夏空に元気一杯のPLAYBALL(9)
「両チーム整列。礼!」
完勝だった。1回戦5回コールドだったYくんのチームは、2回戦は3回コールド。
完成度の違いが明らかな実力差に表れているのが、
今日初めて応援に来た僕でもよくわかった。
野球というスポーツは、現代の日本人にとって、最もなじみの深いスポーツと言ってもいいだろう。
ペナントシーズンになると、毎日のようにテレビに流れる野球中継。
毎日のニュースでのスポーツコーナーでも、一番最初に取り上げられて、
ご当地球団のファンの熱気も日常生活で身近に感じることが出来る。
なので、見た事だけあってやったことのない人間でも、
「今のはそうじゃないだろう。」
「あれはもっとうまく処理できないとだめだ。」
など、目は超えている。かくいう僕自身もそうだ。
だが、実際に野球をやってみるとよくわかるのだが、野球の動き、
特に守備の動きは、相当練習を積まないと、野球の動きになっていかない。
9つのポジションはそれぞれに求められる最適な動きがあり、
それらの動きを自然にできるようになって初めて、野球選手らしく見えてくるものだ。
Yくんチームのスタメンの面々は、それがもう違和感なくしっくりと野球選手の動きなのである。
一方、入りたての3年生、4年生くらいの子達は、
大き目のユニフォームで、精いっぱい両手を拡げて、フライをとろうとするが、
落球地点の目測が正確でないため、ボールは落ちてしまう。
何とか追いついて内野に向かって投げる時には、
ヒットを打った相手はランニングホームラン。
これはなかなかに強烈な体験だ。
「いや、先生。Yたちも3年生の頃はもうどこに行っても負けてばっかりだったんですよ。」
と、Yくんのお父さんが話してくれる。
「一年通して1勝もできないのに、県内県外年がら年中試合に出かけて。もう悔しいとか投げやりになるとかそんなの通り超えて、ただただ1勝したいっていうのがもう子ども達も親たちも共通の目標みたいになってました。」
「どのあたりまで試合に行かれたりするんですか?」
「県内だったら久留米や行橋の方まで行ったりですね。熊本・山口・佐賀・大分…長崎もありました。さすがに南九州までは試合で当日に移動などはなかったですけど。」
話してくれるお父さんは、嬉しそうに話を続けてくれた。
「だから、今年はこうやって集大成のようになっているチームでどこまで行けるか、楽しみで仕方ないんです。」
しみじみと話すお父さん。子どもと二人三脚で目標に向かって進んでいる喜びが、ひしひしとこちらにも伝わってきた。
「でも先生、こうして試合を見に来てくださったのは6年間で先生が初めてでした。本当にありがとうございます。子ども達も、親たちも本当に喜んでます。」
そう言うと深々と頭を下げられてしまった。
こんなに楽しいことに、誘ってもらえて、お礼を言うのはこちらの方だというのに。
「とんでもないです。こちらの方こそありがとうございます。で、ですね、お父さん。明日の3回戦も、見に来てもよろしいですか?」
僕はそう、尋ねた。
「もちろんですよ。先生の大きな声の応援で子ども達もますますやる気になると思いますので。ぜひぜひ。」
こうして僕は、翌日の3回戦も、応援に行くことを決めたのだった。
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