不登校先生 (11)
診断が終わると、先生からは入院治療も効果的だが、と提案があった。
しかし、この病院は、先月まで働いていた小学校の校区にあり、
病院の隣のマンションには、先月まで受け持った子ども達が住んでいる。
さすがに、その状況での入院は、別の不安が湧き出てくることが
確信できたので、何とか自宅療養で治療する方針にしてもらった。
週に一度、状況を診てもらいながら、薬の量なども調整して
家ではゆっくり休む。何も悩まないようにして休む。
そして、その休みが取れるように、職場に提出する診断書も
その場で書いてもらい、初診は終了した。
病院を出るなり、僕は、電話をかける。
「あ、校長先生、お忙しいところすみません。今診察に行ってきました。」
「そうですか。無事に診察に行けてよかったです。どうでしたか?」
「はい、重いうつ病と診断されました。今日は年休を申請したのですが、明日から療養しなさいということで。」
「そうですか・・・。」
「申し訳ありません。そして、診断書も書いてもらったので、明日からひとまずひと月、病休を申請させていただきます。」
「ひと月で治りそうなんですか?」
「いえ、わからないです。でもまだ、治したら復職したいと思っているので、病休の申請はひと月で出させてください。診察には毎週通いますので、診察に通ったら、直接状況を報告させていただこうと思っています。」
「大丈夫ですか?毎回かけるのはきつくないですか?」
「いえ、ご迷惑をかけているのに、申請を出させてもらってから、ちゃんと報告すらできなかったら、校長先生に申し訳ないです。診察に行ったら、校長先生に連絡させてください。」
「わかりました。では、診察に行かれた時には連絡待ってます。」
「診断書はどうしたらいいですか?」
「そうですね、では私が駅まで取りに行きましょう」
「ありがとうございます。では駅で。」
電話を切って、現任校最寄りの駅まで行く。
校長先生は、直接来てくださって、診断書を預かってくださった。
「ととろん先生の感じとしては、どうですか?」
話している場所から現任校の校舎が見える。
もう、実はそれだけで汗びっしょりで手が震えていた。
「実感としては、、、ひと月でどうにかなるか、全然見通せません。」
と、診断書を、震えた手で渡すと、手の震えに気付かれたのか
「・・・何も考えずに、というと、きっと先生のことだから、それも難しいかもしれないでしょうけど、ここの学校のことなどは何も考えずに、まずは治すことに専念してくださいね。」
「はい、すみません。本当に。」
「いえ、すみませんとか思われずに。先生がこうして生きてくださっていたので、私は安心しました。長い人生で考えたら、慌てて中途半端に元気になったかもで戻るより、まずはしっかり、ゆっくり休まれてくださいね。」
「本当にすみません。」
「いえいえ、では、病休の手続きはこちらで済ませておきますので、では来週の電話、待ってますね。診断書届けに来るのもきつかったでしょうに、ありがとうございます。気を付けて帰られてくださいね。」
ありがとうございます、その言葉は僕の方が言わなきゃいけないのに。
「すみません、はい、連絡します。」
役立たずなポンコツになった職員を年度初めから抱えさせてしまい、
余計に負担をかけているのは僕の方なのに、
出会って半月のこの校長先生は、最初に週末に連絡した時も、今も、
嫌ごとひとつ言わないで。自分の状況に向き合ってくれている。
この人に、何の役にも立たないままに、お荷物になってしまって。
申し訳ない。申し訳ない。
この春、何の仕事もできないままに不登校なったぼくの直接の上司は、
地獄に仏のような上司だった。
↓次話
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