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私たちの生存報告。「本は港」で考える
二つの本を読んでいる。
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一冊は「BEACON VOL.1」というZINE。もう一冊は小沼理さんの「1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい」という日記本。
「BEACON VOL.1」は2021年8月、コロナ禍真っ只中に発売された。記念すべき創刊号のテーマは「私たちの生存報告」。新型コロナウイルスの流行による孤独や没頭、議論の時代で、自分はこんなことを考えて生きているよということを執筆者それぞれが「生存報告」として自由に表現している。
「1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい」は、コロナ流行が始まった2020年から始まる著者の3年間の日記である。ゆっくり読み進め今やっと1年分(2020年分)を読み終えたところだ。毎日感染者数やコロナに対する政策のニュースが飛び交う中で感じた個人的な不安や社会に対するアクションを丁寧にまとめている。
「BEACON」の編集者石垣さんと小沼さんは偶然にも同世代で、2020年時点では28,9歳くらいだ。社会人として駆け抜けた20代の終わりかけにこのような世界情勢にぶつかったことは、暮らしやカルチャーや政治を"家に篭って"再考するきっかけになったのだろう。そして彼らは、生存報告を発信する。ハロー、こちらマイホーム。
マスクを外して生活ができるようになってからずっと、あの頃何を受け取ってどう感じていたのか文章に残しておけばよかった、とよく考える。コロナ流行が始まった2020年の春、わたしは20歳であった。初めての恋人や週5日も6日も入れたアルバイト、外国人留学生ばかりのゼミ。もちろんコロナのせいで自分の学業に制限がかかり悔しい思いをしたこともあったが、それ以上に「大学生」を謳歌しており、一度立ち止まって自分の身が置かれている異常な環境について深く考えるというようなことはなかった。その頃は読書の習慣が無かったし文字を連ねることの楽しさも知らなかったのも大きい。
でもそれ以上に、逃避していたのだ、と思う。
コロナに翻弄される社会を他人事とせず、彼等のように真摯な姿勢で向き合い、表現すればよかった。たとえそれが内側に向いているものであっても、なんでもいいから、残しておくべきだった。
彼らの本を、少し顔をしかめながら読んでいた。毎日のようにコロナ、コロナ、コロナと窮屈であったあの日々を思い出す。そして考える。わたしにできたのにやらなかったこと。そしてわたしがやらない間にもアクションを起こしていた人たちのこと。
今わたしができること。
この生存報告は単なる記録ではなく、「思考すること」を引きずり出す。ここに、読書の真髄がある。
目まぐるしく社会は周る。韓国が戒厳令を出した。シリアの独裁政権が崩壊した。高齢者が女子高生の乗る自転車に轢かれた。さらにもっと些細な、自分の家族や恋人のこと、明日に残した仕事、歯医者の予約、皿洗いが頭の中をぐるぐると踊っている。目を背けたくなる。
自分で決めなければいけないことばっかりだ。
そんな社会の中で今わたしが一番大事にしたいことは、「考え続けること」。
わたしが本を読み、字を書く理由は、
わたしが立っている場所とそれ以外の世界について考えていたいし、考えていようよ、と思うからだとようやく気づいた。
そして、思考をもっと豊かに朗らかにするには交信が必要である。
アンテナを伸ばし、ニンゲンと思いを送受信すること。
それが楽しくてわたしは本屋に通いブックマーケットを訪れる。
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だからわたしは今のところ、昨今の若者の活字離れや出版業界の危機を憂いて本屋に足繁く通っているわけではないのだ。
新鮮な野菜が食べたかったら生産地の直売所が一番であるように、
本屋、イベントなどの場で、そこに置かれその土地の空気を吸ってじっと待っている本たちを手に取ることは、
文字から受け取られる知識・考えだけにとどまらない、多くの発想をくれる。
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この2冊の本は12/07,08に横浜で行われたブックマーケット「本は港」で購入した。公式HPに主催者の思いが書かれている。
本のある場所には、
いろいろな人が集まります。
航海を続ける船が、いっとき港に接岸するように
これまで背負ってきた荷物を下ろし、
何かを補給しようとする人
はじめての場所に向かうために勇気をもらおうとしている人
新しい地図を手に入れようとする人
あるいは港のざわめきを愛し、そこに身を浸したい人
しばらくその場にとどまり、ただ静かに海と向き合いたい人。
神奈川県という場所で、
本屋や出版社という港を営む方が集まり、
新しいつながりが生まれる機会を作りたいと思い、
「本は港」という企画を考えました。
ブックマーケットと
トークイベントを通して、
本の力を
多くの人に感じてもらえる機会にしたいと思っています。
本は港。人々が行き交い、活動する、あるいはたたずみ、見つめる。
静と動の繰り返しの中で、今日も私たちは考えている。わたし自身を。この街を。この世界を。
ハロー、こちらトーキョー、神田駅徒歩5分雑居ビル5F。息が詰まるほど静かです。なんとかやっています。
あなたは?