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映画『ハケンアニメ!』|いいものを作りたいという気持ちが「仕事」を超えてしまう時


いいものを作りたい。

ギリギリまで1番いいものを作れるように頑張りたい。
「ある程度」のところで終わりにすることももちろんできる。ある程度のところで終わりにしても、限界までやっても、給料は変わらない。
それでも、どうしても、誰かの胸を打つものを作りたい。


そんな主人公たちの気持ちが伝染する映画『ハケンアニメ!』。


こんないい映画があったのか。
こんなに面白くて、興奮できて、
仕事への情熱と、それが「仕事」を超えてしまう瞬間を描いた、胸が詰まるような映画があったのか。


公開は2022年5月20日。
国内上映館数338館で公開スタートを切ったものの、『シン・ウルトラマン』や『機動戦士ガンダム』などの話題作に挟まれる時期で、国内映画ランキングでは公開初週からトップ10入りを逃し、なんと6月10日から上映が終了する映画館もあったそうです。
興行収入は約1.8億円。(Wikipediaより)




……嘘だろーーーーーー!!!!
こんないい映画が1.8億?!



マスコミよ、SNS勢よ、何をしとったんだ!!!
もっと盛り上げてやってくれよ!
『侍タイムスリッパー』みたいにいくらでも盛り上げられるだろうよ!そういう時代だろ!


と叫びたくなりつつ、私もこの映画が公開してた記憶がありません。
子供ができてから映画館に行くことがめっきり減ってしまい、アンテナが低い部分もあるんですけど、それにしたって記憶がない。
今回はprime videoの新作を調べていたら『ハケンアニメ!』があり、あらすじ見て「おもしろそうだな〜」と思って見ただけです。


おめでとうございます!!!
2022年の公開時には『ハケンアニメ!』をスルーされていた皆さま、配信の時代を生きているお陰で今すぐ見れます!


ということで、映画『ハケンアニメ!』のあらすじはこちら。


連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した瞳(吉岡里帆)。だが、気合が空振りして制作現場には早くも暗雲が……。
瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城(柄本佑)は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。
最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴監督(中村倫也)の復帰作。
王子復活に賭けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの香屋子(尾野真千子)……
瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら“ハケン=覇権” を争う戦いを繰り広げる!!その勝負の行方は!?

prime videoより(長かったので一部抜粋)


タイトルを聞いて「派遣アニメ」?と派遣のイラストレーターか何かの話かと思いました(ドラマ『ハケンの品格』のイメージ)が、「ハケンアニメ」は、ある一定期間で最も人気を集めたアニメ作品を意味する「覇権アニメ」という言葉を指しているそうです。


アニメ業界については全く知りませんが、なんと現在は毎クール50本ものアニメが制作されているとのこと。
50本!!!アニメってそんなに制作されてるの?!
その50本のアニメを制作するのに、いったい何人の人が動いているんだ……!
と戦慄。


神作画の天才アニメーターの女性が会社からの突然の呼び出しに「今日(デートのために)休むために何日も徹夜で仕事して……」と文句を言うシーンを見た時は、心の中で昔の(番組制作の仕事をしていた頃の)私が彼女に抱きつきました。

わかる!!!!!!
私も友達の結婚式で休むために徹夜した!
会社から参加するように言われたセミナーに行くために(その日仕事できない分)徹夜した!
3週間ぶりの休みで、スケジュールに「休み」って書いておいたのに上司に勝手に打ち合わせ入れられてた!
誕生日だから休み予定取ってたのに、その日を休むために毎日遅くまで仕事したのに、台風来そうだから来いって連絡きたよ!
人の休みをなんだと思ってんだよ、馬鹿野郎!!!!


私は出産前はテレビ番組の制作の仕事をしていました。それこそ企画からアポ取りから打ち合わせから構成から撮影から編集から何でもしました。(もちろん、神作画の彼女とは違い、平々凡々の制作マンです)
あの頃はよくもまぁあんなに働いたなと今は思います。休みはよくて2週に1回、下手したら1ヶ月に1回、毎日終電あたりまで働いて、このままだと私すぐ死ぬ(過労で、ということではなくて、仕事ばっかして人生終わるんじゃない?という意味で)と思いながら仕事してました。
その頃にテレビだかどこかのウェブサイトのお悩み相談で、「彼氏が仕事忙しいって言ってるけど絶対嘘!2週間も休みがないなんてあり得ない!!!」みたいなのを見て「あり得るよ……普通にあるよ……」と心の中で、その休みがない彼氏に同情しました。


ということで、動画でもあんなに大変だったのに、それが絵なんて考えただけでも震えます。映画に出てくるアニメーターの方を見て、みんな大丈夫?ちゃんと休み取れてる?生きてる?と心配になりました。


※ここから先は一部内容に触れますので、映画をご覧になっていない方は是非見てから戻ってきてください!
皆さまの人生で決して無駄にならない2時間8分です!!!


主人公の吉岡里帆は、中村倫也演じる監督のアニメを見て「アニメを作りたい!」と勤めていた県庁を辞め、大手アニメ制作会社に転職。

新人監督ながら、野心も、理想も、作りたいものも明確にある吉岡里帆ですが、スタッフや声優をまとめるのに苦労します。

天才と言われる中村倫也が監督するアニメと同時刻に放送されている吉岡里帆が監督するアニメは、スタート直後は同じくらいの視聴率だったものの、評判も視聴率も徐々に開いていき、中盤あたりでは中村倫也が圧勝の状態。

そんな中、自分が大事にしているセリフをカップうどんのコラボCMで面白おかしく使われているのを見て、吉岡里帆は怒りに震えます。


そう、よく考えれば、吉岡里帆はずっとイライラしているのです。

可愛いだけの人気声優を使うのは嫌。
ビジネスのためいろんなメディアに出るのも嫌。
スタッフによっては感情で伝えて欲しがる人もいるし、明確な数値で伝えて欲しがる人もいて面倒。
本当にいいアニメを作れば視聴率はついてくるはずだし、本当にいいアニメを作ることだけに集中したい。

「自分だけがこの作品のために頑張っている」と視野が狭くなっていた吉岡里帆ですが、声優もスタッフもプロデューサーも、みんながそれぞれの立場で「この作品をどうにか届けたい」と仕事をしてくれていることに気づいたことで、彼女の仕事の仕方も変わっていきます。


一方、監督するアニメが視聴率も評価もいい中村倫也ですが、それでも、もっといいものを、と修正を連発。中村倫也の追い求めるアニメのレベルが高すぎて、周囲は付いていけなくなります。

それでも微塵も妥協しようとしない中村倫也。
中村倫也「どれだけやっても納得できないもの世に出したら終わりなんだよ」

ぎゃー!!!!かっこいい!!!!!!


と思うと同時に、常に自分が最高のものを出し続けるのはどんなに大変なことだろうと想像するだに吐きそうになりました。

中村倫也の本気に触れた尾野真千子は制作会社に頭を下げ、制作会社スタッフも「プロデューサーがここまで本気なら私たちも本気にならないと」と仕事を受けます。


そして吉岡里帆も、改めて自分がどんなアニメを作りたいのか考えた結果、大幅にラストを修正したいと言い出します。 
このタイミングでの修正は不可能だし、吉岡里帆の考えるラストは今後の円盤の売れ行きを考えたらNGだと制作デスクは大反対。


そりゃあそうでしょう!
人には限界があります。ここをこう直して、もっとこうして!と言われたところで対応できないこともあります。例えばめちゃくちゃしんどい仕事を上の人間が簡単に受けてしまったら、その会社のアニメーターたちを苦しませることになる。もちろん仕事は全力でやりますが、仕事である以上、どうしたってどこかで線引きは必要になるんです。
内容についてだって同じです。監督がやりたいと言っても、簡単にストーリーは変えられない。プロデューサーが上層部を説得する必要がある。今後の円盤の売れ行きだって悪くなる可能性が高い。


それでも、プロデューサーもスタッフも、吉岡里帆の考えるラストを作るために協力することを決意します。
そして、その様子を見て覚悟を決めた制作デスクの、諦めたような、でもめちゃくちゃ楽しそうな顔が印象的でした。


この制作デスクだって、ものを作ることに対しての情熱は絶対あります。ドライとか、失敗しないことしか考えてないとか、そういうことじゃないんです。制作デスクは最初「仕事」として、みんなにとって1番いい仕事をしようとしただけです。

けれど、制作デスクも、周りのスタッフも、プロデューサーも、吉岡里帆の懸命さに「いいものを作りたい」「最高のものを作りたい」「誰かの心に刺さるアニメを作りたい」という純粋な気持ちが駆り立てられた。
みんなのその気持ちが、「仕事」を超えてしまった瞬間でした。


ここを超えちゃったらもう終わりだよ!
とツッコミながら泣いてしまう。


もうここから先は「仕事」じゃない。
給料のためじゃなく、会社に認められたいわけでもなく、売り上げを上げたいわけでもなく、
ホワイト企業であることや残業を減らすことが叫ばれる今、それを振り切ってでも、どうしてもやりたい仕事がある。
仕事だけど、「仕事」を超えて、作りたいもの、届けたいものがある。


どこまでが仕事かと言う線引きはとても難しいし、付いてこれない人もいて、もちろんそれが悪いわけじゃない。
私も出産前はめちゃくちゃな働き方をしてたけど、あんな働き方は、出産がなくても私はずっとはできなかったと思います。


それでも。
この映画を見ている間だけは、自分も懸命に仕事をしたくなる。している人を眩しく思う。
この瞬間だけは「仕事」を超えてしまう彼らの気持ちが痛いほどわかる。
仕事ってこんなに人の中心にあって、誰かの世界を救って、それがまた自分を救うことにもなるのだと気づく。こんなに素敵な、情熱をかけられるものだったんだと涙が溢れる。


しかも、映画の中で吉岡里帆や中村倫也が監督しているアニメもすごくいいんですよ!映画の劇中のために作られたアニメなんて、とんでもなく豪華……
もちろんアニメの一部しか見れないんですけど、それでもアニメのラストには胸が詰まりました。


とんでもなくオススメ!全員かっこいい!


昔、制作の仕事を始めた時、その会社の偉い人に「『好き』だけでできる仕事じゃないから」と言われたことを覚えています。
あの時の偉い人に言いたい。
確かに『好き』だけでできる仕事じゃないかもしれないけど、『好き』がないとできない仕事だった。『好き』って気持ちが、全てを頑張る力をくれた。


今は全然違う仕事をしてますけど、
今の仕事のことも、もっと好きになりたいと思わせてくれた映画『ハケンアニメ!』でした。


おしまい。


イケメン柄本佑の出現に注意してください。
途中まではただただ嫌な感じの人で、かっこいいとか微塵も思わなかったんですけど、急にギアチェンジしてきます。

おい、その横顔なんや!どイケメンやないか!!!!と画面に向かって叫びました。←マジです。
一度イケメンになると、そこからはもうイケメンにしか見えません。
あまりの突然のイケメン化に恐怖すら覚えました。
ご注意を。

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