悪ふざけの代償は(5)
職員室に入ると、校長先生は出張中で、教頭先生だけがいらっしゃった。
「教頭先生、6の1のことでご報告があります。今いいですか。」
好々爺の教頭先生は、穏やかな笑顔で「いいよ、どうぞ。」
と返答してくれる。僕はパソコン室で起こったことについて、
順を追って報告した。
「え!パソコン室からつながるん?それは大変やね。」
「はい、まさか検索フィルターもかかっている学校のパソコンから、そういった関連の動画につながることはないとは思っていたのですが。事前に今回調べ活動にしない事の注意はしていたのですが。どうしましょう。」
「とりあえずととろん先生、その調べ活動の事前指導の内容と、その上で今回児童が視聴してしまったことについての報告書をまとめておいてください。まぁ、問題になっている動画自体ではなかったから、特に問題にはならんと思うけど、学校のパソコンからつながってしまうことの方が、早急になんとかせんといかんだろうからね。」
「わかりました。本当にすみませんでした。」
「いや、すぐに伝えてくれてありがとう。で、誰が見てたん。」
「TくんとDくんです。」
「はぁ、うん、あの二人ならやりそうやねぇ。お疲れ様。」
「ありがとうございます。ひとまず自分の方でしっかり指導します」
「よろしくお願いね。」
9月以降6の1に入って、うちの子たちが何かしでかしたときには、
自分が全部叱らせてもらうようにしてきた。
なので教頭先生も今回の一件も、僕に一任と言う事にしてくれたのだった。
「ではあがってきます。」
そして僕は、職員室の自分用のノートパソコンを一緒にもって上がった。
「遅くなったね。ただいま。」
6の1に戻ると、みんないつもよりかなり重たい雰囲気で待っていた。
「とりあえず今日は6の1はもうパソコン室は使えません。さっきまでで調べたことで、それぞれまとめていきなさい。」
重たい雰囲気の中でそのように伝える。
そして教卓にノートパソコンを開き報告書をまとめ始めた。
さすがに重たすぎる雰囲気の中で、誰もまとめ活動に入れない。
「先生は何をやっているんですか?」
と、いつも一番に勇気のあるⅠさんが質問した。
「今日起こったことの報告書をね。提出してくださいと、指令があったのでね。みんながまとめに入っている間に、先生は報告書をまとめておくよ。」
「もう、ととろん先生!いつもの意地悪やろ!」
SさんとRさんがパソコンを覗きに来る。
「いやいや、すぐに報告書を、って言われたから・・・ほら、ね。」
二人とも、僕のパソコンの画面をじっと見つめて、
6年生の知識をフル回転させて確かめているようだった。
「ほんとや、本物やん。」
「こういう時にまで冗談を言ったりはしないよ。」
そういうと二人はちょっと青ざめて帰っていく。
「報告書って…先生クビになるの?」
子ども達の一番の心配はそのことだったようだ。
僕は、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちがぐっと込み上げた。
だがここで、「大丈夫、大した事件じゃないから。」
と言えばあの二人は全然懲りないにちがいない。
この意地悪な担任は、そういったところで意地悪さの本領を発揮する。
「いや、報告書を出してから、その後どんな返事が返ってくるかやね。まぁ、クビになったらしょうがないよ。明日からは教務の先生が来ると思うから、それで頑張らんとやね。」
そう返すと、全然悪くないⅠさんや、何人かが泣きそうだった。
ズキンと心が痛くなるものの、これまで中途半端な悪ふざけで、
全体を引っ掻き回してきた二人を徹底的にやり込めるいい機会だと、
そのまま無言で報告書を作っていくのだった。