できない事をできないといえる雰囲気で(後)
「先生がお父さん役で、みんなはヒロシ役ね。じゃあ誰かやりたい人。」
「はい!ぼくやる。」
と、あんちゃん。
「よし、あんちゃんじゃあお願い。」
そういうと、「『こらヒロシ、いつまでゲームやってるんだ!』ブチッ!」
するとあんちゃん「『何するんだ!このくそおやじ!』」
みんな大笑い。そこでみんなにたずねる。
「今のあんちゃんはどんな気持ちに見えた?」
「わかる、それはくそおやじって言いたくなる。」
「くそおやじは、教科書にはないけど、怒ってるのは伝わってきた。」
「あんちゃん、うまい。」
どんどん気持ちを想像した感想が出てくる。
「次、僕もやってみたいです。」
と、かずくん。「いいね、イイね。」とみんなで盛り上がりながら、
かずくんもやってみる。
「『ひどいじゃないかぁ、・・・・このくそおやじ。』」
ドキドキしながら言っているのが伝わってくる。
「かず、いいぞ!」とはや君。
「かず、うまいうまい。」とあんちゃん。
普段はきっとくそおやじなんてワードを言ったことがないかずくんは、
大そうな事をしてしまったようなちょっと興奮気味の表情になっている。
じゃあ次は僕も、私も、とみんながヒロシになって場面をやってみる。
やいのやいのと盛り上がったところで、はや君が
「先生、僕もやってもいいかな。」
「もちろん、やっていいよ。」
そういうと、みんなの演技を見て最後にはや君が自分でもやってくれた。
「なにするんだ!この・・・・くそおやじ!」
わははとみんなが笑う。言い切ったぞ!と、笑顔になりながらも、
はや君が言った。
「でも、、自分も悪いと思ったから、くそおやじというのはちょっとためらってしまった。」
それを聞いてみんなも、
「たしかに、これはわがままが過ぎるかもしれない。」
「お父さんは悪くないもんなぁ。」
感想が共有されて、そこに新しい刺激が入り、また広がっていく。
なるほど仲良しさんクラス1組の子どもたちは、
一人一人こだわりもあるけど、
決して他者の気持ちを想像することができないわけではない。
むしろ、こんなにも感情豊かに、
色々な考えや思いを表現する子ども達なんだな。
それがこちらにも芯から伝えてもらった気持ちになれた。
「やっぱりノートに言葉にするよりもこっちのほうが良かったかな。」
みんなに言葉をかける。
「うん、先生。でももう大丈夫。今自分でやってみて、ヒロシはどんな気持ちだっただろうか、いまならことばでかけそうな気がする。」
すっきりした笑顔であんちゃんが言う。
「じゃあ、いけそうな人は書いてみて、やっぱりうまくまとまらないなと思っても、書けるなら書いてみて。でももし言葉が難しいという人は、絵にかいてみて。」
黒板に丸を書く。
「丸顔の中にヒロシはどんな気持ちか表情を絵で書いてみて。」
「絵、いいなぁ!言葉の人はダメですか?」
「いや、言葉の人も、言葉も絵も書いていいからね。」
子ども達は、楽しそうに鉛筆を走らせ始めた。
この子達が、できない事を、できるように工夫していく。
一緒に考えていく。寄り添ってみんなで共有していく。
そんな積み重ねで、一つずつ、伸びていくようにしていこう。
何気ない授業の1場面は、僕にも改めて、
できない事をできないと素直に癒えることの大切さと、
僕がそれにどう向き合っていくかを教えてもらったと感じた。