メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第144号「陰陽倶虚用藥」(「滋腎百補丸」他)─「虚労」章の通し読み ─

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


  第144号

    ○ 「陰陽倶虚用藥」(「滋腎百補丸」他)
      ─「虚労」章の通し読み ─

         ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 

 こんにちは。「陰陽倶虚用藥」の処方解説の続きです。ようやくこれで
 この項目が最終を迎えます。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「陰陽倶虚用藥」 p448 上段・雜病篇 虚勞)


 滋腎百補丸

      治同上熟地黄四兩當歸兎絲子各二
      兩知母黄栢並鹽酒炒山藥甘菊猪實
  子杜仲炒各一兩靑鹽五錢沈香二錢半右製法
  服法同上丹心


 沈香百補丸

      治同上熟地黄三兩兎絲子二兩杜仲
      肉〓蓉山藥當歸各一兩半知母黄栢(〓くさかんむり從)
  並鹽酒炒人參各一兩沈香
  五錢右劑法服法同上丹心


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 滋腎百補丸

  治同上。熟地黄四兩。當歸、兎絲子各二兩。

  知母、黄栢並鹽酒炒、山藥、甘菊、猪實子、

  杜仲炒各一兩。靑鹽五錢。沈香二錢半。

  右製法服法同上。『丹心』


 沈香百補丸

  治同上。熟地黄三兩。兎絲子二兩。杜仲、肉〓(くさかんむり從)蓉、

  山藥、當歸各一兩半。知母、黄栢並鹽酒炒、人參各一兩。

  沈香五錢。右劑法服法同上。『丹心』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  特になし


 ▲訓読▲(読み下し)


 滋腎百補丸

  治上に同じ。熟地黄四兩。當歸、兎絲子各二兩。

  知母、黄栢並びに鹽酒にて炒り、山藥、甘菊、猪實子、

  杜仲炒り各一兩。靑鹽五錢。沈香二錢半。

  右製法服法上に同じ。『丹心』


 沈香百補丸

  治上に同じ。熟地黄三兩。兎絲子二兩。杜仲、肉〓(くさかんむり從)蓉、

  山藥、當歸各一兩半。知母、黄栢並びに鹽酒にて炒り、人參各一兩。

  沈香五錢。右劑法服法上に同じ。『丹心』


 ■現代語訳■


 滋腎百補丸(じじんひゃくほがん)

  主治は同上。熟地黄四両。当帰、兎絲子各二両。

  知母と黄柏とを塩酒で炒り、山薬、甘菊、猪実子、

  杜仲炒り各一兩。靑塩五銭。沈香二銭半。

  製法と服法は同上。『丹心』


 沈香百補丸(じんこうひゃくほがん)

  主治は同上。熟地黄三両。兎絲子二両。杜仲、肉〓(くさかんむり從)蓉、

  山薬、当帰各一両半。知母と黄柏とを塩酒で炒り、人参各一両。

  沈香五銭。剤法と服法は同上。『丹心』

 
 ★解説★
 
 陰陽倶虚用藥の処方解説、最終部分です。

 前号の二つ目に


  滋血百補丸(じけつひゃくほがん)


 がありましたが、ここで


  滋腎百補丸(じじんひゃくほがん)

  沈香百補丸(じんこうひゃくほがん)


 と続いて、「百補丸」三部作(?)になっています。今号の二つで「主治は同上」「製法と服法は同上」の「同上」は一つ目の「滋血百補丸」に同じということで、これらがひとまとめになっていることを醸し出しています。

 ではそれぞれ何が違うかというと、いつもながら構成生薬で検討するわけですが、まず目につくのは以前の「是齋雙補丸(ぜさいそうほがん)」、熟地黄(血を補う)、兎絲子(気を補う)となっていた例の処方ですが、この百補丸シリーズはその熟地黄と兎絲子とをベースにし、二つの量の増減の調整、また他の生薬の加減で作りあげていることがわかります。

 具体的には、是齋雙補丸は熟地黄、兎絲子とが各八両で等分でした。これで陰陽を補う作用を同等にしてあると考えられます。

 百補丸三部作の滋血百補丸は熟地黄、兎絲子各四両とやはり等分です。それに当帰、杜仲、知母、黄柏、沈香で他の作用を加味させています。

 滋腎百補丸は熟地黄四両ですが、兎絲子は二両と半分で、その代わり当帰が二両入って兎絲子と合せて四両にして熟地黄と釣り合わせ、さらに知母、黄柏、山薬、甘菊、猪実子、杜仲、靑塩、沈香で補っています。

 三つ目の沈香百補丸は熟地黄三両、兎絲子二両と兎絲子が3分の2と少なくして、他に杜仲、肉〓(くさかんむり從)蓉、山薬、当帰、知母、黄柏、人参、沈香で補っています。

 とこのように、陰陽を共に補う是齋雙補丸のバリエーションであることが読み取れます。さらに細かい使い分けは、他の生薬の種類と分量で検討するわけで、それらはいつも書きますように、湯液篇の生薬解説を参照して補完させることができるようになっています。

 3つの処方を主治が「同上」と同じにしてはありますが、読む人が読めばその細かい使い分けがわかるように明記してあるわけですね。そもそも必要に応じて処方が生まれたはずですので、構成生薬の違いはそれぞれの症状の微妙な違いにピッタリ対応させるための違いであったはずで、それを検討できるようになっているとともに、さらにこれらを例とし、発展させて自分で処方を作ることも可能なんだよ、と教えてくれているとも読めますね。

 前にも書きましたように、列挙されているのみに見える情報からどれだけ多くのものを引き出して自分のものとし、さらにそこから自分のものを再構築、新構築していくかに個々人の力量がかかっていると言え、読まれる方は書かれた表面だけでなく、奥に分け入ってご自身のカードを増やしてくださればと思います。


 ◆ 編集後記

 「陰陽倶虚用藥」の処方解説、ようやく今号で終了です。前号のこの欄でも書きましたように、しばらく処方の列挙が続きましたので次号は別の項目を読みたいと考えています。どこを読むかは配信時のお楽しみとしたいですが、処方解説では生薬や製法の列挙が多かったですから、少し文章としてまとまった部分を読みたいと思います。


 二十四節気は今日がちょうど区切りで今日から霜降(そうこう)です。前は霜露でしたが、露から降りる、いよいよ水分が寒さで固体化するイメージですね。

 この次は早くも立冬です。1月、2月と数字で考えるより、もう冬かーという感慨が深い気がします。季節の廻りを自覚する点で、それもこの暦の効用のひとつのように思います。
                     (2015.10.24.第145号)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

  
  ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆
         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?