メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第164号 腎虚薬処方「補腎養脾丸」他─「虚労」章の通し読み ─
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第164号
○ 腎虚薬処方「補腎養脾丸」他
─「虚労」章の通し読み ─
◆ 原文
◆ 断句
◆ 読み下し
◆ 現代語訳
◆ 解説
◆ 編集後記
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こんにちは。さらに腎虚薬処方解説の続きです。
◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
・ページ数は底本の影印本のページ数)
(「補腎養脾丸」他 p450 下段・雜病篇 虚勞)
補腎養脾丸
治虚勞諸證熟地黄薑汁浸二兩肉〓(〓くさかんむり從)
蓉人參黄〓蜜灸白朮當歸酒洗白茯(〓くさかんむり氏)
苓山藥各二兩杜仲炒破故紙炒牛膝酒洗五味
子各一兩半知母黄栢並酒炒白芍藥各一兩肉
桂沈香各七錢半甘草灸五錢右爲末
蜜丸梧子大温酒或米飲下百丸北窓
小兔絲子元
治虚勞腎損陽氣衰少小便滑數兔絲
子五兩山藥内七錢半作糊蓮肉各二兩白茯
苓一兩右爲末山藥糊和丸梧子
大温酒或鹽湯下七九十丸局方
▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)
補腎養脾丸
治虚勞諸證。熟地黄薑汁浸二兩。肉〓(くさかんむり從)蓉、
人參、黄〓(くさかんむり氏)蜜灸、白朮、當歸酒洗、
白茯苓、山藥各二兩。杜仲炒、破故紙炒、牛膝酒洗、
五味子各一兩半。知母、黄栢並酒炒、白芍藥各一兩。
肉桂、沈香各七錢半。甘草灸五錢。右爲末、蜜丸梧子大、
温酒或米飲下百丸。『北窓』
小兔絲子元
治虚勞腎損、陽氣衰少、小便滑數。
兔絲子五兩。山藥(内七錢半作糊)、蓮肉各二兩。
白茯苓一兩。右爲末、山藥糊和丸梧子大、
温酒或鹽湯下七九十丸。『局方』
●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)
特になし
▲訓読▲(読み下し)
補腎養脾丸(ほじんようひがん)
虚勞(きょろう)の諸證(しょしょう)を治(ち)す。
熟地黄(じゅくぢおう)薑汁(きょうじゅう)に浸(ひた)し二兩(にりょう)。
肉〓(くさかんむり從)蓉(にくじゅうよう)、人參(にんじん)、
黄〓(くさかんむり氏)(おうぎ)蜜炙(みつしゃ)、
白朮(びゃくじゅつ)、當歸(とうき)酒洗(しゅせん)、
白茯苓(びゃくぶくりょう)、山藥(とうき)各二兩(かくにりょう)。
杜仲炒(とちゅうしゃ)、破故紙炒(ほごししゃ)、
牛膝(ごしつ)酒洗(しゅせん)、
五味子(ごみし)各一兩半(かくいちりょうはん)。
知母(ちも)、黄栢(おうばく)並(ならびに)酒炒(しゅしゃ)、
白芍藥(びゃくぶくりょう)各一兩(かくいちりょう)。
肉桂(にっけい)、沈香(じんこう)各七錢半(かくななせんはん)。
甘草炙(かんぞうしゃ)五錢(ごせん)。
右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、
蜜(みつ)にて梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、
温酒(おんしゅ)或(ある)ひは米飮(べいいん)にて
下(くだ)すこと百丸(ひゃくがん)。『北窓(ほくそう)』
小兔絲子元(しょうとししがん)
虚勞(きょろう)腎損(じんそん)、陽氣衰少(ようきすいしょう)、
小便滑數(しょうべんかつさく)なるを治(ち)す。
兔絲子五兩(とししごりょう)。
山藥(さんやく)(内七錢半(うちしちせんはん)を糊(こ)と作(な)す)、
蓮肉(れんにく)各二兩(かくにりょう)。
白茯苓(びゃくぶくりょう)一兩(いちりょう)。
右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、山藥糊(さんやくこ)に和(わ)し
梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、
温酒(おんしゅ)或(ある)ひは鹽湯(しおゆ)にて
下(くだ)すこと七九十丸(しちくじゅうがん)。『局方(きょくほう)』
■現代語訳■
補腎養脾丸(ほじんようひがん)
虚労による諸証を治する。
生姜汁に浸した熟地黄二両。
肉〓(くさかんむり從)蓉、人參、蜜炙した黄〓(くさかんむり氏)、
白朮、酒洗した当帰、白茯苓、山薬各二両。
炒った杜仲、炒った破故紙、酒洗した牛膝、五味子各一両半。
酒炒した知母と黄柏、白芍薬各一両。肉桂、沈香各七銭半。
炙甘草五銭。以上を粉末として、蜜で梧桐の種の大きさに丸め、
温酒または米湯にて百丸を服用する。『北窓』
小兔絲子元(しょうとししがん)
虚労による腎損、陽気衰少、小便滑数の者を治する。
兔絲子五両。山薬(うち七銭半で糊を作る)、蓮肉各二両。
白茯苓一両。以上を粉末として、山薬の糊に混ぜ、
梧桐の種の大きさに丸め、
温酒または塩湯にて70から90丸を服用する。『局方』
★解説★
腎虚薬の具体的な処方解説の続きです。ひとつめの補腎養脾丸などは「虚労による諸証を治する」としか特徴をといていませんが、このような場合は既に何度か書きましたように、構成処方や、または名称を見たりすることでより適正な適応範囲を検討することができます。
文章は既出のものばかりで読解がだいぶ楽になってきましたね。
今号の両者の大きな違いはひとつめの「補腎養脾丸」は今まで頻出の蜜を用いて丸める製法ですが、ふたつめ「小兔絲子元」は構成生薬の山薬の一部を使って丸めるという違いがあります。
これも既に書いたのですが、どの生薬をどのように処置すれば最大限の薬効が出せるのか、またどのような薬効が出るのかの研究は非常に洗練されたものが残っており、おそらく各生薬についてあらゆる方法が試されて、その中でそれぞれの処置が、日本では修治と言いますが、伝わってきたものでしょう。
この小兔絲子元については蜜を使うのではなく構成生薬の山薬を使うことで、効率がよくまた薬効も出るということが確かめられた結果なのだと考えてよいでしょう。
これだけシンプルな原文ゆえ先行訳にも省略はさすがに無いようですが、問題点はいくつかあり、例えば補腎養脾丸の「治虚勞諸證」を「虚労のあらゆる症を治す。」としています。
「諸證」を「あらゆる症」としているわけですが、「證(証)」を「症」と訳すことの可否についてはここでは措き、「諸」を「あらゆる」とするのは適切でしょうか?
確かに漢字の意味としては「諸」には「全ての、一切の」という意味もあります。ただこの文の大本の作者さんはこの「諸」に「あらゆる」という意味を込めたと考えられるでしょうか?
この処方ひとつであらゆる虚労の治療が可能なら、これひとつで十分なはずですよね。それがこの腎虚薬だけでも数多くの処方があげられ、さらに虚労全体では膨大な数が記載されており、それらは同じ虚労と一口に言ってもさまざまな違いがあり、それぞれに処方の使い分けがあるからこそ、これほどに多くの処方が研究され、その一部でさえこんなに挙げられているわけですね。
つまり「あらゆる」としてしまったら他の処方の必要性がなくなるわけで、多くの項目を立てつつ他を列挙している意味が全く無くなってしまうのではないでしょうか。
たったひとつの漢字でもこれだけの解釈の差が出る怖さが読解や翻訳にはあり、読者さまにもこの「諸」の一字をどう読めばよいか、「あらゆる」と読むことの可否も含めて、ご検討くださればと思います。
◆ 編集後記
三月半ばに一週空いた以降はおかげさまで週一配信を励行できています。
自身で翻訳を進る際に先行訳の省略や誤訳を見るにつけ、より整った翻訳の全体像の必要性を感じます。メルマガ配信のペースでは全体の完成までに時間がかかりすぎますので、メルマガ配信はこれとして、他にも翻訳するペースを上げていきたいと考えています。
(2016.04.16.第164号)
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