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桜の雨で卒業を(12)

「せーの、ととろん先生ありがとうございました。」

Mさんの掛け声で、みんなが一斉にクラッカーを鳴らす。

入り口の扉を開けると、子ども達が満面の笑みで迎え入れてくれた。

36人のクラッカーの音に、びっくりして、お礼よりも前に

「びっくりしたぁ。」

というと、子ども達は大笑いのまま、

「先生ありがとう。」

と、色紙やら花束を渡してくる。

色紙が1枚、2枚、3枚…4枚。花束も1・2・・・3束。

「これはどういう感じのまとまり方なの?」

「いや、色紙とか花とか渡したいねっていう発案者がそれぞれいたので、みんなでそれに乗っかったら、かぶりすぎた。」

「なるほど、だから全員の寄せ書きの色紙が4枚もできたのね。」

自分でやろうと思ったことを、この子たちは、みんなに発信できる力を、

そしてそれを快く受け入れる力を、協力する力を身に付けたようだ。

4枚の色紙は、どれも丁寧に全員のメッセージで埋まっている。

「それとね、もう一つ。こっち来て。」

言われるままに教室の真ん中へ向かうと、天井に大きなくす玉があった。

「これ引いて、ととろん先生。」

くす玉のひもを引っ張ると、『先生ありがとう。』

の垂れ幕と同時に、どわっと紙吹雪が落ちてきた。

「うわぁ、これどうしたん?いつ用意したの?」

卒業式が無事終わり、最後まで気を引き締めるぞと思っていた僕は、

子ども達が、こんなにサプライズに準備をしていることには、

全く気付いていなかったのだった。

「Y先生にね、教室を貸してもらって、準備してたんよ。」

「後、卒業式の練習で、教室が空っぽになるときに、校務員の先生にお願いして、くす玉のフックもつけてもらったよ。」

「それから、最後にクラッカーを鳴らしたかったから、2組と3組の先生と、校長先生にも許可を取りました。」

と、大きなイベントを楽しむために、

周到な準備と周りへ理解してもらうための許可・根回しの用意も、

抜かりがない。さすが、あの鬼祭りを成功させた子ども達だ。

しっかりと、一番大切な事を学んでいる姿に嬉しくなった。

「そして・・・先生にも。カウントダウンノート。」

子ども達と1人1冊ずつで作っていったカウントダウンノート。

それと同じノートを、Rさんが手渡してくる。

中を開くと、カウントダウンではなく、見開きに1人ずつ、

左には大きな1文字ずつ、右には一人一人からのメッセージがあった。

大きな文字を繋げると

『ととろん先生ありがとうございました。

  これからも元気で楽しい先生でいてください。』

子ども達からのカウントダウンノートでのお礼だった。

どれも一日二日で出来るサプライズじゃない。

僕は感心すると同時に、あの時の言葉を恥じた。

『どうせ、あんたたちは、何にも考えていないだろうと思って、なら一つでも卒業の時に楽しかった思い出を多くしてやろうと思ってたのにさ。もういいよ!』

この子達は、こちらが用意する前から、自分たちで考えて動いていたのに。

「みんな、ありがとう。そして、あの時はあんたたちは何も考えられんからなんて失礼なことを言ってごめんなさい。」

と、頭を下げると、

「いや、あれは本当に腹が立った。」

「私たちのことをどんだけ見くびってるのかと思ったよね。」

「これはもう一度ちゃんと謝罪会見だな。」

遠慮なしに突っ込みが入る。僕はもう一度

「本当に申し訳なかったです。」

と頭を下げると、

「まぁいいか、許してやらんでもない。」

と笑い声交じりに、言葉を返してくれたのだった。

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