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民主主義とは何か

宇野重規『民主主義とは何か』をちまちま読んでいて、ようやく読み終えた。仕事で疲れるとどうしても本を読む気力がなくなってしまう。

日本学術会議の任命拒否をめぐる問題で一躍時の人となった著者だが、本の内容はいたってスタンダードな印象を受けた。

 この本は「民主主義は正しい」という前提の下、これを解説する教科書的なものにみえるかもしれません。
 しかしながら、本書を書き上げて思うのは、むしろ民主主義の曖昧さ、そして実現の困難さです。民主主義には、2500年以上もの歴史がありますが、そのほとんどの期間において、この言葉は否定的に語られてきたのです。(269頁)

民主主義がどのように生まれ、発展し、現在まで生き残ってきたのかを古代ギリシアからの出発、ヨーロッパへの継承、自由主義との結合へと時代を進めながら見ていく構成になっている。

以下いくつか印象に残った部分のメモ。

古代ギリシアの民主政と並んで称される古代ローマの共和政について。

 問題は共和政のもつ含意です。国家は市民にとって公共的な存在であり、それを動かす原理は公共の利益であるという理念は、この言葉とともに継承されていきます。民主政が「多数者の利益の支配」を含意するとすれば、共和政は「公共の利益の支配」を意味しました。「多数者の利益」はいかにその数が多くても、社会全体からみれば部分利益にすぎません。これに対し、「公共の利益」は社会全体の利益であるというわけです。
 その後の歴史を考えると、民主主義という言葉はどちらかといえば否定的な意味合いで用いられることになります。そこにはつねに「多数者の横暴」や「貧しい人々の欲望追求」という含意がつきまといました。これに対し共和政は「公共の利益の支配」として、正当な政治体制のモデルとして語られ続けたのです。(79頁)

続けて、ヨーロッパの議会制と民主主義の関係性について。

議会制そのものは、直ちに民主的であるとはいえません。その起源を探れば、西欧における議会制はもともと身分制議会でした。貴族や聖職者などの諸身分の代表者が集まり、課税問題などをめぐって王権と交渉を行う場が議会であり、西欧の封建社会に由来する仕組みです。後年、この身分制議会が近代的な議会へと発展していくわけですが、出発点だけをみれば、民主主義との親和性はそれほどありません。(89頁)

フランス革命を機に民主主義が議会制と結びつき始めるが、少しずつ新たな局面に移っていく。

……民主主義と自由主義はつねに矛盾なく両立するとは限らないということです。コンスタンのいうように、民主主義の下でも個人の自由が侵害されるとすれば、個人の自由は民主主義に対しても守られなければなりません。このように考える人々が、自由主義者と呼ばれるようになります。……自由主義者とは、自由を何よりも優先されるべき価値と考え、仮に民主主義の下で個人の自由が侵害されるとすれば、そのような民主主義との緊張関係を善千絵に自由を考える人々が、狭義における自由主義者なのです。
 ここに、民主主義と自由主義は矛盾する可能性がある、少なくとも両者の間には、一定の緊張関係があることが明らかになったわけです。(141頁)

続けて、代議制民主主義が最善の政治体制であると考えたミルの指摘をふまえて。

専制ではなく民主主義こそが、一人一人の個人の素質を向上させます。自分のことを判断できるのは自分だけです。その意味で、自由な個人こそが、自分にかかわる物事を改善しようとする意欲をもつのです。歴史的にみても、自由な国ほど経済的にも反映し、よき統治を実現しています。逆に人が自分の力ではどうにもならず、すべては運命や偶然だと思うようになれば、妬みや諦めの思いが社会に充満するでしょう。(163頁)

20世紀にはいると大衆民主主義が論じられるようになる。

新たな覇権国として台頭しつつあったアメリカは、二つの世界大戦に参戦するにあたって民主主義の擁護を掲げました。結果として民主主義は世界的な大義となり、20世紀はまさに「民主主義の世紀」と呼ばれるに至りました。長く否定的な含意で使われた「民主主義」という言葉は、ここに完全に意味が逆転したのです。(174頁)

日本についても簡単にまとめられている。そのうちの一部分。

戦前の日本の政治体制の弱点は、体制を最終的に統合する制度的な主体を欠いた点にありました。この統合機能を初期は藩閥が、やがて政党がはたそうとしたわけですが、それを妨げたのがこの体制の著しい「権力分立」でした。とくに昭和期において、軍部は「統帥権の独立」を、検察は「司法権の独立」を盾に、政党政治を揺さぶりました。文民統制(シヴィリアン・コントロール)は、古来ギリシア以来発展してきた重要な政治的伝統です。軍事力を背景とする勢力によって政治権力が制圧されることを防止する「国家の非軍事化」が、日本においてもついに実現をみたことは、民主主義を考える上で決定的に重要でした。(232頁)

民主主義が揺らいでいるように見える現在だからこそ、基本に立ち返ることは大切だ。自由主義については吉田 徹の『アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治』が意欲的にまとめられていておすすめ。内容を自分でもまとめたいがそこまでの気力は当分湧いてこない…。。


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