メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第286号 單方「何首烏」「松脂」(内景篇・身形)

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第286号

    ○ 單方「何首烏」「松脂」(内景篇・身形)

         ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説
      ◆ 編集後記


           

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 こんにちは。単方の続き「何首烏」と「松脂」です。どちらも長めですが
 一気にふたつ読んでしまいます。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (單方「何首烏」「松脂」 p79 下段・内景篇・身形)


 何首烏

    久服黒鬚髮益精髓延年不老忌葱蒜蘿〓(〓くさかんむり・右は上から一口田)、
    無鱗魚勿犯鐵器本草〇取根米〓浸軟竹刀(〓くさかんむり甘)
   刮去皮切作片黒豆汁浸透陰乾却用甘草汁拌
   晒乾擣爲末酒服二錢或蜜丸服之〇何首烏丸
   延年益壽取一斤〓浸晒乾切片以初男乳汁拌(〓くさかんむり甘)
   晒一二次搗末棗肉和丸梧子大初服二十丸日
   加十丸毋過百丸空心温酒鹽湯
   下此藥非陽虚甚者不可單服入門


松脂

   久服輕身不老延年煉法取松脂七斤以桑灰
   汁一石煮三沸接置冷水中凝復煮之凡十遍
  色白矣服法取煉脂搗下篩以醇酒和白蜜如〓(〓左食・右陽の右)
  日服一兩得效方〇服葉法取葉細切更研酒下三
  錢亦可粥飮和服亦可以炒黒大
  豆同搗作末温水調服更佳俗方


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 何首烏

  久服、黒鬚髮、益精髓、延年不老。

  忌葱蒜蘿〓(くさかんむり・右は上から一口田)無鱗魚。

  勿犯鐵器。本草。

  取根、米〓(くさかんむり甘)浸軟、竹刀刮去皮切作片、

  黒豆汁浸透、陰乾。却用甘草汁拌、晒乾、擣爲末、

  酒服二錢、或蜜丸服之。

  何首烏丸、延年益壽。取一斤、〓(くさかんむり甘)浸、晒乾、

  切片、以初男乳汁拌、晒一二次、搗末、棗肉和丸梧子大。

  初服二十丸、日加十丸、毋過百丸、空心、温酒鹽湯下。

  此藥、非陽虚甚者、不可單服。入門。


 松脂 

  久服、輕身、不老、延年。煉法、取松脂七斤、

  以桑灰汁一石、煮三沸、接置冷水中凝、復煮之、

  凡十遍、色白矣。服法、取煉脂、搗下篩、以醇酒、

  和白蜜如〓(左食・右陽の右)、日服一兩。得效方。

  服葉法、取葉細切、更研、酒下三錢亦可。

  粥飮和服亦可。以炒黒大豆、同搗作末、温水調服、更佳。俗方。


 ▲訓読▲(読み下し)


 何首烏(かしゅう)

  久(ひさし)く服(ふく)すれば、

  鬚髮(しゅはつ)を黒(くろ)くし、精髓(せいずい)を

  益(えき)し、年(ねん)を延(の)べ老(おひ)ず。

  葱蒜蘿〓(くさかんむり・右は上から一口田)(そうさんらふ)

  無鱗魚(むりんぎょ)を忌(い)む。

  鐵器(てっき)を犯(おか)すことなかれ。本草(ほんぞう)。

  根(ね)を取(と)り、米〓(くさかんむり甘)(べいかん)に

  浸(ひた)し軟(やはら)げ、竹刀(ちくとう)にて

  皮(かは)を刮(けづ)り去(さ)り切(きり)て

  片(へん)と作(な)し、

  黒豆汁(こくづじる)に浸(ひた)し透(とほ)し、

  陰乾(いんかん)す。却(かへっ)て

  甘草汁(かんぞうとう)を用(もっ)て拌(ま)ぜ、

  晒(さら)し乾(かはか)し、擣(つい)て末(まつ)と爲(な)し、

  酒(さけ)にて服(ふく)すること二錢(にせん)、

  或(あるひ)は蜜丸(みつがん)してこれを服(ふく)す。

  何首烏丸(かしゅうがん)、年(とし)を延(の)べ

  壽(じゅ)を益(えき)す。一斤(いっきん)を取(と)り、

  〓(くさかんむり甘)(かん)に浸(ひた)し、

  晒(さら)し乾(かわか)し、

  切(き)り片(へん)にして、初男(しょなん)の

  乳汁(にゅうじゅう)を以(もっ)て拌(ま)ぜ、

  晒(さら)すこと一二次(いちにじ)、搗(つ)き末(まつ)し、

  棗肉(そうにく)に和(わ)し

  梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)む。

  初(はじめ)て服(ふく)すること二十丸(にじゅうがん)、

  日(ひび)に十丸(じゅうがん)を加(くわ)ふ、

  百丸(ひゃくがん)に過(すぎ)ることなかれ、

  空心(くうしん)、温酒(おんしゅ)

  鹽湯(しおゆ)にて下(くだ)す。

  此(こ)の藥(やく)、陽虚(ようきょ)

  甚(はなはだし)き者(もの)に非(あら)ずんば、

  單服(たんぷく)すべからず。入門(にゅうもん)。


 松脂(しょうし) 

  久(ひさし)く服(ふく)すれば、身(み)を輕(かる)くして、

  老(おひ)ず、年(ねん)を延(の)ぶ。

  煉法(れんぽう)、松脂(しょうし)七斤(しちきん)を取(と)り、

  桑灰汁(そうかいじる)一石(いっこく)を以(もっ)て、

  煮(に)ること三沸(さんふつ)、冷水(れいすい)の中(なか)に

  接(せっ)し置(お)き凝(こら)して、

  復(ま)たこれを煮(に)ること、

  凡(およ)そ十遍(じっぺん)にして、色白(いろしろ)し。

  服(ふく)する法(ほう)、煉脂(れんじ)を取(と)り、

  搗(つ)き下(くだ)して篩(ふる)ひ、

  醇酒(じゅんしゅ)を以(もっ)て、

  白蜜(はくみつ)に和(わ)して

  〓(左食・右陽の右)(あめ)の如(ごと)くし、

  日(ひび)に服(ふく)すること一兩(いちりょう)。

  得效方(とくこうほう)。

  葉(は)を服(ふく)する法(ほう)、

  葉(は)を取(とり)て細(こまか)に切(き)り、

  更(さら)に研(す)り、

  酒(さけ)にて三錢(さんせん)を下(くだ)すもまた可(か)なり。

  粥飮(しゅくいん)に和(わ)し服(ふく)するもまた可(か)なり。

  炒黒(しょうこく)の大豆(だいず)を以(もっ)て、

  同(おなじ)く搗(つき)て

  末(まつ)と作(な)し、温水(おんすい)に

  調服(ちょうふく)して、更(さら)に佳(よ)し。俗方(ぞくほう)。


 ■現代語訳■


 何首烏

  長期間服用すれば鬚髮を黒くし、

  精髓を増し、寿命を延ばし不老になる。

  葱、大蒜、大根、鱗の無い魚を避ける。

  鉄器を用いてはならない。『本草』

  根を採集し、米のとぎ汁に浸して柔らかくし、

  竹刀で皮を削り取り、切って片にし、

  黒豆汁に浸しきり、陰乾する。

  再び甘草汁に混ぜ、晒して乾かし、

  搗いて粉末にし、酒で二銭を服用する。

  または蜜丸としこれを服用する。


  何首烏丸。寿命を延ばす。一斤を米のとぎ汁に浸し、

  晒して乾かし、切って片にし、

  初産で男児を産んだ女性の乳に混ぜ、

  一度か二度晒して乾かし、搗いて粉末にし、

  棗肉を混ぜて青桐の種の大きさに丸める。

  初めて服用する時は二十丸を、

  後に日々十丸ずつ増やす。

  百丸を超えてはならない。

  空腹時に温酒または塩湯で服用する。

  この薬は、陽虚が甚だしいものでなければ単用してはならない。『入門』


 松脂 

  長期間服用すれば身体が軽くなり、不老になり寿命を延ばす。


  精煉の法。松脂七斤を桑灰汁一石で煮て、三度沸騰させてから

  冷水に入れて凝固させ、再びこれを煮る。

  十遍ほど繰り返すと色が白くなる。

  服用の法、上記精煉した松脂を用い、、

  搗いてから篩にかけ、醇酒に白蜜と一緒に入れ、

  飴のようにし、毎日一両を服用する。『得效方』


  葉を服用する法。

  葉を採集し細かく刻み、更に研り、

  酒で三錢を服用しても良い。

  粥に混ぜて服用しても良い。

  黒くなるまで炒った大豆と共に搗いて粉末にし、

  温水に溶かして服用するとさらに良い。『俗方』
  

 ★ 解説 ★

 単方の「何首烏」「松脂」です。どちらも効用はこれまでと同様です。それにそれぞれのバリエーションを加えてあります。

 『訂正 東医宝鑑』との細かい異同ですが、松脂の項の葉の解説部分、「服葉法、取葉細切」とあるところ、『訂正』では

  
  服葉法取葉細切

  が

  服葉法取薬細切


 となっています。訓読は「葉を服する法、薬を取て細かに切り」としてあります。つまり原本ではふたつめの「葉」が「薬」に変わってしまっているのです。

 これは文章の流れから言って、まず「服葉法」で「葉を服する法」とテーマを挙げ、それから本文として「葉を取り細く切り」と解説した流れですから、これを「薬を取り細く切り」では前後が通じずおかしいですよね?

 これは「葉」と「薬」の漢字が似ていますので、誤字のまま校正でも訂正されずにそのまま摺り上がってしまったものと思います。

 この部分に関しては「訂正」で直したのではなく、反対に『訂正』の誤字でしょう。「訂正」と銘打ってこのような誤りがあるので、訂正なのか誤字なのかの判断が読み手にはつかず、余計にややこしい話になってきます。この場合は前後から比較的容易に判断できますが、そうでない部分もあります。

 このようなこともあるので『訂正』のみで読むことは危険な部分もあり、『訂正』に頼って東医宝鑑を読むのでも、原本との比較は必須だと思います。

 

 ◆ 編集後記

 単方の「何首烏」「松脂」です。今回はどちらも文が長いですが、先に進むことを期してふたつお届けしました。

 執筆で何に一番時間がかかるかと言うと「訓読」の部分なのですね。訓読さえできると翻訳はそれを元に、特にこの項などは先行の生薬と似た部分が多いのでほとんど同時通訳的にキーを打って翻訳していくことが可能で、さほど時間がかからないのです。

 読者さまのご嗜好がどのあたりにあるのかわかりにくく、訓読を省いてしまえば執筆も楽なのですが、日本人が東医宝鑑を読むには重要な一過程との認識で訓読も省かずにお届けしようと考えています。

                      (2018.10.06.第286号)
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