映画『記憶にございません!』| 三谷幸喜映画祭① 生まれ変わらなくても生まれ変われる
note上でもInstagram上でも物議を醸してる三谷幸喜最新作『スミオノの話をしよう』。
ご覧になった皆さんのレビューを読んで、「おぅおおぅおぅ……」と思っております。
私もできることならその会議に参加したいんですけど、子供が小さいので映画館に行く機会がほとんどなく、ひたすら配信待ちの状態。
そんな寂しい気持ちを吹き飛ばすべく、1人で三谷幸喜映画祭をしております。
まずは前作『記憶にございません!』。
2019年公開、興行収入36億円のヒット作です。
公開当時、映画館で鑑賞。面白かったことを含め、大体のあらすじは覚えてました。
なので、腰が痛いという夫の腰をマッサージしてあげる間だけちょろーっと見ようかなと思って再生させたんです。あ、金曜ロードショーでやってたんだ〜みたいな。
時刻は、子供を寝かしつけた後に缶チューハイを飲みながら『酒のツマミになる話』を見終わった夜11時45分頃。
そしたらですね……
そこから2時間寝れませんでした。
(ええ、途中で止められなかったです)
普段すぐ寝ちゃう夫も一緒になって最後まで見てしまい、見終わって2人で「おいおい、もう2時近いじゃねーか!」となりました。
面白い映画って全然眠くならないんですよね。
見始める前はちょっと眠かったんですけどね。不思議。
そんな映画『記憶にございません!』のあらすじはこちら。
まずもう設定からめちゃくちゃ面白い。
「記憶にございません」という言い訳ばかり言っていたどうしようもない首相が、頭を打ったことで記憶をなくし、本当に「記憶にございません」状態になってしまう。
タイトルから最高!
記憶がない中井貴一さんがもうかわいいんですよ。
わたわた、
ビクビク、
おろおろ、
ドキドキ、
はらはら。
何をするにも戸惑いいっぱいの中井さんを見ているだけでも面白いのに、相手と話を合わせようにも記憶がないので全く話が噛み合わない(たぶんこういうことかな、と思って話していることが全く違っている)ところがいい!この噛み合わない会話が三谷幸喜はほんとにうまいですよね。
※もう皆さんご覧になっていると思うので問題ないですよね。ネタバレしますので、もしまだご覧になっていない方がいらっしゃったら、観てから戻ってきてください!
事務秘書の小池栄子に続き、首相秘書官のディーン様が味方になってからはもう見ているこっちもテンションあがりまくり。
こんな真っ直ぐな心で首相として頑張りたいと言う男(中井貴一)を応援しないわけはない!!!過去なんて関係ない!過去の不適切発言は本当にひどいけど、ちゃんと謝ったからいい!謝ればいいってことじゃないけど、今回だけは謝ったからいいってことにしてやろう!
と思ってしまう。
悪徳政治家だった男が記憶をなくしたことで生まれ変わるーーー
それだけでも十分ですけど、この映画が心も打つのはやっぱり、中井貴一が途中から記憶が戻っていたってところですよね。
本当に生まれ変わったわけじゃない。これまでの記憶をなくして、新しく生き直すわけじゃない。
生まれ変わらなくても、生まれ変われる。
これまでの自分を抱えたままで、それでも「生まれ変わりたい」という勇気を持って、生まれ変わろうとしているところに感動があります。
だって、あんなに酷い政治家だったんですよ?
あの笑っちゃうくらいの暴言なんて、もはや開き直りの境地。どうせ自分は嫌われている、誰も自分には期待していない、と諦めているとしか思えません。
お金と権力が好きなのは本当でしょうし、支持率が低か
ろうがなんだろうが、きっとそれはそれで満足してたはずです。
でも同時に、自分はこれでいいんだと居直った心の奥底で、正しい政治をしたい、自分で自分を誇れるような人間になりたいという気持ちも、静かに、自分でも気づけないくらい微かに、ずっと持ち続けてきたんだと思います。
だから生まれ変わることにした。
記憶が戻っても、記憶が戻らないふりをした。
彼は、全てを謝って、壊れまくったものをもう一度どうにか立て直して、正しい自分でいようとしてくれている。あの歳で、また一から始めようとしてくれている。
そんな姿を見せられたら、どうしたって応援したくなります。
「記憶が戻っている」と言われると、確かに中井さんはもう記憶がなかった時の中井さんじゃないんですよね。
記憶が戻っているという事実に気づいてみれば、確かにあの、わたわた、ビクビク、おろおろ、ドキドキ、はらはらの、かわいい中井さんはそこにいません。
あれ?そう言えばあのかわいい中井さんはどこ行っちゃったの?いつから今の中井さんになってた?
いつの間にか、冷静で、堂々としていて、落ち着いた、でもそれでいて優しい中井貴一さんになっておりました。(そうなると、ちょっとだけ、わたわた、ビクビク、おろおろ、ドキドキ、はらはらの中井さんが懐かしくなるという謎の現象……)
それにしてもあんなにも大勢の人が出て、違和感なく2時間にまとめられるのほんとすごいです。
三谷幸喜以外で、群像劇をあんなにまとめられる人います?
他の群像劇を見て、なんとなく登場人物のキャラクターが浅く感じたり、登場シーンが物足りなく感じたりしたことあると思うんですけど、三谷幸喜の作品にはそれがないんですよね。
桁違いに登場人物が大いにも関わらず、物足りない感がない。なんとも不思議。
うん、恩田陸の『ドミノ』の映画化は三谷幸喜にも相談しよう。
さて、こんな面白い作品を撮った三谷幸喜に対して、『スミオの話をしよう』で批判している人を見るとものすごく悲しい気持ちになります。
まだ「三谷幸喜」を諦めないで!!!と泣きながら叫びたい気持ち。(何度も言いますが、私は『スミオの話をしよう』観てません)
あれ?ってなったことなんてこれまでもあったじゃないですか!
『清洲会議』見て、「あれ?笑いは?」って思いませんでした?
『ギャラクシー街道』見て、「あれ、私もう三谷幸喜合わないかも」って思いませんでした?
でも『記憶にございません!』でまためちゃくちゃ笑いましたよね?『鎌倉殿の13人』見て圧倒されしたよね?
違う人間なんだから、全部が全部ハマらないのは当然です。むしろ全部が全部最高!なんて方がおかしいわけです。
(そして、私がハマらなかった『清洲会議』や『ギャラクシー街道』がめちゃくちゃ好きな人ももちろんいると思います!)
大丈夫です。もし『スミオの話をしよう』にハマらなくても、三谷幸喜はまた絶対面白い映画を使ってくれます!
もう映画館でご覧になった方が羨ましいですよ。私なんてこれから映画が配信されるまでずーっと楽しみにして、もしかしたらそこで「……合わなかった……」ってなるかもしれないんですよ。待ち時間が長い分ショックもひとしおになる可能性もあるんです。
まぁでも才能溢れる方こそ、置きにいかずにいろんなチャレンジしますからね。
新海誠だって、今までの路線を突然変更して『星を追う子供』を撮りましたし、
細谷守だって、あんなに脚本家とのタッグで成功してたのに独自路線に突っ走り中ですし、
岩井俊二も急にアニメーション映画を撮りましたからね。
重松清が官能小説書いた時は、そうとは知らずに読んで壮絶なショックを受けたもんです。(もはやトラウマ)
私はずっと三谷幸喜が好きだし、ずっと三谷幸喜に期待して生きていきます!
次回作も、次々回作も、楽しみにしてます!!!
(まず『スミオの話をしよう』を早く観たい)
おしまい。