桜の雨で卒業を(7)
「先生、すみません。書き直しますから。」
「いや、形の問題じゃなくてそこに表れる気持ちなのよ。大体さ、その二年生のメッセージはどういう事よ。あの子の踊りは確かにみんなとタイミング外れていたけど、一生懸命に踊ってくれていたよ。だけどさ、あんたたちのメッセージを見たらどんな気持ちになるかね。」
「いやな気持になると思います。」
「それがわかっててやってんのか!!!!!」
ととろん先生が、何に対していつも厳しく叱るのかが、
しっかりと分かっている6の1の面々は、
「○○君の踊り、私はうれしかったよ。」
「お前ら、どうしてそういう事書くんよ。」
と、二人にも聞こえるようにつぶやきながら
メッセージカードを完成させて張り付けていく。
二人が、やっちまった感じで佇んでいると、
先ほど送る会をしてくれた下級生たちが、
後で全員分持って行きます。と言っていた贈り物を届けに来てくれた。
二年生がやってきた時、その○○君も、もっていく係で来たのだった。
「6年生に二年生で作った、似顔絵おめでとうカードを持ってきました。」
二年生が、6の1の子達の顔を頑張って書いたのだろうか。
似顔絵に、6年生と関わったことを思い出したお礼の言葉を添えた、
お手紙を持ってきてくれた。
「素敵なお手紙をありがとう。似顔絵のお兄ちゃんお姉ちゃんの所に持って行ってあげてね。」
佇む、DくんとS君にも、渡される。
「踊りだけじゃなくて、お手紙までありがとう。」
そう言葉をかけると、○○君も、満足そうに帰って行った。
「・・・・あの、○○君たちに。だけじゃない、下級生に。そんなメッセージカードしか書けないなら、祝ってもらう資格なんかない!」
二人は、もらったお手紙を手にしたまま真っ青な顔をして動けない。
「いや、そうは言っても卒業はするから。それはもういいよ。先生も担任として、あなたたちの名前を卒業式では呼ぶさ。仕事だからね。だけどね、思いが伝わらない者に、かける情熱は無いよ。事ここに至ってまで、そういったことがわからない者がこの学級にいる事自体が、もう残念で仕方ない。」
とりあえず二人には予備のカードの枠を渡し席に戻らせた。
「なんだろうね、いよいよ卒業かと、温かい気持ちになれるはずの今日なのに、こんな気持ちにならなきゃいけないなんて。悲しいわ。」
そう呟きながら僕は、袋から出した一締め1200枚のピンクの上質紙を、
子ども達に一度見せ、言葉をつづけた。
「あなた達がそれでもやりたいかもと、用意していたこの紙だけど、もういいや。この桜の紙は、前の学校で受け持っていて今年卒業する子達に使ってもらうよ。」
突然ざわついた雰囲気になる。
僕は一番大きな封筒に、前の学校の住所を書き始めた。
「待って、それは私たちのために用意してくれたんでしょ。なんでそんなことするん?!」
「6の1には必要ないだろうと、今の二人の態度で、もうそう思いました。だからです。」
「でもそれ学校のお金で買ったんだから、そんな勝手したらダメやん。」
「いや、これは先生の自腹です。だから先生がどう使おうと誰に使ってもらおうと好きにしていいものなので。」
「だったらなおさら、私たちのためにととろん先生が用意してくれたってことやろ。なんでわたしたちにつかわせてくれんの?!そんなのないよ。」
「だからね、それが全員であれば、先生だってそうしたいけど、未だにあーいうふざけができるものがいるわけでしょ?つまりこのクラス、6の1はそういう悪ふざけがずっと許されてしまっている全体なわけよ。だから、そんな6の1に、ここまでやってあげることは無いと、もう決めただけよ。」
僕が、怒気も発さずに、淡々とでも頑なに、計画をしないと説明する態度に
6の1の子達は返す言葉もなく静かになるのだった。
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