大臣は、時をかける元少女

 これはひょっとすると、重大な秘密かも知れない。
 こんな重大な秘密をここに書いてよいのかどうか迷う。けれど書かずにはいられない。
 むかし、王さまの秘密を知った床屋は郊外の野原に掘った穴に向かって叫んだ。「王さまの耳はロバの耳」。別の少年は、パレード中の王さまに向かって直接叫んでしまった。「王さまは裸だ」。別の若者たちは王さまがこわいのでA4サイズの白紙をかかげた。
 床屋も少年も若者たちも、たぶん秘密警察に連行され秘密のうちに秘密の処置を受けたと思われる。
 わたしも、秘密警察はこわい。相手は権力者である。女性ではあるがやり手の敏腕大臣である。やり手ではあるがババアという歳ではない。所管する官庁の役人たち、次官、審議官、局長、課長、みなおののいている存在である。
 その大臣の秘密とはなにか。言ってしまおう。ここは僻地だ。広大なWEB空間のなかでもまれに見る閑古鳥スペースだ。ここで叫んでもだれに聞こえるはずもない。しかしだれかが聞き取るかも知れない。好暗警察でないことを祈る。好暗調査庁や軽視庁好暗部の耳に届かないことを祈る。

 わたしがここで小声でリークする秘密とは、
「大臣は時をかける元少女だ!」
ということだ。時をかける少女とはタイムリープ能力を持った少女だ。その名は紺野真琴、女子高校生。なにをやろうとなにをさぼろうと、いくらでもリセットできる。大臣はその少女とは別人だ。顔を見れば分かる。
たいていの現代人もリセット能力を持っている。ただしその能力を使える場はかぎられている。わたしなどもゲームでしくじるとリセット技を躊躇なく使う。この技のよいところは、使えば使うほどゲームの面白みが薄れることだ。おかげでゲーム世界からの脱出も果たすことができた。脱出までに費やした膨大な時間はもどってこない。

 もう一度叫ぼう。
「大臣は時をかける元少女だ!」

 ここでいう大臣は、上から目線で上段から物言う元少女、高位置大臣だ。別名高飛車大臣。目線位置の高さで言うと政界でも一、二を誇る高身長だと思う。国会議員が大勢あるいていても目線と口が頭の上4,50センチを浮遊してあたりを睥睨しているのでそれと分かる。
 高位置大臣はつい一年前にはひょっとして総理大臣か、とさえうわさされるほどの好位置大臣だったが、最近はまた目線と物言いだけが高い高位置にシフトバックされた。いまは捲土重来を虎視眈々、である。神棚に榊を捧げ、幣を振って日夜こう唱えておられる。
臨兵闘者皆陣列在前、捲土重来虎視眈々捲土重来虎視眈々。
*人事などで後れをとったと歯ぎしりしておられるかたは、印を結んでこの呪文を唱えてみられるのもよいかも知れない。なにもしないよりマシだ。

 大臣が「時をかける元少女」ではないか、とうすうす気づいたのは、パーティ券の領収証事件の時だ。政治資金規正法上問題のある領収証が見つかったと指摘されたとき、大臣はタイムリープして領収証を差し替えた。詳しくは当時の報道を呼んでいただければよい。たいていの国会議員はこれほどあからさまには領収証リセット技を使えない。当時から、この人は超能力者かもしれないとうすうす感じていた。

 最近の某省行政文書流出事件でそれが確信に変わった。すでに大臣は文書作成時点にかえって過去を変改しているにちがいない。でもなければあれだけの自信で「捏造だ」とは言い切れない。ただ、単に文書を差し替えるだけでは今回の問題に対処することはできない。文書そのものはすでに流出しており、某省大臣もその文書が正規の行政文書であることを認めているからだ。大臣としては自分が担当官からレクチャーを受けたという過去の事実を抹殺しなければならない。時をかける元少女、恐るべし。レクチャーがあったとされる時点にもどって、あったはずのレクチャーをなかったことにするためにあらゆる改変を試みたにちがいない。

 あいにく、こちらはパソコンのリセットボタンを押すくらいしかできない「再起動に駆ける元少年」後期高齢者である。その時点の役所に潜入して事実を確かめるなどはできないから、以下は憶測でしかない。ただの憶測をネット上に書き込むのは事実の歪曲を越えた捏造にもひとしい行為だ。とはいうもののここはWEB上の最果て、番外地である。コンクリート護岸のない沖の鳥島のようなところである。ことのついでに憶測も書いてしまう。
 レクがあったとされる日の朝に舞い戻った元少女はまず文書を作成した担当官に電話をかけた。奥さんが交通事故にあったらしい。救急車で病院に運ばれるのを観た。自分は近所の奥さん、名前は言えない。搬送先は○○病院だと思うけど、ちがうかも知れない。本人からは「主人には絶対にいわないで、と言われている」と告げた。
 次に、省の地下にあるドラッグストアでビオフェルミン止瀉薬を買い、店員と「おなかの具合が悪くって」などとわざとらしく会話した。さらに執務室ではわざわざ秘書室に出向いて、室内全員の前で、秘書に指示する。
「あっ痛たたたっ。おなかが痛くって。しばらくトイレにこもるから、だれも入れないで。会議は全部中止。ああいやだいやだ」などと演技して見せた。あとは大臣室の専用トイレドアをバタバタ開け閉めする。
 こうすれば、レクがあったはずはない、という弱論コンニャクに強弁の竹串を差し込むことができるわけだ。

 以上は「某省行政文書は捏造だ」事件についてのわたくしの推論である。捏造であると反論されるのであれば、反論される側で「大臣は元少女ではなかった」ということを証明していただきたい(たしかにそのおそれはある)。心配なのは大臣がもともと少女であったことはない、と主張される点にある。小・中・高の同窓生百人に聴取したが、大臣が過去に少女であったことはない、と全員が証言するおそれがある。
 文章中の誤字脱字、誤解や曲解、歪曲や誇張、文章のへたくそな点をわざわざご指摘いただくにはおよばない。そんなことをされても当方の傷だらけの自尊心にはなんの影響もない。「そう思っていただいて、結構ですよ!」とお答えするほかはない。


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