牛乳パックほったらかし事件(3)
「でもね、このまま出てくるまで待ちますとか言っても、時間だけ無駄に流れて、どんどんみんなのイライラも増すだけだと思うのね。で、そうなればなるほど、出てこなくなる。そこで、考えました。」
子ども達が、なになに?と言う感じでこちらに目を向ける。
「今から、本人にだけ精神的に大ダメージを与えて、さっと今回の話について終わらす方法を。」
「いや、意味わからん。ととろん何言っとるん。」
「うん、このままだと本人は名乗り出ないままで、今日ここで二度としないように釘を刺すこともできないまま、時間だけ無駄にすることになるからね。犯人は誰だと追求せずに、本人が二度とこんなことをしないようにしようと思う方法をとります。」
そういうと、僕は、その牛乳のストローに口を付けスーッと飲み干した。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「まじか、まじでのんだ!」
「おえぇぇぇぇぇ。」
一気に教室の中は阿鼻叫喚、ドン引きで青ざめている子、
気持ちわるっと、嗚咽のジェスチャーをする子、
やんややんやと大騒ぎの子など、
それまでの重たい空気が一気に吹き飛ぶ。
しっかり者のⅠさんが、真顔でダメ出しをしてくれた。
「いや、先生、それは引くわ。無いない。」
顔はちょっと怒っている。
「いや、普通はね。だけど君たちもご承知の通り、君たちの担任は普通じゃないから。それにととろん先生としては、全員が可愛い我が子なので、わが子の飲みかけと飲もうとなんてことはないです。ですが、さてこれで、今私のだ、僕のだと、自分で心当たりのある人はどんな気持ちでしょう。」
「最悪に決まっとるわ!!!!自分のじゃないってわかっていても、気持ち悪いわ!」
「うんうん、O君の言うとおり、まさかこの太ったおじさんと間接キ・・・」
「言うなぁぁぁぁ!オエーッ。」
O君やⅠ君は突っ込みながらもゲラゲラ笑っている。
Kさんはもうマジでこいつ引くわ・・・と言う感じでにらみながら、
「ととろん、ちょっと気持ち悪くなったからトイレ行ってくるけん!」
と席を立って教室から出ようとしたが、
「え、ということは?まさかの?」
この意地悪でめんどくさい担任は、一言から買いの言葉を投げかけるので、
「そんなわけないやろ!私やないし!それでもキモいんよ!このバカ!」
「違うならいいやん。まぁ、気持ち悪いのはわかるけど。なのでやったわけだけどね。」
「普通するかぁ?!信じられんわ!」
女子のリーダー的な存在のRさんは、呆れた声でそう言いながら、
席を立とうとして泣きそうな顔になっていたKさんの頭をなでて、
慰めながら、このめちゃくちゃな解決方法にダメ出しをしてくれた。
「というわけで、最後にこの牛乳を飲んだのは先生なので、先生がこの牛乳パックを洗ってお終いっと。さて、明日からもオルガンの上に放置などしていたら、同じことになりますので。やりますかね?」
「やるかぁ!バカ!もう嫌い!」
「いや、これは、もう一回やるやつはおらんやろうな。」
罵倒と笑い声の飛び交う中、牛乳パックを洗いに行くと、
もう誰が犯人かよりも、うちらの担任、まじでヤバいわの空気感に、
教室は包まれていくのだった。
5時間目終了後、いつも穏やかなⅠくんが、
「先生、さっき牛乳飲んだじゃないですか。お腹とか大丈夫ですか?」
と、教室のパニックどこ吹く風で、僕のお腹を心配してくれていたのが、
なんだかほっこりした気分になれたことも嬉しかった。
その後、牛乳パックが放置されることは、
卒業まで二度と起こらなかったのだった。