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桜の雨で卒業を(6)

3月1日土曜日、土曜日授業は『六年生を送る会』、

午前中授業の半日終わりの時間割だ。

1時間目に1年生が、手作りのメダルを持って教室に来てくれて、

そのメダルをかけてもらって、6年生は、体育館へと入場する。

5年生の運営委員会の子達が中心に進行を行い、

送られる6年生は舞台のひな壇に座って、

一年生から五年生までの贈り物の演芸を楽しみ、

それぞれの学年からの贈り物のプレゼントをもらい。

自分たちからは、手縫いの雑巾を在校生にお礼として渡し、

2時間目と3時間目を使っての、卒業式前の最後の行事だ。

働いていた自治体では、どの学校でも行っているもので、

この行事を成功させるための準備を五年生総出で行い、

それが3学期の「総合的な学習の時間」の学習とも兼ねていた。

在校生も、卒業生も気持ちを一段と上げていく行事になっている。

また卒業式には、五年生のみ参列するのが原則になっていて、

そのため4年生より下の学年の子達とは、この『六年生を送る会』が、

お別れの最後の行事にもなるので、そういう意味でも、6の1の子達には、

「下級生の思いを、どんな気持ちで向き合うのか。それが大事だよ。」

と、話をして、壇上に送り出していた。

なるほど、子ども達は、楽しい雰囲気を満喫しながら、

すごく優しい眼差しで下級生を見入っていた。

この子たちは、本当に、相手の気持ちを受け止めて、

それを温かい気持ちで受け入れて、感謝ができる子達だ。

そして、この送る会が終わっての4時間目、

そんな温かい気持ちで戻った学級の中で、

そんな雰囲気が濁ってしまうことになるのも、また6の1らしさだった。

「送る会のお礼を、みんなは手縫いの雑巾で渡したのだけれど、今日の感想をお礼のメッセージにして、メッセージボードを下級生に持って行こうと思うけど、どうだろう。」

「賛成、やりたいです。」

ぼくは付箋サイズに切ったメッセージのかざり枠の紙を配り、

黒板には、4つ切り画用紙を各学年分、張り付けた。

「では、右から1年生で、この画用紙に全員分貼れると思うから、思いが伝わるように書いて、貼っていってね。」

みんな静かに集中して書いていたのだが、1分もしないうちに、

DくんとSくんが「終わりました。」

と言って貼りに来た。

色も塗らない、書きなぐったような「ありがとうございました。」

を見ただけでも、カチンときたが、2年生のお礼に、

「○○君のおどりが面白かったです。」

と書いてあるのをみて、二人を呼び止めた。

「ちょっとこっちに来なさい。」

二人ふざけている感じの雰囲気をピタッと止める。

「そのさ、カードの内容、どういうつもりなん?」

「えっと、、、」

「みんなさ、真剣に見て思いを振り返って、この小さなカードに真剣に言葉で伝えようとしているのがわからんの?」

「・・・・すみません。」

「二人は、そうか、つまりそれが本心の思いと言う事よね。」

「いや・・・・すみません、書き直します。」

「いや、もういい、書き直さなくて。そのまま貼っとき。そのまま下級生にお礼の気持ちとして持って行こうや。」

「ごめんなさい、ふざけました。」

「いい加減、ふざけていい時なのか、そうではない時なのか、わからんのか!こんな気持ちでしか、下級生の思いが受け取れないなら、卒業生として送られる資格なんかないわ!」

黙って他のみんなはカードを書いている。

いい加減にしろよなという空気が静かに広がっていく。

この8か月で、6の1が大きく成長したのは、

こういった悪ふざけで場を乱すものを、

許さない意思をきちんと持つ事ができるようになった事だ。

だが残念ながら、3月に入っても、みんなのその成長についていけず、

やるときはやる担任の雷のド説教を引き起こして、

全体を落ち込んだ雰囲気にさせてしまうものもいて。

今回の二人が呼び込んだ雷は、あの【桜の雨で卒業】計画にも、

派生することになっていったのだった。

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