見出し画像

炎節

ミーンミンミンミン。

蝉の声が僕の身体を焼いている。

暑い、熱い。
東京の夏は、多分沖縄よりもずっと熱い。
コンクリートが熱気を押し上げ街路樹の蝉はそれを応援するかのようだ。

これ以上熱くなったら、もう人は東京では生きていけないと本気で思う。


でも今日だけは暑さも許せてしまう。
彼女がやってくるのだ。


沖縄の夏はきっともっとカラッとして、風も良く吹き抜けて、彼女は毎日を心地良く過ごしてきただろう。
東京の暑さにびっくりして、嫌になって帰ったりしないかな。
僕はそんな事を思いながら、駅までの道を歩く。



空港までの距離がもどかしいようで、でもどこか会ってしまうのが勿体ないような気持ち。
会ったらまた別れが来てしまう。
会えると分かっている今が、一番幸せなのかもしれない。



ミンミンミンミン。
蝉が鳴く。
熱いのは夏なのか東京なのか僕なのか蝉なのか。
最早もう分からない。
だって今日は彼女がくるんだ。



#ショートショート
#30秒小説
#今日は何の日
#旅する日本語
#炎節



いいなと思ったら応援しよう!

持田瀞 Mochida Toro
お読み頂きありがとうございます⸜(๑’ᵕ’๑)⸝ これからも楽しい話を描いていけるようにトロトロもちもち頑張ります。 サポートして頂いたお金は、執筆時のカフェインに利用させて頂きます(˙꒳​˙ᐢ )♡ し、しあわせ…!

この記事が受賞したコンテスト