不登校先生 (63)
九州新幹線で1時間半。家からトータルでも2時間半。
鹿児島中央駅に到着した。
「ただいまぁ。」
改札を出たと同時に、思わず口からこぼれる。
まだたけっさんとは合流していないのだが、やはりこの場所に足をつくと
「来た。」「行った。」ではなく、「帰った。」という思いになるのだ。
帰郷とはそういうものかもしれない。
18でこの地を離れた僕にとって、
鹿児島中央駅はどれだけグレードアップしても、
【西鹿児島駅】の印象のままで。
「西駅ん周りがこんなに、にぎやかになっとわなぁ」
もう鹿児島弁のイントネーションに戻り始めている。
駅隣接のショッピングモールに、イベントでにぎわうモール前。
見上げれば大きな観覧車も、クリスマスのイルミネーションに負けない
ライトアップで、人もわんさか。ほんとに明るい街だな。
ときょろきょろしていると、
「おかえりー。」
たけっさんの声、変わらぬ声と顔にほっとして、たけっさんの家に向かう。
たけっさんの運転する車の中で、安心の空気感。
4月からの状況を、報告するように、愚痴をこぼすように、話す。
たけっさんは、いつもと同じように、頷きながら聞いてくれる。
「で、今夜は何を食べる?」
「うん、鳥刺しがいいな」
「わかった、じゃあ買って帰ろう。」
鹿児島に帰郷。実感できるのは、たけっさんの顔、桜島、鳥刺し。
そう思うほどに、鹿児島に戻って食べたい一番の郷里の味は「鳥刺し」だ。
皮目だけ焼いたかつおのたたきのような仕上げの薩摩地鶏を、
刺身で食べる。焦げた皮目にしっかり生の赤身の噛み応えは最高だ。
九州醤油の中でもさらに甘めの鹿児島醤油に、
にんにく、しょうが、玉ねぎ、たっぷりの薬味を添えて。
たけっさんはその辺りも全部わかってくれている。
しっかりと鳥刺しを買い込んで、話しているうちにあっという間に、
たけっさんの家に着いた。奥さんとも久々に会う。
「変な時期に、お世話になります。」
「いいよー、大変だったね。ゆっくりしてね。」
たけっさんの奥さんもたけっさんと同じく穏やかな人だ。
あたたかく迎えてくれた。
ほっとして、案内されたリビングに向かうと、
新しいたけっさんの家族が、仲良く絵本を読んでいた。
4歳になる長女のフーちゃんと、1歳になる長男のまーくん。
前に帰郷した時には、たしか、フーちゃんがまだ0歳の時だった。
「こんばんわ。」
と二人に声をかけると、二人ともにっこりして、フーちゃん。
「あー、ととろんくんだぁ。」
すっかり話がかみ合う歳になったフーちゃんは、たけっさんと奥さんから
僕が来ることを教えてもらっていたらしい。
今まで小学生の受け持ちは十何年やってきたので、
やはり管轄圏外の4歳の子、ましてや1歳の子には、
怖がられると思っていたけど、二人とも、本当にすぐに受け入れてくれた。
たけっさんと、奥さんが僕のことを「ととろんくん」と、
フーちゃんに教えてくれていたのだろう。4歳の子に「ととろんくん」
と呼ばれるのは、なんだかほんわかとあったかい気持ちにさせてもらえた。
あ、たぶんこれ、メイちゃんに『あなたトトロなのね!』って言われた時の
トトロの気分だ。そんなフーちゃんと絵本を読みながら、
カーくんには、おなかをポンポンとたたかせてあげる。
子どもとこうしてしっかり触れ合うのも、4月以来だ。
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時とともに、出会いの数は増える。
だが、幸せを感じる出会いは、人生の中にそう多くはないだろう。
思ってもみないほどに素敵な出会いの機会を、
たけっさんと奥さんにプレゼントしてもらったなと、
あらためて感謝の思いを募らせながら、
たけっさんの家で、帰郷初日の夜の時間は、過ぎていった。
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