夏空に元気一杯のPLAYBALL(6)
「ありがとうございました!」
小学生球児のはきはきした挨拶が、球場に響く。
試合が終わった後は、両チームのお父さんコーチがさっと出てきて、
次の試合に向けてのグランド整備を行っていく。
子どもたちは、ベンチの道具をもって撤収に取り掛かり、
お母さんたちはベンチに建てた簡易テントを脚ごとそのまま移動させて、
次の試合のチームがすぐに練習、応援の準備ができるように。
みんなてきぱきと動き出した。
明るくベンチ裏から休場の外に出てくるYくんのチームの子どもたち、
そのすぐ右側の通路から出てきたMさんは、目に涙をいっぱい貯めているのがぱっと見てすぐわかったが、
涙をこらえながら、チームの控え場所に戻って行っていた。
勝負事なので、こういう表情の明暗もはっきり出るのだとはわかっているものの、
どちらも我が子と思って応援していたので、色々な感情が入り混じった複雑な思いになった。
ただ、しっかりと積み上げてきた成果を、きっちりと出し切って勝ったことの賞賛と、
涙が出せるほどに、何かに打ち込めている素晴らしさには、
感動以外に表す心情は見つからない。
僕は、どちらにもありがとうの気持ちを込めて声をかけに行きたいが、
どうもそれだけじゃ足りないような気がして、
急いで競技場を出て、道を挟んだところにあるスーパーに行き、
アイスキャンディーのアソートパックをしこたま買い込んで、
再び急ぎ足で、競技場に戻ってきた。
まずはMさんの所に行き、「今日はありがとうございました。」
と、Mさんのお母さんに声をかける。
「こちらこそ、先生、わざわざ見に来てくださってありがとうございした。」
「Mさんは大丈夫ですか?」
「ええ、負けず嫌いな子ですから、悔しいと涙も出てくるでしょうけど、後には引かない子なので、もう落ち着いてケロッとしていると思います。」
そんな話をしていると、
「ケロッとはしてないし。あー、むかつく。あんなの反則級やん、強すぎよ。」
とMさんが悔しさを言葉にしながら、笑顔でやってくる。
「ほんと、強かったね。でもMさんの守備もカッコよかったよ。」
「私のはたまたまいいところに転がってきただけよ、先生。にしてもYのやつ、からかってくるんだろうなぁ。」
とそんなことに思いをはせて、苦い顔になりながらMさんがぼやく。
「いや、もし二学期になってこの勝ち負けのことでからかってくるようなら、そん時は先生がYくんを叱っちゃるけん。安心して。」
そう返すと、Mさんは笑いながら、
「いや、まぁあいつはいつもお調子者だから冗談でからかうことはあるけど、こっちが傷つくようなことはしないから、大丈夫だよ、先生。」
と、僕をたしなめたのだった。
「今日は見に来れて本当に良かったよ。ありがとう。」
そういうと、何だか気恥ずかしくなったのか、
「どういたしまして。先生ありがとね。」
とMさんは、早口に返してきた。
そんなMさんとお母さんに、チームへの差し入れですと、
ひとまず持っていたアイスキャンディーの半分を、手渡した。
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