どうせやるならとことん楽しもう(5)
「あー、もう、Tさん速すぎ。だめだぁ。」
「赤は覚えやすいよね。『ちは』も『しのぶ』もあるから、2枚はすぐにわかるようになったよ。」
「ちはやふるで出てきた、『せをはやみ』も、すぐに取れるようになってきた。」
「『きり』はKくんの下の名前に入ってるから、『む』は霧ー!って覚えてしまった。」
「一字ぎまりも赤札には多いから、覚えやすいね。」
「今のはセイム!セイムは、、、、自陣の札だよ。」
3回目の練習試合、3連休前の金曜日である。
毎回対戦は完全割りばしくじ抽選なので、今のところ同じ人と連続で当たることもなく、
子ども達は、その日の相手との試合を楽しんでいる声で盛り上がっているのが伝わってくる。
そしてさすが子どもたちの吸収力である。3日目にして、もう20首はすっかり頭の中に入っていて、
競技かるたさながらに、素早く札を払う子が、6,7人出てきたのだ。
毎日対戦をしていると、誰が強いかなどもみんな観察するようになって、
お楽しみでやれればいいのにという雰囲気の子は、
強い子に当たると、「ダメだぁ、勝てないー。」
と初めからあきらめモードになったりしている。
みんなで楽しむは一番大事な事なので、早く終わったところには、
「残り札を半分に分けて、最後まで取る練習をしたり、得意札研究の検討会などしてごらん。」
と、促すと、その日対戦した相手に、もうはまっている強豪たちは、
「この札はね、一字ぎまりって言って、最初の一文字がそれなのが一首しかないから、すぐに払いに行けるのね。・・・ほらYくんが今言ってるみたいに、『む』が聞き取れたら、すぐにこの『きりたち』を触りに行けばいい。一枚ずつ得意札にしていって増やしていけば楽しくなるよ。」
と、相手の子に丁寧に解説しながら、取りやすい札を伝えていく。
なるほどなるほど、教えてもらっている子も、楽しそうに頷きながら、
「取るときにどういった手の動きをすればいいかな?いっつも取りに行く前に払われちゃう。」
と、質問を返して、お互いに上達するための情報交換を行っている。
切磋琢磨、百人一首を練習しているときの子ども達には、ぴったりの言葉だと思った。
「ちはやふる~」
バン!バン!
この日も一番おおきな床を叩く音が鳴った。
映画でを全部見ている子どもたち全員にとっての得意札になっている『ちは』の札の時だけは、
練習みっちりの子も、まだ始めたてですの子も、一番競った闘いになる。
「あー、とられた!!!」
「うぉぉぉ。初めてSさんから札とれた。ちは好き好き。」
練習を重ねるごとにどんどん試合も面白くなっている。
一週間後のトーナメントが今から楽しみになってきたな、
そう思いながら子どもたちに帰りのホームルームを終えると、
「先生、ちょっとお願いが・・・あります。」
と、子どもたちが10人ほど、集まってきたのだった。