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二学期始めの大雷落ちちゃう事件(5・了)
さて、そんなやり取りがあってからの一週間、
もう夏休みの宿題については、二人以外はオールクリアしているので、
頭の中のスケジュールはどんどん二学期の行事の方へと、
意識も行動も向かっていく。陸上記録会・学習発表会・そして修学旅行。
二学期は行事が目白押しで、その準備を段取りよく進めていかないと、
最終的に困ってしまうのは子どもたちだ。そうならないために、
学習もテンポ良く進めていって、子どもたちが決めごとを話し合える、
時間の余裕を作っていかなくてはならない。
僕の頭の中も、先のスケジュールに合わせてどう動いていくか、
何の準備が必要かを考えながら、子ども達の二学期の生活に目を配ることに、集中していた。
そうしていると、ひとまず片付いた問題として、二人の残りの宿題については、頭の中では整理されてしまう。
そうして、二人に進んでいるかどうかについては特に何も言うことなく、
一週間が終わり、3連休も過ぎていったのだった。
そして、3連休明けの火曜日、
「おはよー、さぁ今週からは陸上記録会の練習が始まるからね。」
僕は、そう言いながら教室に入る。
「先生、練習は学年練習ですか?」
「そうだね、学年で種目ごとにってことになると思うよ。」
「じゃあずっと走り幅跳びなんですね。」
「Tさんはそうだね、走り幅跳びの種目だったからそうなるよ。」
など、今週から始まる陸上記録会の練習のことについて話していると、
「先生、おはようございます。これ・・・。」
と目を向けると、KくんとDくんだ。
「おはよう、お、ちゃんと終わったかい。」
そう言うとまずはKくんがプリント集を前に出す。
中をめくると、しっかり最後までやってこれているようだ。
「頑張ったね。ではこれでK君もプリント集は終了。あとは漢字ノートだけど。」
「漢字ノートはカゴに出してます。」
「それじゃいつもの宿題と混ざってしまうから、ノート持っておいで。」
二人は提出かごから漢字ノートをもってくる。
「はい、受け取りました。じゃあ確認するね。」
パラパラとめくっていくと、最後のページまで書き終わっていた。
「最後まで終わらせてるじゃん、やればできるんだから、今度からは締め切りまでに終わるよう…・・ん?」
とそこで違和感に気付く。二人が提出した漢字ノートが、明らかに薄いのだ。
提出して外に行こうとする二人をもう一度呼び戻す。
「ちょっと待ち。戻っておいで。」
二人は、びたっと足を止めて、ゆっくりとこちらに戻ってくる。
「あのさ、確認なんだけど、これ終わって提出したんだよね。」
「・・・・はい。」
「うん、じゃあね、二人の出したノートいまからさ、ページを確認するからここで見てて。ちなみに漢字ノートは中身が30枚60ページあるから。」
二人以外の周りの子達は、なにを当たり前のことをというような顔で、漢字ノートを見ている。
「1・2・3・4・5・・・・・・・・・13・14。あれ?15枚目から無いんだが。」
「・・・・・・・・・・。」
二人はもう、ばれていることに観念したのか、下を向いて何も言わない。
「後16枚あるはずなんだけど、これは始めから無かったんかね。」
そういうとKくん、
「・・・・・初めからそのページでした。」
見るとはっきりと、ノートの最後のページには破り取った後が波のように残っている。
ぼくはノートを持った手を震わせながら、下を向く。
周りにいた子ども達は、こりゃヤバいとばかりに僕の周りから離れた。
「っっっこんなんで先生をごまかせるとでも思ったかぁぁぁああああ!!」
4回の教室から1階の中庭まで、声が響く。
二人は言い訳もなく観念したように、ボロボロ泣いている。
こうして僕の何年かぶりの大雷が朝から6の4には落ちることになり、
二人がドカンドカンと大目玉を食らっている間、
6の4の教室は、見事に誰もいなくなったのだった。