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読書メモ:ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』

行動経済学の本として有名なこの本。ようやく読み切ることができた。結構ボリュームがあったが、内容は平易で読みやすい。

トピックは様々なのでいくつかメモを。

まずは、私たちが価格というものにどのように反応するか。人々はかつて触れた価格に影響を受ける(アンカリング)をふまえた説明。

最適な市場価格を設定する役目を市場の需要と供給という力には任せられず、自由市場の仕組みが効用を最大にする助けになりそうにないなら、ほかをあてにするしかないのかもしれない。保健、医療、水、電気、教育といった社会に不可欠なものの場合はとくにそうだ。市場の力と自由市場がいつも市場をうまく調節できるわけではないという前提を受け入れるなら、政府(願わくば分別のある思慮深い政府)がもっと大きな役割を果たして、たとえ自由企業体制を制限することになっても市場活動を部分的に調節するべきだと考える人たちの仲間入りをすることになるかもしれない。

ダン・アリエリー著・熊谷 淳子訳『予想どおりに不合理』(早川書房、2013年)91頁

人間は、思ったほど合理的ではない。ならば経済学での市場価格の意味合いも変わってくるということだ。

次は、無料!の力を生かすという項目での話。

価格ゼロは単なる値引きではない。ゼロはまったくべつの価格だ。二セントと一セントのちがいは小さいが、一セントとゼロのちがいは莫大だ。
 もしあなたが商売をしていて、この点を理解しているなら、たいしたことができる。お客をおおぜい集めたい? 何かを無料!にしよう。商品をもっと売りたい? 買い物の一部を無料!にしよう。

前掲書、114頁

示唆に富む内容だ。私たちは、分かっていても無料!の魅力にあらがうことはできない。

次は、イスラエルの託児所で子どもの迎えに送れる親をどうにかしたいと思った託児所が罰金を導入したら、むしろ遅刻が増えたという話。

ところが、罰金を科したことで、託児所は意図せずに社会規範を市場規範に切りかえてしまった。遅刻した分をお金で支払うことになると、親たちは状況を市場規範でとらえるようになった。
(中略)しかし、ほんとうの話はここからはじまる。もっとも興味深いのは、数週間後に託児所が罰金制度を廃止してどうなったかだ。託児所は社会規範にもどった。だが、親たちも社会規範にもどっただろうか。……(中略)社会規範が市場規範と衝突すると、社会規範が長いあいだどこかへ消えてしまうのだ。社会的な人間関係はそう簡単には修復できない。

前掲書、134頁

社会規範が重要視されなくなり、多くのことが効率性の観点から語られるこの時代には耳が痛い話だ。ちなみに、イスラエルの託児所の話については、以前に読んだこの本でも述べられていた。

お金のない社会について。

 ではお金のいいところは? 大昔には、お金によって取引が簡単になった。市場へ行くときカモをかついで行ったり、カモのどの部分がレタス一個と同等かを考えたりしなくてすむようになったわけだ。現代ではさらなる利点があり、わたしたちは自分の仕事に専念できるようになったし、お金を借りたり蓄えたりできる。……(中略)だが、生活のなかに、お金がないほうがある意味ではうまくいくという側面はないだろうか。

前掲書、146頁

この問いはとても面白い。私たちは貨幣の機能として①価値尺度、②交換手段、③価値貯蔵といったことを学ぶ。だが、価格で示されることで不快感を覚えることもあるだろう。ボランティアでやっていたことを外野から価格で評価されたとたんにやる気がなくなってしまうということも一例だろう。もしお金がなかったら、と考えることで私たちはお金を持つことで失っているかもしれないことへ思いをはせることが可能となる。

次は環境問題に関する話。キャップ・アンド・トレード(排出権取引)については以下のように述べられている。

キャップ・アンド・トレードがまちがいだというわけではないが、公共政策や環境問題が問われているいま、わたしたちの務めは、社会規範と市場規範のどちらがもっとも望ましい結果を生むか解明することだと思う。とくに政策立案者は社会規範を弱体化させるおそれのある市場規範をいたずらに導入すべきではない。

前掲書、176頁

また、人間は長期的には利益の得られることでも、短期的には不利益があるとその不利益を過大に受け止めてしまう。

 人間のさまざまな種類の欠点に打ち勝つには、長期目標のためにとるべきあまり喜ばしくない行動に対して、目先の強力なプラスの強化を与える奥の手を探すのが有効だと思う。

前掲書、237頁

その奥の手を見つけるのが、意外と難しいのかもしれない。

次は「扉をあけておく」という章での話。ロバの話は「ビュリダンのロバ」というそうだ。

ふたつのものごとの類似点とわずかわずかな相違点に注目していたとき、わたしの友人が(それに、ロバと議会も)忘れていたのは、「決断しないことによる影響」を考えに入れることだ。ロバは飢えることを考えていなかった。議会はハイウェー法について議論しているあいだに失われる人命のことを考えていなかった。

前掲書、280頁

何かを選ぶということは、何かをあきらめておくことである。このトレードオフの関係に悩まされている間にも、時は過ぎ去っていく。そのことを忘れるべきではないということだろう。

他にも、様々な実験のエピソードが面白く盛り込まれている。性的興奮と大学生の実験についてやビールを用いた実験など、よくまあ思いついたものだと感じる。未読の人はぜひ読んでみて欲しい。

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