悪ふざけの代償は(6)
「僕たちが直接謝りに行きます。だから先生は辞めないでください。」
さすがの重たすぎる沈黙に、T君とD君が前に言いに来た。
「いや、二人が謝って事が終わるとか、先生が報告書を出したら終わりだとかいう問題ではないのよ。もういいから、自分の学習に取り組みなさい。」
全く叱られるわけでもなく、淡々と事は大きく転がっている不安感に、
二人は全く手が動かない様子で、3時間目が終わったのだった。
4時間目は体育。今日は、体育館での跳び箱活動だ。
全員で着替えて、体育館へ向かう。6の1は体育館に向かう際に、
職員室の横を通っていく。全体が落ち込んだ感じで、
静かに渡り廊下へ横切っていくと、かしこまったスーツを着た、
4人ほどの来客とすれ違った。
「あの人たち、教育委員会って名札付けてたよ。」
「え、もう、そんなことにまでなってるの?」
「ととろん、教育委員会来てるよ。」
さて、この来訪客が、何で来ているのかは、実は何にも知らなかったのだが
子ども達はいましがたの事件と繋げてさらに、想像力を膨らませている様。
意地悪な担任は、追撃の一言をゆるめない
「3時間目に報告したから、もう動かれているのかもしれん。」
「まじか・・・。やばいじゃん。」
何がやばいのかよくわからないが、ヤバい雰囲気でSくんがつぶやく。
「ととろん、辞めなきゃいけないってことないよね。」
いつもはツンキャラのRさんは、一番心配してくれているよう。
そんな6の1の面々を見て、張本人の二人はもう、
穴があったら入って潜って二度と出てきたくないような態度になっている。
開き直ったり、へらへらしたりすることもできない。
4時間目は、二人も大好きな体育だけど、いつもは我先にと、
8段跳び箱で跳んでいる元気も全くなく、
隅の方でなんだか話し合い会議をしている。
また全体も、これが6の1の体育?というくらいにほぼ無言で、
黙々と跳び箱を跳ぶ時間が過ぎていった。
4時間目の間なんだか打ち合わせをしている二人が、
授業の終わりに差し掛かる頃にやってきた。
「先生、今来ている委員会の人たちに、僕らが謝ってきたら、ととろん先生がクビになったりはしなくなりますか?」
「いや、もうこれは二人はもとより、先生もどうにもできん問題だからね。あとは、報告の結果を待つだけよ。」
「でも、先生何にも悪くないのに、悪いの俺らやのに。」
「まぁ、先生はクビになったとしても、二人がこのことをしっかり忘れないで、次からは悪ふざけで済まされないときにはきちんとできたらそれでいいんやない?」
「いや、よくないですよ。6の1はととろん先生い無くなったらどうなるんですか。」
「だから、それも含めて気を付けないといけない事だったってことやね。あれほど注意してもやらかしてしまったのだから、責任は先生の指導不足だよ。気にしてもしょうがないから跳び箱跳んどき。」
二人はもう体育館の隅っこで消えてしまいそうだ。
周りのみんなももはやすっかり二人を責める空気感でなくて、
もしかしたら、ととろん先生今日で辞めちゃうの?
自分たちの担任、明日からどうなっちゃうの?
そんな不安の空気感に侵食されていっているようだった。