 ネットで調べてみるとこの「若水」の名を冠したホテル、学校、食堂、はて
 は浄水器などまであり、まだまだこの発想が日本でよく残っていることをう
 かがわせます。大寒の水同様、季節の水はその季節の力を持つという発想が
 今の日本にも残っていて、生活や思想をある程度左右しているわけです。

 前号の水は「臘雪水」でしたよね。前号で構成にも工夫がしてあると書きま
 したが、前号部分の「大寒」から「立春」にテーマが移っていることが読み
 取れ、季節の巡りで解説していることがわかります。そしてさらに前号で性
 味の配列の流れの意味に触れましたが、ここでも前号の「臘雪水」の「冷」
 に引き続いて、春という季節の特性を受けた水という点を重視していること
 も読み取れます。

 前号の「臘雪水」の適応がその大寒という季節ゆえの冷という性から導き出
 されていましたが、この「春雨水」も同様に立春の気を受けたところからの
 効用を見ていることがわかります。「回春」「春画」などという言葉もある
 ように、「春」にそちら方面の意味合いを持たせる発想があるのも面白いと
 ころですね。


 引用の中に夫婦が一緒に飲んで同衾すれば子供が授かるという興味深い記述
 があります。しかもご丁寧に「神效」という形容までつけて効果を強調して
 います。これなどはおまじない的な要素が強いと思いますが、「神效」はど
 こに起因しているのでしょうか、実際に効果があっての形容なのでしょうか。
 
 薬にはご存じのようにプラセボ効果という面白い現象があります。効果があ
 ると思いこんで服用することで、実際にはその薬効がない場合でも本当に効
 いてしまうという現象です。
 
 この場合は受胎という具体的な現象が必要なためプラセボが有効な事項では
 ないように思いますが、その気にさせるという前段階では効果があるのかも
 しれません。他にもまだ解明されていない「気」の観点から効果があるでしょ
 うか?なかなか面白い伝承と思います。


 最後の「清明水」「穀雨水」について本文では何の解説もありませんが、こ
 れも前号で触れた二十四節気に「清明」「穀雨」があり、同様にこの時の水
 ということでしょう。これは立夏の前の二つです。つまり、大寒、立春、清
 明、穀雨と季節、節気の流れで項目を立てていることもわかります。反対に、
 ここから当時の人々の季節感を読み取る材料にすることもできます。


 熟語についても触れたいものがたくさんあるのですが、前号で比較的長く解
 説しましたので、今号は全て割愛します。

 中にはたったひとつの漢字、熟語が非常に奥深い背景とテーマを持ったもの
 が多々あり、このような文を読む難しさと面白さを改めて実感します。
 ご興味がおありの方は原文から、しかもある程度深い掘り下げをしながら読
 まれると、どこが、何が面白いのかおわかりいただけると思い、ぜひともご
 自身で読んでくださればと思います。
 
 
 ◆ 編集後記

 おかげさまで執筆・配信のリズムが出てきたようで復刊後週一配信が保てて
 います。

 今号の部分も原文では検討事項がたくさんあるのですが、内容解説で長くな
 りましたので今号は用語の解説は割愛しました。漢字、熟語のたった一つで
 ちょっとしたコラムや論文でも書けそうなものがいくつもあります。そうい
 う部分が面白く調べられるようになると、こうした文を読む味がわかってき
 て病みつきになるような深さがあります。ぜひそこまで深く読んでいただき
 たいと願っています。

 
 ◆ 次号の原文(次号の予習文)

 秋露水
        性平味甘無毒止消渇令人身輕
   不飢肌肉悦澤朝露未晞時拂取用之○在百
  草頭露愈百疾○栢葉上露主明目○百花上露
  令人好顔色本草○繁露水者是秋露繁濃時露也
  作盤以收之食之延年不飢本草○秋露水者稟收
  斂肅殺之氣故可以烹煎殺祟之藥及調付殺癩
  蟲疥癬諸蟲之劑也正傳

         (2014.12.28.第102号)
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         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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