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朝飯前は釣りの時間。

 春になると。朝が開けると。とっちゃんは浜へ行く。
 ※春でなくても夏でも秋でも。冬が開けたら釣りシーズン。
 釣り糸や釣り針、果ては釣り竿までが落ちているからだ。浜の端から端まで歩く。本当の目的は朝飯用の魚を釣ることとその餌を確保すること。その餌とは、フナ虫、赤虫。努力は要るがタダだ!缶詰の空き缶一杯とったら終了だ。 
 ウマズメの内に一竿なげて、朝飯用の魚を取る。

 そのころ、都会では釣りブームが到来してて、港には数人の釣り人がいる。とっちゃんは一番いい場所で釣るから、当然、人も寄ってきて、港の一角は数人が釣り竿を並べた。都会人のエサはもちろん、都会の釣り道具屋で買ったもの。とっちゃんとは釣れ高が違う。もちろん、とっちゃんの圧倒的勝利だ。
「兄ちゃん、何で釣ってるの?」
「これだよ」
「ふうん。ちょっと2~3匹分けてくれない」
「いいよ」
しばらくしたらおじさんが戻ってきて
「兄ちゃん、いくらで買ったの?」
「買ったんじゃないよ、浜で取るんだ」
「そうか、じゃ、売ってよ」
「だめです。これ一個しかないんで」
「へぇ。もうしばらくやってくの?」
「もう帰ります、あ、これ要りますか?」
「いいの?ありがとう」
おじさんが大漁だったことは言うまでもない。

 そのあと、とっちゃんは釣りの生き餌を3缶とるようになった。
 おじさんが喜んでくれた、それはイコール、遠くからわざわざ来たのに釣れない餌を使っていることが気の毒だからだ。それに、何かと声をかけてくれたのに、あげるものがないのもなんだか違う気もしたし。
 もちろん、こちらから声をかけてまで、あげる気はないが、たいてい、向こうから声をかけてくるのだった。1缶100円。多分都会では1,000円くらいで売っていたころの話。

 3缶にしたのは、タイトな時間の中でついでに採れる量だったから。目的は釣り(魚との対話が楽しい!)だから、その時間を削る気はない。
 終わったらさっさと撤収。

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