IT導入:誰がために[20240814]
今週は、お盆期間で夏季休暇の方も多いだろうし平日は4日しかないので、少し実務から離れた話をしようと思う。
今日は、東海大学専門職大学院で教鞭を執っていた時の話。
所属していた学会から韓国に視察に行った。
かれこれ13年くらい前なので、丁度、世界デジタル政府ランキング(国連版)で韓国が第1位だった時代だ。
確か、日本は17位とか18位とかにランキングされていたので、韓国で何が起きているのかどうしても知りたくて、上司である研究科長にお願いをして旅費を工面して貰った。
韓国では、休む暇も無く色々なところを視察して回ったが、忘れられない経験の1つに電子教科書・電子黒板を導入した小学校の授業参観をさせてもらったことだ。
私の記憶が確かなら小学4年生の社会科の授業だった。
大韓民国の歴史のような授業だったと思う。
黒板は「かなり完成度が高く」教科書の内容に沿ってアニメーションやBGMなどを発するように工夫されており、未来の授業を彷彿させるものだったと記憶している。
児童達が持っているのはHP製のノートパソコンで、液晶ディスプレイ部がかなりフレキシブルに動かすことが出来る(自分に向けたり対面の人に向けたり出来る)ものだった。
先生も児童も、電子教科書のシナリオ通りに授業を進めているように見えた。
そういう意味でも「完成度が高い」と賞賛できた。
幾つかのクラスを回ったが、学年や科目に関係無く「完成度の高い」授業を実施していた。
授業参観が終わった後に、私たち視察団は校長室に案内され校長先生と授業担当の女性の先生、少しベテランの男性の先生も同席で意見交換をした。
校長:「わが校は、授業の電子化推進の政府指定校になっていて、実験的に電子化しているクラスと今までと同様に紙の教科書で授業進めているクラスが混在しています」
私たち:「とても完成度の高い授業をされていたように見えましたが、先生方の技能修得に要した苦労などはありますか?」
女性の先生:「昨年1年間、私も彼(男性教師を指して)も土日含めてお休みが一切無く、ずっと電子教科書での授業進行の研修を受けていました」(ちょっと涙ぐんでいるようにも見えた)
男性の先生:「未だ電子化を始めたばかりですし、1年間休み無しで研修を受けて1学年分の授業進行方法を習得しますので、先々はそういうところも改善が必要だと思います」
女性の先生:「新しい学年を受け持つことになれば、また1年間は休みがありませんので、今の学年だけしか教えたくないというのが本音です」(やはり涙ぐんでいるようにも見えた)
私たち:「ところで、電子教科書・電子黒板を使うクラスと、従来通りの紙の教科書、通常の黒板で授業をしているクラスが混在しているとのことでしたが、対照実験の内容は何ですか?」
校長「今のところ、電子化クラスと従来通りのクラスで成績の違いはありません」
私たち:「成績と言うのはペーパーテストですか?」
校長:「そうです。習熟度を測るテストです」
私たち:「そもそも電子教科書・電子黒板は、如何なる目的で導入されたのですか?」
校長:「それは政府の決定であって、私たち現場はそれに従っているのです」
これ以外にも多くの意見交換(いや、色々と韓国の教育事情を教えて貰った)をさせていただいた。
学校を後にして視察団だけになった時に、韓国人のツアーコンダクターからこんな風に聞いた。
「国連の電子政府ランキング上位になったことで、電子教科書や電子黒板などの設備に対してのノウハウをどの国よりも早く確立させて、上手くすれば海外から電子化を受託して外貨を獲得したいという思惑がある」
教育現場の課題を解決する為ではないのか…。
視察団一同から、溜息が聞こえた。
遅かれ早かれ教科書は完全に電子化されるだろう。
正直、韓国でみたデモンストレーション(敢えてこう呼ばせて貰うが)はあまりにも完成度が高すぎて「ショー」を見ているかのようだった。
そんなしっかりとシナリオ化することに、如何ほどの意味があるのか?
しかも、先生は辛くてキツくて涙ぐんでいたのに。
合同会社タッチコア 小西一有
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