メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第89号「五勞證」その5 ―「虚労」章の通し読み ―

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ― ◆


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  第89号

    ○ 「五勞證」その5 ―「虚労」章の通し読み ―

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 こんにちは。「虚労」章の通し読み、「五勞證(五労証)」の項目の
 続きにして最後の部分です。

 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「五勞證」 p444 上段・雜病篇 虚勞)

心勞則口舌生瘡
語澁肌痩○肝勞則脇痛關格不通○脾勞則氣
急肌痺多汗○肺勞則氣喘面腫口燥咽乾○腎
勞則尿赤陰瘡耳鳴面黒入門

 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


  心勞則口舌生瘡、語澁肌痩。

  肝勞則脇痛、關格不通。

  脾勞則氣急、肌痺多汗。

  肺勞則氣喘、面腫口燥咽乾。

  腎勞則尿赤陰瘡、耳鳴面黒。『入門』


 ●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)


・語釈 

  關格(関格)カンカク 大小便の不通、


 ▲訓読▲(読み下し)


  心勞すれば則ち口舌(こうぜつ)瘡を生じ、語澁り肌痩す。

  肝勞すれば則ち脇痛し、關格して通ぜず。

  脾勞すれば則ち氣急にして、肌痺し汗多し。

  肺勞すれば則ち氣喘、面腫れ口燥き咽乾く。

  腎勞すれば則ち尿赤く陰瘡あって、耳鳴り面黒し。『入門』


 ■現代語訳■


  心労すれば口舌に瘡が生じ、語りが不自由になり、筋肉が痩せる。

  肝労すれば脇が痛み、大小便が不通になる。

  脾労すれば気急して、肌痺し、多汗となる。

  肺労すれば喘息し、顔が腫れて口と喉が渇く。

  腎労すれば尿が赤く、陰部に瘡が生じ、

  耳鳴りし顔が黒くなる。『入門』

 
 ★解説★
 
 虚労の章「五勞證(五労証)」の最後の部分です。ここでも「關格(関格)」
 「肌痺」など難しい語が登場します。

 「關格」は歴史的にいくつか意味がある語ですが、ここでは文脈に沿って訳
 のように「大小便の不通」としておきました。下に別の文献の引用を掲げて
 おきます。

 また「肌痺」は訳さずそのままにしておきました。これも簡単に引用を掲げ
 ます。さらなるご研究は引用元に当たってくださればと思います。


 ※關格について

  關格者、大小便不通也。大便不通、謂之内關、
  小便不通、謂之外格、二便倶不通、為關格也。
  由陰陽氣不和、榮衛不通故也。
  陰氣大盛、陽氣不得榮之、曰内關。
  陽氣大盛、陰氣不得榮之、曰外格。
  陰陽倶盛、不得相榮、曰關格。『諸病源候論』


 ※痺について

  風寒濕三氣雜至。合而為痺也。(他にも『素問。痺論』参照のこと)


 さて、年をまたいでしまいましたが、昨年の第88号で前の部分を解説し、
 「心腹」については解説し、長くなったので「閧熱」を次号までの宿題とさ
 せていただいたのでした。

 では「閧熱」とはどんな熱でしょうか?
 
 不思議なことに、これまた漢和辞典はともかく、専門用語辞典にもこれが載っ
 ていません。

 それでは「閧熱」の「閧」とは?これは本来は門構えではなく「鬨」が元の
 ようで、これは「たたかいがまえ」「とうがまえ」と呼ばれるごとく、二人
 の兵士が武器を持って戦う様から来た漢字です。

 そして中の「共」も同じく、両手で器物を捧げる形で、「ともに、一緒に」
 という意味を表します。
 
 「エイエイオー!」と「勝ちどきをあげる」の「勝ちどき」は「勝ち鬨」、
 この漢字を使います。

 ここから、「共に、大勢でわいわい騒ぐ」また「わっーと集まる」という意
 味に派生したようです。

 つまり、「鬨熱、閧熱」は一気に熱が上がり高熱になる現象を指すと言えま
 す。

 現在の中国ではこの字を「哄」と置き換えるようでネット上での医書の情報
 はこれになっています。これには「騙す」という意味もあるのですが、その
 場合は3声で読み、「鬨」と同じ意味の時は1声または4声で読むようです。

 漢字には異体字があり、現在は大陸は簡体字でいちいち古典を簡体字にして
 表記してあるので、読む時はそれを元に戻しながら読む必要があり、さらに
 めんどくさい作業が増えて、原典がどんな字を使っていたかの判別からが難
 しく手間がかかるようになっています。


 このように、今号分と併せてみても、原文を読む際にはまず表面的な漢字の
 問題が立ちはだかり、さらに内容も歴史的な意味を文脈に当てはめながら読
 む必要などあり、なかなか一筋縄ではいかない大変さを持っていることがわ
 かります。


 ようやく「五労証」を読み終わったのですが、個々に細かい点のみを取り上
 げて全体がわかりにくかったと思いますので、改めて五労証の全体を通して
 読むべく、訳だけを並べてみます。

  五労の証

五労とは、心労は血損、肝労は神損、脾労は食損、
  肺労は気損、腎労は精損である。『金匱』


  にわかに喜怒して、排便困難、
  口内に瘡が生じる、これを心労とみなす。

  短気して顔面が腫れ、嗅覚が鈍り、
  咳嗽して痰を吐き、両脇が脹痛し、
  喘息して安定しない、これを肺労とみなす。

  顔面は乾燥し黒く、精神が不安定で、一人で寝ることができず、
  視界が不明瞭となり、涙が常に流れる、これを肝労とみなす。

  口内が苦く舌が強ばり、吐き気と胸やけがし、
  腹部張満し唇が焦げる、これを脾労とみなす。

  小便が赤黄色になり、加えて尿漏れがあり、腰痛し耳鳴り、
  夜は多く夢を見る、これを腎労とみなす。『千金』


  神機の運用を違えば、心の労を致す。
  その症候は、血が少なくなるため面色を失い、
  驚き易く、寝汗が出、夢精し、
  甚だしくは心痛し咽喉が腫脹する。

  限度以上に思慮すれば、肝の労を致す。
  その症候は筋骨が拘急痙攣して、
  甚だしくは目眩、頭眩する。

  思慮すること過多ならば、脾の労を致す。
  その症候は張満して小食になり、
  甚だしきは吐瀉して痩せ細り、四肢倦怠となる。

  事に臨んで憂うれば、肺の労を致す。
  その症候は気が不足し、上腹部が冷痛し、
  甚だしくは毛髪が焦れ、津液が枯れ、
  咳嗽し高熱が出る。

  志節を堅持が過度になれば、腎の労を致す。
  その症候は腰背の痛み、精液が漏れ、
  甚だしくは顔面が垢づき背部が痛む。『入門』


  心労すれば口舌に瘡が生じ、
  語りが不自由になり、筋肉が痩せる。

  肝労すれば脇が痛み、大小便が不通になる。

  脾労すれば気急して、肌痺し、多汗となる。

  肺労すれば喘息し、顔が腫れて口と喉が渇く。

  腎労すれば尿が赤く、陰部に瘡が生じ、
  耳鳴りし顔が黒くなる。『入門』


 別々の古典から引用しているので前後で文脈が通じていない部分、同じ用語
 でも定義が違うであろう部分がありますが、それを含めて、前提としての引
 用と考えられます。


 ◆ 編集後記

 新年第1号無事に配信することができました。細かい点を追及していくととめ
 どがありませんので、問題提起程度で済ませてあります。ひとつひとつ掘り
 下げたら、それぞれがコラムや論文のテーマにでもなりそうな問題ばかりで
 すので、お読みの方のご志向、ご嗜好で、気になったところを掘り下げてく
 ださればと思います。

 おもしろいことに、メルマガを執筆していて白文から訓読、そして現代語訳
 までを手掛けているためか、私自身が他の古典を読むのに目の通りがよくなっ
 ています。メルマガ執筆で一番恩恵を受けているのは実は私なのかもしれま
 せん。

 お読みの方にも他の古典に目を通した際にも目の通りが良くなるようになっ
 ていただけたら、執筆冥利に尽きると言えます。ぜひともそんな読み方をな
 さってくださればと思います。

 次は「六極証」です。今年もできる限り間をおかずに配信したく思っていま
 す。どうぞよろしくお願いいたします。
                      (2014.01.09.第89号)
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         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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