「ワインが投資になる」って聞いたんですが・・・②
前回記事①はこちら・・・
アキラ:なるほど。投資家という今まではワイン産業にいなかったプレイヤーを呼び込むことで、ファインワインという産業を発展させることができた訳ですね。そして消費者においても美味しいワインを飲む機会が広がる。
ケイ:はい。元々、ファインワインのエコシステムは、5大シャトーで有名なフランスのボルドー地域のワイナリー、イギリスの有力ワイン商人達、そして資金的に余裕がある欧州の貴族などの富裕層達が、長年かけて作り上げてきたものです。なお、ボルドー地域は12世紀から15世紀までイギリスの領土でしたので、イギリスの商人たちは現在でもワイン業界に強い影響力を持っています。そして今や、その仕組みは世界中に開かれ、カリフォルニアやトスカーナなどの高級ワイン生産地、ロンドン以外のワイン商、多様な投資家が参加して、ファインワイン産業を形成している訳です。
消費者の視点としては、ファインワインは様々な楽しみを人生に与えてくれます。例えば、子供の誕生年に作られたワインを成人時や結婚式の時に飲んだり、何かのお祝いとして友人にプレゼントをしたりですね。そのような楽しみ方が、かつての欧州の貴族だけでなく一般人もできるようになったのが、ファインワイン産業の広がりということです。日本酒の一斗樽の鏡開きもそうですが、美味しいお酒をあけると場の雰囲気がとても盛り上がりますよね。
アキラ:そうか。つまり、世界の美味しいワイン造りに、ワイン投資家が貢献している訳ですね。そして、ファインワインの産業がその消費者と共に発展するにつれて、ワイン投資家も投資リターンを得ている。ファインワインを通じた人々の笑顔の数だけ、投資リターンが出ているような感じですかね。
ケイ:その通り。全ての投資のリターンの本質は、社会の豊かさと人々の幸せにあります。なお、2010年前まではファインワインへの投資は、ほぼボルドー地方の5大シャトー(ワイナリー)への投資と考えられていました。しかし、現在ではブルゴーニュ、シャンパン、カリフォルニア、トスカーナなど格付け制度がしっかりしている地域のワイナリーで作られた優良ワインへの投資もファインワインと幅広く見なされ、世界中で貯蔵や取引がされています。
アキラ:そういうファインワインって、幾らぐらいなんですか?ワイナリーからの出荷価格といいますか。
ケイ:現在のワイナリーからの初期出荷価格(IPO価格)は数千円から十万円程度です。そして有名なワイナリーから直接買い付けることができる業者は、過去から取引がある限られた業者だけです。去年までの購入枠分を今年も買う、もし枠を使わなければその枠は無くなってしまう仕組みになっているようです。世界を見渡すと、やはりボルドーの5大シャトーの優良な畑で取れたブドウで作ったワインの初期出荷価格が高いですね。1980年代のボルドーでは上等な葡萄畑からのワインでも5000円ぐらいで出荷されるのが一般的だったようですが、今では10万円を超えてきており、驚かされます。
アキラ:初めから10万円。。。すごいですね。ちょっと疑問なんですけど、そのような人気のあるワイナリーのワインって、皆が欲しがるからそのような高値がついていると思うんです。先々、さらに値上がりも見込めるのでしょうし、ワイナリーとしては購入枠を飛び越えてもっと高値で買ってくれる業者に売った方がよりお金が儲かるのではないでしょうか。
ケイ:良い質問ですね。確かに短期的にはその通りだと思うのですが、それは行われないと思います。これはフランスを中心とする欧州の高級品ビジネスに深く根付いている、長期視点にたったブランドビジネスとしての知恵です。産業の最も川上にいるワイナリー達は、毎年少しずつ出荷価格を上げていくことが、自分たちのブランドを長期に育てていく本質であることを良く理解しています。「もっと高く買いますよ」という甘い誘いの裏には、不況などで環境が悪くなった時には買い叩かれる、つまり葡萄や製造の出来に関わらず、ワインの値段が暴落する可能性を作り出すことになるのです。消費者が商品に真のブランドを感じ、高額のお金を払ってくれるのは、景気がどうであろうとその商品が常に高価格で取引されているという安心感や、長期的に商品の価値が上がり続けていること、に価値を見出しているからです。値段が大きく下がったり、周りの環境によって商品の価値が決まってしまえば、消費者はそのブランドに対して信用を失い、二度と高額のお金を払ってくれません。ファインワインというエコシステムの起点にあるワイナリーはその本質を良く知っているので、短期的に儲けようという行動はとらないでしょう。ルイヴィトンやエルメスの革製品でも一緒です。彼らは、例え不況で今年商品が売れなかったとしても、ブランドの価値の大切さを知っているため、絶対に値段を下げません。
アキラ:なるほど。信用って一度失うと取り返すのは大変ですよね。短期的に儲けようと面の皮がはったような行動は、ファインワインのようなビジネスの対局にあるってことか。奥が深いですね。。。
ワイン投資の利回りについて
WelathPark研究所 所長(以下、ケイ):さて、前回でファインワインの産業全体の仕組みは整理しましたので、次は皆さんがワイン投資家としてファインワイン産業の参加者となった場合に、どれぐらいの利回り(リターン)が出ていたのか、そしてワイン投資の基本的な概要を見てみましょうか。
アキラ:はい、とても興味があります!
ケイ:なお、ここでは外部のアドバイザーを絡めたワイン投資について説明しますね。個人が酒屋や旅行先でお気に入りのファインワインを買って、自宅のワインセラーに10本ぐらい寝かせている、などのケースは除きます。では、ワイン投資における一般的な概要を整理すると、次のようになります。
・過去の利回り:年率13%程度
(Liv-ex Investables index:1986年より)
・投資の手法:
① ワイン商から購入しての現物投資(貸倉庫で保有)
② ワインファンドへの投資(金融商品を保有)
③ オークションで購入しての現物投資(貸倉庫で保有)
・投資金額:10万円〜数千万円程度
・投資期間:一般的に5年〜10年以上
アキラ:なるほど。過去30年ぐらい、長期的にファインワインの価格は上がっているのですね。利回りは年平均で13%ですか!!シンプルにすごい高いですね〜!もう少し説明してもらえませんんか?
ケイ:おっしゃる通り、株、国債、預貯金、不動産などの他の投資と比較しても、とても高い利回りと感じられると思います。過去60年以上、長期的に右肩上がりのアメリカの株価指数S&P500種指数でも年平均で約8%の利回りですので、13%は驚きですよね。年13%の利回りというのは、約5.5年で価格が倍になることを意味します(数が2倍になる72の法則に当てはめると72÷13=5.5)。そして、この高い利回りが出ている背景は、ファインワイン特有の需給要因で説明されます。
需要面:適切に保管されたワインは、長く貯蔵されるほど美味しくなる(高い値段を払っても買いたいという人が増える、つまり時が経つほど、需要が増える)
供給面:貯蔵されたファインワインは、毎年少しずつ飲まれていく(世の中に存在するストックは確実に減っていく、つまり時が経つほど、供給が減る)
このような特性のある資産は、他になかなか見当たらないと思います。
③へ続く・・・