たまには真面目に仕事の話:その16-通訳案内士ってどうよ-超絶ハイシーズンが戻ってきた!-
奄美から移動して、再びやって来た関西国際空港、JRパス窓口の前には、JRパス発行を待つインバウンド(国外からの来訪者)観光客の長蛇の列。
もはや、日本と言うより「異国」。
まずは、JRに乗るべきか、地下鉄に乗るべきかで右往左往している海外から来た人達。 空港の側、ここまでは辛うじてWifiが通じる。
駅の外では、携帯を見つめる人々だらけ。
そんな観光客は、基本放置されている。
「自分で調べてから来てや」的な感じ。
駅員さんの数も、極限まで減らされているので、声を掛けることができそうな駅員さえ見当たらない。
よって、改札にいる駅員さんは質問攻めで、いつも忙しそう。
行先が分からず右往左往している大きなスーツケースを抱えた観光客に、思わず「どこ行くの?」と聞いてしまう大阪のおばちゃん(私)。
笑顔で尋ねれば、緊張した顔を少しほころばせる観光客。
「どこへ行くの?」だけを、いろんな言語で言ってみる。
「なんば」駅を経由しなければ、安くならない地下鉄経由のチケットを探す人達。 券売機前で、値段が違うと騒ぐ人、多数。
彼らが捜しているのは、その名も「関空ちかトク」切符。最も安く大阪市内まで行ける切符。大阪メトロインフォメーションカウンターにいた時には、山ほど販売説明してきた。
けれど必ず「なんば」を経由しなければならない。
彼らの行先を聞くと、どう考えても天下茶屋経由が時間的に目的地への到着が早い。
大阪市営地下鉄のおえらい様、どうか、天下茶屋経由のちかトク切符も作ってあげてください。
重たいスーツケースを抱えた全員を、人で溢れる地下迷宮のなんばでは乗換させないであげてください。
大阪のみならず、京都は、もっと紅葉を楽しむ人たちで溢れかえる。
京都に宿を取れなかった人たちは、宿泊地が多く値段もリーズナブルな大阪に宿を取る。
感染症騒ぎが収まり、インバウンド解禁となった今春、3年分の観光客が押し寄せたため、とんでもなく忙しかった。
それを凌ぎそうな勢いの秋のハイシーズンがやって来た。
その直前、夏の終わりの宿の安い時期を狙って行われている修学旅行。
この時期、京都の大型タクシーは、全国から訪れる修学旅行生のもの。
タクシーに乗ることを諦めて、公共交通機関を利用するガイドは多い。
奄美大島と関西の往復で、体力はかなり疲弊気味。
なのに、不規則過ぎる生活のせいか、なぜか体重は増加する。
副業活動を認めてくれる所属先に感謝しつつやって来たひと月ぶりの京都。もはや3年間のあの悲壮な思いはなく、充実している?と聞かれれば、そうなのだろうかと思う。 身体はきついけれど。
今やどこでもネットにつながる時代、地図アプリに頼ればガイド無しでも大丈夫!くらいに考えてやってくるインバウンドのFIT(Foreign Individual Tourists:個人観光客)は多い。
とりあえず、一日目に京都駅からホテルまで移動して、ようやく「やっぱりガイドが必要だわ!」と理解するインバウンド観光客のかたがた。
移動の大変さ、時間がかかりすぎることを身を以って知るまで、京都の広さに気が付かない人達。
「今日は1万3千歩も歩いているわ!」
などとぬかしやがる。
(お下品)
直前の予約も増え、ハイシーズンは通訳不足が顕著。
特に、中途半端なエリアにある民泊に停まっている人や、10時過ぎの大混雑必至の時間から始まるようなツアーのリクエストは、手を挙げないガイドが多数になってくる。
そういうインバウンドツアーに限って、短い時間を希望していて、それでいて安く使われるのだから、普通に仕事があるガイドは手を挙げないだろう。
短い時間を希望する主婦のガイドさんも勿論いるのも事実だけれど、半日でも、一日でも、ガイドの一日が潰れてしまうのは同じ。
京都は奥深い。
写真を撮る目的だけで何も知らずに訪れれば、「また入場料金を取られた!もうお寺はいい!」という感覚だけで終わる。
しかも、未だ現金のみの場所のなんと多いことか。
何故、3年もあったコロナ禍で、その対応をしておかなかったのか不思議でならない。
有名どころの寺院は、すべて有料で、入場には600円程度かかる。一方で、入場料不要の神社や嵐山には、とんでもない数の海外観光客が群がる。
清水寺の山門まで来て「中に入らない」という観光客のなんと多いことか。
山門横の階段は、ただ夕焼けを待つだけの観光客が居座り続けて通行を妨害している。山道を逆行しようとする不届き者もいる。(バチ当たりすぎる)
公共交通機関(特にバス)が発達しているとはいえ、その駅から目的地までは、大抵の場合、とんでもなく離れている京都。
目的地までの所要時間について、ネット情報をあてにしてはいけない。
少なくとも、その1.5倍の時間がかかるとみておいた方が良い。
山道のアップダウンは計算されていないし、人混みで先に進めないということもネット情報からは読み取れない。
これ、奄美大島ではもっと顕著。
ネットの所要時間情報は信じるなかれ。
お客様とのミート時「初めまして」の後の打合せでは、それをできるかぎりオーバーに伝えるようにしている。
特に年配の方や、足が悪い方をご案内する際、ことさら大げさに強調する。
それだけの情報を事前にお伝えしていても、「平日だから大丈夫だと思っていたのに、あなたの言うとおりね。それにしても、こんなに人が多いとは思わなかった。お祭りでもあるの?」
というご意見をいつもいただくことになるのだけれど。
10時にホテル出発のツアーを受け付けている代理店の募集広告を見たりすると、本当に現地を知ろうとしていない会社なのだなと思ってしまう。
お客様が、朝はゆったり出発したいという気持ちはわかるけれど、ならば、有名観光地にご案内すべきではない。通常受け付ける時に、説明すべき事柄のはず。
受付けても良いけれど、どこを歩いても人だらけだということは、予約受付の際に少なくとも伝えておくべきではと感じる。
まぁ、ガイド側はそれを知っているので、大抵の場合、その遅い開始時刻を見た瞬間に、ベテランガイドは手を挙げないのだけれど。
最近では、直接やり取りできる場合に限っては、自らお客様を説得して開始刻を早めるようになってきた。
逆に、1時間前倒しの8時スタートならば、「静かな京都」を見られる時間が少なくとも1時間はあるので、受けようとするガイドは多い。
「JRパスを使って嵐山に行きたいなら、JRの駅から目的地の終点まで最低でも片道40分は歩きます。写真を撮っていたら往復だけで2時間近くかかります。この時間から出発したら、人だらけですよ。明日の朝にしませんか?」
「金閣寺と伏見稲荷の両方に公共交通機関だけで行くなら、移動時間だけで3時間見ておいてくださいね」
「金閣寺は一方通行で、逆行できません。山になっていますので、長い長いスロープを歩きます。人だらけなので中をゆっくり歩くだけで1時間かかりますよ」
「この宿泊場所が地下鉄から遠く離れているので、歩いて駅まで10分、到着するまでに1時間かかります」
「伏見稲荷の麓から山頂まで、登りたいなら、到着してから更に2時間必要ですよ」
これをしっかり聞いてくださるお客様は、納得して、ガイド付きで行きたい場所、自分たちで回る場所を分けて決められる。それでもお客様の体調次第で、要所、要所で、タクシーを利用することになるのだけれど、最近やって来たばかりの道を知らない個人タクシーに当たると大変なことになる。
僅か4時間のツアーで、その日の午後と翌日に必要な情報だけをガイドから聞きだして、自分たちで回ろう!なんていう考えを持つお客様に当たると、更にとんでもないことになる。
とにかく時間を短縮して写真を撮ることしか考えていないお客様に遭遇すると、本当に京都という場所に合わない客層だなと感じながらも、「仕事」と割り切って必死で回る羽目になる。
京都なら少なくとも3連泊は欲しい。それならここは翌日にどうぞと言えるのだけれど、外国人好みの「体験プラン」みたいなものを予約されていると、その日はそれ中心になる。移動できる範囲も狭まってしまう。
ミートしてすぐ、朝の10分の打合せが最も大切なのは、こういう理由から。
「全てガイドに任せるよ!」と言っていただければよいのだけど、ふたり組のお客様のうちどちらかが話を聞いていなかったりすると、ツアーの途中で揉めたりもする。
「薬が欲しいので薬局に行きたい」
(病院に行きましょね)
「スーツケースが壊れたから先に買いたい」
(明日じゃダメかしら?)
「JRパスはあるけど、明日の移動の為に座席指定しておきたいので、先にみどりの窓口に行きたい」
(JRパス指定もネットでできるようになってくれ)
「お土産を先に買って、重いから一度ホテルに戻って、シャワー浴びて、着替えてから、先斗町のディナーに行きたいので、予約取って!」
(いや、いいけどさ。その時間もガイド料いるよ?)
「ニンテンドー新店舗に行きたい!」
(整理券とるから早く来い。絶対遅れるんじゃない。わかったな!!)
こんなことを朝から言われると、さらに観光の時間は減っていく。
移動中も、観光の説明よりも、現地の予約に時間を取られる。
4時間というあり得ない短さの京都ツアーを受けている代理店に、声を大にして言いたい。
「ちゃんと京都の大きさと、その人の多さを、まず、説明しろ‼」
4時間のツアー広告の中に、溢れるほどのネット情報。
お客様は全てに訪問できると勘違いする。
京都の場合、もしも公共交通機関を使ったら、行ける場所は僅か。
それでも、全部回ろうとするただ写真を撮りたいだけの観光客も多い。
何度かそういうお客様を対応して、4時間京都ツアーは二度と受けまいと思った。
そういうお客様の、考え方は、ほぼ皆同じだった。
「写真を撮って自慢したい」それが最も大切。
到着するなりポーズを作り、写真を撮って、アップする。その時間が何より大切なのだ。
けれど、京都は、「必死こいて」、「走って」、「息を切らして」、「写真だけ撮る」場所ではない。と思う。
繁忙期に突入し、大阪と京都でガイド募集されるツアーの数々。
そういう焦りまくるお客様は、それでも盛り上がれる若い衆に任せよう。
そう思っていたのに、受けてしまった大阪4時間ツアー。
京都から新幹線で大阪入りし、夕方には大阪美味いもんツアーに出るので、それまでお願いしたいと言われ、大阪だからまぁ何とかなるかと思ったのが運の尽き。
その日に限って新幹線は止まり、在来線も遅れ、私鉄も事故。
何とか到着したお客様を、警官と警察犬と観光客で大混雑している新大阪駅から連れ出し、数か所観光してから道頓堀へ。フードツアー担当者にバトンタッチし、全てをフードツアー担当者に託す。別会社だけど、ガイド同士。
お客様を想う気持ちは同じ。
安堵する間もなく、翌日担当したお客様は年の離れたカップルと、20年来の友人というおしゃべり大好きなお友達同士。いずれも同性同士のカップル。年は離れているけれど、とても知的なふたりに心癒される。
日本も男女で区分することなく動けるようになればいいのにと感じさせてくれたひとたち。記念日を祝う為に日本を選んでくれていたおふたりのために老体に鞭打って全力で奮闘する大阪のおばちゃん。
「明日も京都なら、こことここは明日にどうぞ」
そんな打合せを朝から10分。 お客様に信頼してもらうための大切な時間。
「ネットに書いてある所要時間は、ここ、京都では特に当てになりません」と繰り返すガイドの言葉に、「昨日それを信じてとんでもない目に遭った」という話をされ、すっかり打ち解けることができた時の安堵感は半端ない。
一日中同行しても信頼してもらえないことも勿論ある。
大抵は、グループの中の誰かが、「ガイドなどいらない。自分たちだけで回りたい、回れる」と思っていることが多い。
「ある程度の情報を引き出したら、もういらない」
そういうスタンスのお客様もいたりする。
実際、事前にメールを山ほどやり取りした挙句、直前に予約を取り消した人もいる。あまり親切にツアー前にアドバイスはすべきではないという教訓。
けれども、日々現地代理店に向け延々京都の実情報告書をあげ続けた結果、ようやく最近は8時開始のツアーが増えてきたように思う。朝はきついが、早めに終わるので、その後に自分の時間で気になっていた場所の下見もできるので有難い。
概ね、良い代理店からは、良いお客様が来る。
金儲け主義の所からは、コストばかりを考えるお客様が来ると感じている。
実際、代理店ごとに、こんなに客層が違うのかと驚くことも。
一生にもう一回あるかどうかわからない旅。
「もう一度ここまで来ることを考えたら、絶対にタクシーに乗った方が早いですよ」
そうお伝えすると大抵は納得されるのだけれど、ガイドやタクシーに支払うべき数千円のお金をケチったせいで、人混みを歩き、長い列に並び、観光地ではもみくちゃにされ、1か所巡るのに2時間以上かかる。
長い日数を滞在できるならまだしも、一泊二日の滞在では、見られる場所は限りなく少なく、京都の最も素晴らしい静けさや、歴史的な時間の流れを感じることなどできない。
そういうことをまず先に伝えるべきは、予約を受け付ける代理店側のはず。
現地情報が届いていないなら、それを報告書で伝えて分かってもらうのも、ガイドの仕事と割り切る。
インバウンド観光客だけでなく、地方から来られる日本人の方にも、是非、終日ガイドを雇って欲しいなと思ってしまう京都。ガイドがいれば、思った以上に、時間を短縮して数多くの場所を回れるはず。
次の目的地、広島や和歌山の公共交通機関についても、いろいろお伝えをしていると、「明日もガイドをお願いできない?」と言われるようになるのだけれども、出来る限り代理店へは義理を通したい。
何より万が一の時の保険を考えると、やはり間に入ってサポートしてもらえていることは心強い。
毎日のガイドを連続すると脳が相当疲弊する。体がもたない。
ガイドの勤務日数は100日しかない人が多いとか言われるけれど、一年の1/3も働いたら、絶対身体を壊す自信がある。
よって、「自分たちで会社にしよう」というガイド仲間は多い。
実際、個人で受けているガイドも増えて来た。
だからこそ、代理店側は「ガイドが不足している」と言うのだろう。
思うに、代理店が中間マージンを50%以上も取ることをやめれば、きっと、そこに所属するガイドは戻って来るはず。
1回のツアーに10人いれば、代理店には数十万円が入るはす。けれどガイドの手元にはその2割ほどしか入らない。1回のツアーに1人しかいなくても、入って来る金額は同じ。ならば少人数のツアーの方が、絶対に楽。
50%以上の中間マージンは人数が増える程大きくなり、20人のツアーならばその1割しかガイドには入らない。 あり得ない低さ。
団体ツアーの場合、委託料金をかなりあげている代理店もあるけれど、それでも50%以上マージンを取られていたりすることも。
途中で予約人数を追加する悪徳業者は一体何を考えているのか。
「ガイドはいくらでもいる。所詮使い捨て」くらいに思っているのだろう。
これでは、個人ガイドが増える訳だ。
ガイドが不足していると訴えている代理店のお偉い様方へお伝えしたい。
ガイドはいます、多すぎるくらいいます。
ただ、あなた方と働きたいと思う人が、減っただけです、他の代理店と働きたい、個人で集客したいと考えるガイドが増えただけですよ。と。
業務委託料が、受注金額の1/10でも、その代理店のために働きたいと思うかどうか。
ガイド紹介のためのマージン割合を取り締まる法律もない日本。
派遣社員なら、派遣元企業のマージンは3割までとなっている。
不公平極まりない感がぬぐえないガイドと言う仕事。
さらにインボイス制度はフリーランスに重くのしかかる。
一刻も早く、派遣社員と同じように、会社ごとのマージン率を集計して発表して欲しいと思っている。そうすれば、ガイドもよりクリアにそのレベルに応じて住み分けされるはず。
ガイド側も、自分に相応しい代理店を選んで、ステップアップして行けるだろう。自己研鑽の日々は続くけれど、膨大なマージンを取られる日々からは解放される。 顧客からの代理店の信用度も、増すのではないか。
厚生労働省に調査をお願いしたい案件である。
さてそうやって、過酷な日々を終え、悶々とした思いで戻ってきた奄美大島には、翌日、港に巨大な船が待ち構えていた。(タイトル写真)
二千人のお客様に対し、奄美大島が用意できたバスは320名分のみ。
たったのバス8台。
残りのお客さんたちは、徒歩で市内まで歩き、時間を潰す人が殆ど。
市内にしかお金が落ちないと愚痴る人の話を聞いていたのだけれど、様々な場所にお金を落としてもらうための受け入れ準備を整えていないのは、実は奄美大島の、個々の地域の責任だったことがよく分かった一日だった。
暑さの中、土産物を抱えて歩く人たちを大勢見た。
船で運動不足なので、多少歩いても文句もでないのだろうか。
島にあるマイクロバスでも臨時で出すことを考えていれば、各地へ案内することもできただろう。
疲れた身体に鞭打ち、任されたバスにお客様と共に添乗し、奄美大島の南、瀬戸内へ。グラスボートに乗り、油井岳展望台から加計呂麻を見下ろした後、マングローブパークへご案内の行程。
そこで驚いた。店がほぼ休んでいる。
瀬戸内の港での歓迎もなく、静かな海の駅。
国の税金を投入して完成した世界遺産センターも、隣のレストランさえも、お休み。まぁ、静かな奄美大島を堪能できた。と、言えばそうなのだけど。
しかも、ここでお客様からとんでもない一言が。
「お昼食べていないの。船から出るのに1時間も行列で待たされたから」
なんですと?
時刻は夕方3時を過ぎている……。
こんな早い時間に、もうレストラン閉めてやがる。
(お下品 パート2)
バスツアーに乗れず、諦めて個人でバスでやって来たものの、日本語しか書かれていない時刻表に戸惑い、船までの帰り方が分からない人達も。
バスツアーのお客さん以外にも案内し続けることになった。
ということで売店に売られている黒糖まぶしたピーナッツとアイスがバカ売れした。
これだけの行程をランチなしで東京23区よりもでかい島で5時間以内で回る無謀。
「早めに戻って、セレモニーに間に合わせてください」とのリクエストに
応え、時間調整して戻ってくれたドライバーさんが《神》に見えた日。
そうして来週は鹿児島へ。
久しぶりのオフの予定だったのだけど。
こんな仕事を続けていられる人は、絶対どっか頭のネジが飛んでいる。
と思う。
来月こそ、休もう。