メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第149号「肝虚薬」処方「拱辰丹」─「虚労」章の通し読み ─

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  第149号

    ○ 「肝虚薬」処方「拱辰丹」
      ─「虚労」章の通し読み ─

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。「肝虚薬」の処方解説です。少し短めですが次の長さとの
 兼ね合いもあってひとつだけ取り上げてお届けします。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「肝虚藥」 p448 下段・雜病篇 虚勞)


 拱辰丹

    凡男子方當壯年而眞氣猶怯此乃稟賦素
    弱非虚而然僣燥之藥尤宜速戒滋益之方
  羣品稍衆藥力細微難見功效但固天元一氣使
  水升火降則五藏自和百病不生此方主之鹿茸
  酥灸當歸山茱萸各四兩麝香五錢〓研右爲末(〓上口・下力)
  酒麪糊和丸梧子大温酒或鹽湯下七十丸至百
  丸
  得效


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 拱辰丹

  凡男子、方當壯年、而眞氣猶怯、

  此乃稟賦素弱、非虚而然、僣燥之藥、尤宜速戒、

  滋益之方、羣品稍衆、藥力細微、難見功效。

  但固天元一氣、使水升火降、則五藏自和、

  百病不生、此方主之。鹿茸酥灸、當歸、山茱萸各四兩。

  麝香五錢〓(上口・下力)研。右爲末、酒麪糊和丸梧子大、

  温酒或鹽湯下七十丸至百丸。『得效』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


 語釈

  僣(セン)誤る、度を超す。

  〓(上口・下力)=別

  麪(メン)=麺


 ▲訓読▲(読み下し)


 拱辰丹

  凡そ男子、方(まさ)に壯年に當りて、眞氣猶ほ怯(よわ)きは、

  此れ乃ち稟賦素より弱く、虚に非ずして然り、僣燥の藥、

  尤(もっと)も宜しく速(すみやか)に戒しむべし、

  滋益の方、羣品稍(はなは)だ衆(おお)けれども、

  藥力細微にして、功效を見難し。

  但し天元の一氣を固めて、水をして升り火をして降らしむるときは、

  則ち五藏自(おの)ずから和し、

  百病生ぜず、この方これを主る。

  鹿茸酥炙し、當歸、山茱萸各四兩。

  麝香五錢〓(上口・下力)(べつ)に研(す)る。

  右末と爲し、酒麪糊和して梧子の大に丸め、

  温酒或ひは鹽湯にて下すこと七十丸より百丸に至る。『得效』


 ■現代語訳■


 拱辰丹(こうしんたん)

  およそ男性で壮年に至ってなお真気が弱い者は、

  先天的な要因で弱いためで虚によるものではないゆえ、

  過度な燥薬の使用は厳に戒むべきである。

  滋養補益の処方は数多くあれど、皆薬効が細微であり、

  効果を得難い。

  しかしその先天からある一気を守ることに努め、

  水を升らせ火を降らせれば、

  五臓は自然に調い、百病は生じないものである。

  この処方はそのためのものである。

  酥炙した鹿茸、当帰、山茱萸各四両。

  麝香五銭は別に研磨する。以上を粉末にし、

  酒と小麦粉にて糊を作り、混ぜて梧桐の種の大きさに丸め、

  温酒または塩湯で七十から百丸を服用する。『得效』

 
 ★解説★
 
 「肝虚薬」処方解説の続きです。前半で概説、後半が用薬・製法・服法などの解説となっています。おもしろいことに文を読むとわかりますが、肝虚薬というよりは五臓を調える薬として紹介されています。また心虚薬の項にもあったように「水を昇らせ火を降らせ」、つまり心と腎とを交わらせる作用も説いて、より全体としての効果を強調しています。

 この処方は現在の韓国でも重視されており、「拱辰丹」で検索するといくつか日本語で読める情報もヒットしますので、ご興味がおありの方は試みてくださればと思います。現在の韓国でこの処方がどのような位置づけで用いられているのか、概要が掴めると思います。


 なお、先行訳はこの項目の前半部分を「五臓・百病の保健薬。」とだけ記しています。説明部分をばっさり削り、「五藏自ずから和し、百病生ぜず」のところだけを要約した形ですね。

 「五藏自ずから和し、百病生ぜず」は結果で、その前にその理由が書いてあるのですからこれを削ったら処方の意味が全くわかりません。また長く解説があるということはそれだけ重視された処方ということで、全てではありませんが、編者さんの脳裏では、解説の長さと処方の重要度はある程度比例していると言えるでしょう。

 それがたった「五臓・百病の保健薬。」ではこれらの点が全て台無しですよね。歪曲・矮小化の謗りは免れないレベルで、これも削ってはいけないところでしょう。いつものように訳をお持ちの方は補完をしてくださればと思います。


 ◆ 編集後記

 前号で鹿茸の思い出話を軽く書きましたが、今号では鹿茸以上に稀少な生薬、麝香が登場しています。これにももっと古い思い出があります。

 何で読んだのか、ずっと昔に読んだ少年雑誌で「女性にもてる香水」というような広告があり、その成分がこの麝香だとの記載がありました。

 私は好奇心の強い子供で、その広告を見て麝香というものに猛烈に興味が湧きその麝香を見てみたい、どんな匂いがするのか嗅いでみたい、さらにあわよくばモテるようになりたいと(笑)、勇んで近くの漢方薬局屋さんに買いに行きました。

 麝香が欲しいという少年の意図をお店のおじさんはすぐに察したと思いますが、軽蔑するような、軽んじるような雰囲気もなく、指で丸を作って、「これぐらいで何百万円もしますよ」と優しく教えてくれました。

 その時のショックたるや、そんなお金を少年が払えるはずもなく、麝香でモテたいという純粋な(?)少年の夢は儚くも潰えてしまいました。ただおじさんの優しい態度が救いで、漢方屋さんに悪い印象を抱かずに済んだのは今でもおじさんに感謝したいところです。

 学校で好きな先生ができるとその教科も好きになり、反対に先生によって教科も嫌いになるとはよく聴くところですが、私ももしあの時にお店のおじさんの印象が悪かったら、今このような伝統医学の研究などしていなかったかもしれません。おじさんありがとう。

 ともあれ、現在はワシントン条約で麝香が入手ができないかと思いきや、流通特にインターネットが発達しているためむしろ昔より入手しやすいようで、ネット上で入手できるところがいくつかあります。もちろん高価ではありますが、凄い時代になったものだとつくづく思います。

 かく言う私の手元にも、香料用ではありますが麝香があります。メルマガで香りをお届けできないのが残念ですが、臭いをかぎたい方、モテたい方(笑)、そして今号の拱辰丹を作ってみたい方は、信頼できるお店を探して入手してくださればと思います。
                    (2015.11.28.第150号)
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         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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