メルマガ東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第308号「精宜秘密」(内景篇・精)
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◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
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第308号
○ 「精宜秘密」(内景篇・精)
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。前号部分「脈法」の続き精宜秘密の項目に入ります。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「五藏皆有精」 p82 上段・内景篇・精)
精宜秘密
内經曰凡陰陽之要陽密乃固故曰陽強不
能密陰氣乃絶陰平陽秘精神乃治陰陽離
決精氣乃絶註曰陰陽交會之要正在於陽氣閉
密而不妄泄爾密不妄泄則生氣強固而能久長
此聖人之道也陽自強而不能閉密則陰泄瀉而
精氣竭絶矣陰氣和平陽氣閉密則精神之用日
益治也〇秘精宜服金鎖思仙丹
大鳳髓丹秘眞丸玉露丸金鎖丹
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
精宜秘密
内經曰、凡陰陽之要、陽密乃固。
故曰、陽強不能密、陰氣乃絶。陰平陽秘、精神乃治、
陰陽離決、精氣乃絶。
註曰、陰陽交會之要、正在於陽氣閉密而不妄泄爾。
密不妄泄則生氣強固而能久長、此聖人之道也。
陽自強而不能閉密、則陰泄瀉而精氣竭絶矣。
陰氣和平、陽氣閉密、則精神之用日益治也。
秘精、宜服金鎖思仙丹、大鳳髓丹、
秘眞丸、玉露丸、金鎖丹。
●語法・語釈●(主要な、または難解な語句の用法・意味)
▲訓読▲(読み下し)
精(せい)は宜(よろ)しく秘密(ひみつ)すべし
内經(だいけい)に曰(いは)く、
凡(およ)そ陰陽(いんよう)の要(よう)、
陽(よう)密(みつ)すれば乃(すなは)ち固(かた)し。
故(ゆえ)に曰(いは)く、
陽(よう)強(つよ)ふして密(と)じること能(あたは)ざれば、
陰氣(いんき)乃(すなは)ち絶(ぜつ)す。
陰(いん)平(たひら)かに陽(よう)秘(ひ)すれば、
精神(せいしん)乃(すなは)ち治(おさ)まる、
陰陽(いんよう)離決(りけつ)すれば、
精氣(せいき)乃(すなは)ち絶(ぜつ)す。
註(ちゅう)に曰(いは)く、
陰陽交會(いんようこうえ)の要(よう)、
正(まさ)に陽氣(ようき)閉密(へいみつ)して
妄(みだり)に泄(せつ)せざるに在(あ)るのみ。
密(と)じて妄(みだり)に泄(せつ)せざれば
則(すなは)ち生氣(せいき)強固(きょうこ)にして
能(よ)く久(ひさ)しく長(なが)し、
此(こ)れ聖人(せいじん)の道(みち)なり。
陽(よう)自(をのづ)から強(つよ)ふして
閉密(へいみつ)すること能(あたは)ざれば、
則(すなは)ち陰(いん)泄瀉(せつしゃ)して
精氣(せいき)竭絶(けつぜつ)す。
陰氣和平(いんきわへい)して、
陽氣(ようき)閉密(へいみつ)なれば、
則(すなは)ち精神(せいしん)の用(よう)
日(ひび)に益(ますます)治(おさ)まるなり。
精(せい)を秘(ひ)するには、
宜(よろ)しく金鎖思仙丹(きんさしせんたん)、
大鳳髓丹(だいほうずいたん)、秘眞丸(ひしんがん)、
玉露丸(ぎょくろがん)、金鎖丹(きんさたん)を
服(ふく)すべし。
■現代語訳■
精は秘蔵するべきである
内経に説くには、およそ陰陽の要諦は、
陽は密すれば堅固になる。
ゆえに陽が強すぎて密することができなければ、
陰気は絶えてしまう。
陰が平らかで陽が秘するならば、精神は安定する。
陰陽が離決すれば、精気は絶えてしまう。
註に言うには、
陰陽が相交わるの要諦は、
陽氣を閉じ密して妄りに漏らさないことにあるのみである。
密して妄りに漏らさなければ、生気は強固になり、
長命になる。これが聖人の道である。
陽が自ずから強くなり閉じ密することができなければ、
陰は漏れて精気が絶えてしまう。
陰気が和平であり、陽気が閉じて密なれば、
精神は日増しに安定していく。
精を秘するには、金鎖思仙丹、大鳳髓丹、秘真丸、
玉露丸、金鎖丹を服するとよい。
★ 解説 ★
前号の「脈法」に続く「精宜秘密」です。長さに差はありますが、2段の文で構成されており、ひとつめは主題に関して陰陽と精との関係を、ふたつめでは具体的な処方が列挙されているという流れです。
現在の日本で「秘密」というというと、「それは秘密です」というように名詞で使われることがほとんどと思い、「隠し事」みたいな意味合いで使われますが、ここでの「秘密」は動詞として用いられており、「秘」は「秘する、ひそめる、かくす」という意味、「密」は「密閉」「密封」などの言葉もあるように「閉じる」という意味に加えて「静まる」という意味もある字です。
実際に原文を読むとこの「隠す」「閉じる」という意味の他に「静まる」と いう意味あいも持たせてあることが読み取れると思います。
実はこの「秘密」には伏線があって、以前に登場しています。その時にはこちらの項目が後に登場するため、先走りの意味としても、またこちらの読解が済んでいない点もあり触れなかったのですが、どこで登場したかわかりますか?
それはメルマガでは5号前の309号、項目では3つ前の「精爲至寶」です。
そのうちにこんな文がありました。
經頌云、道以精爲寶、寶持宜秘密、
・訓読(經頌に云く、道は精を以て寶とす、寶持して宜しく秘密すべし、)
・翻訳(経頌に言う、道は精を宝とする。これを堅持して秘蔵すべきである。)
上に書いたように現在の日本では「秘密」とすると「隠し事」のニュアンスになってしまうので、「秘蔵」としており、原文の「秘密」が消えてしまっていてわかりにくいのですが、このように原文では既にここで「秘密」が使われていたのです。
東医宝鑑は全体でひとつの宇宙、とは何度も書いたことですが、間近の前後にもこのように構成の中で繋がりを持たせてあることが、特に原文から読むと良くわかりますね。
そして次からここに挙げられた処方がひとつひとつ解説される流れに入ります。
先行訳に関して、いままで詳細に書いてきましたが、お持ちの方にはお手元の訳と比較していただけば違いや誤りが明確と思い、またお持ちでない方にはさほど必要な情報でないと思い、これからは特にどうしても書きたい、と感じた点以外はあまり触れずにいこうと思います。
触れないからといって、問題がないわけではないことをご理解いただけたらと思います。
◆ 編集後記
「精宜秘密」です。原文では味わい深い文字、熟語が満載で、そのニュアンスを消さずにどう訳せばよいのか、悩みが多い項目でもあります。やはり本格的な読みには原文からの読解をお願いしたいところです。
上にも書いたように次号はここに挙げられた具体的な処方解説に入ります。5つ列挙されていますが、ひとつ一号ですとそれだけでひと月以上かかりますので、できたら一号に複数を取り上げて配信したく考えています。
(2019.03.17.第308号)
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