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ぜんぶ「ぶるぶる」のしわざ

夜の洗面所で

 数ヶ月くらい前からのこと。夜、寝る前に場を磨こうと洗面所に行くと、背筋に寒気を感じる。ゾクゾクと、薄気味悪さを覚える。そんなことが頻繁に起こるようになった。

 子供の頃は家の中でも、夜ひとりでいると恐怖心があった。しかし大人になって、基本的に自宅の中で「怖い」と思うことはなくなった。まあ誰でもそんなもんだろう。

 今の家は持ち家で、もう5年以上暮らしている。古いマンションではあるが、別に曰くも何もないし、今まで何か不気味な現象に遭遇したこともない。では、なぜ突然、ゾクゾクと恐怖心を覚えるようになったのだろうか。


ガックリくるほどくだらない原因

 原因は単純。数年前から体の病気で療養生活を送っているんだが、ここ数ヶ月は体の痛みがひどくて、寝る前に湿布や塗り薬をたっぷり付けてから寝ている。

 そう謎の恐怖心の原因は、湿布や塗り薬の「ひんやり」だったのだ。それに気づいた時はガックリときてしまった。人間はこんな単純なことで恐怖心を引き出されてしまうものなのか、と。


そういえば幽霊って

 そこでふと思った。幽霊が出てくるときの前兆といえば「冷気」「音」「臭い」なんかが思いつくが、それら前兆は幽霊が引き起こしているのではなく、『それら前兆が幽霊を見せている』のではないだろうか。

 つまり、幽霊が冷気を引き連れてくるのではなく、冷気が恐怖心を引き起こして幽霊を想起させているのではないだろうか。「暗い」「寒い」「何か音がする」「何この臭い」という五感から得た情報に、明快なアンサーがない場合、人間はそこに幽霊を見るのではないだろうか。


『思いついた!』みたいに言ったけれど

 と、まあ大発見みたいな書き方はしたけれど、こんな考察は過去に星の数ほどされてきたことだ。というより、『幽霊がいない』というスタンスで考えたら、大抵はこういった結論にたどり着くだろう。もう何百年も前から成されている考察なのだ。

 『ぶるぶる』という妖怪をご存知だろうか。鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に描かれた妖怪で、人間の襟元に取り憑いて首筋をゾクッとさせて恐怖心を覚えさせる妖怪だ。まさに私の体験は『ぶるぶる』によるものといえる。


ぜんぶ『ぶるぶる』のしわざ

 恐怖心は、人に見えないものまで見せる。聞こえないものも聞かせる。見聞きしたものが恐ろしいのではなく、恐怖心が見聞きしたものを恐ろしくさせるのだ。少なくともオカルティックな恐怖というものは、ぜんぶ『ぶるぶる』のしわざといって過言ではないのではなかろうか。

 夜の洗面所が怖い人は首筋を温めてみよう。もしかしたらそんな単純なことで、『ぶるぶる』は追い払えるかも知れない。

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