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やる気スイッチは、子ども自身でつけるもの(12)

「じゃあまず最初の組の3人、始めようか。」

いつもの賑わいはなく、緊張感の張りつめた空気の中で、

ソーラン節、センター選抜のオーディションがはじまった。

給食直後の昼休み、3組も早々と片付けを済ませて、

オーディションに行く子達を見送った。

ぼくはというと今日も応援団の練習なので、

体育館に行きがけに、オーディション場所になっているいつもの自主練ルームの横を通った。

どの子もみんな真剣に、踊る3人の様子を見ている。

その後ろでは船長が、真剣にじっと踊っている子に目を向ける。

横を通りながら、船長へお辞儀をすると、

船長は表情を変えぬまま、すっと片手をあげて合図をくれた。

よろしくお願いします。そんな気持ちで、僕は応援団の練習に向ったのだった。

・・・・・・・・・・・・

昼休みが終わり、掃除の時間、応援団の練習を解散させて教室に戻ってくると、

教室掃除をしている中、Kさんが一人黒板したの教壇で膝を抱えてしゃがんでいた。

「オーディションはどうだった?!」

と、何も知らない僕は、教室に帰ってきていたオーディション組の子達に声をかける。

「シーッ!先生、今はKちゃんはそっとしてあげておいて!」

と、Kさんと仲良しのYさんが、僕をきっと鋭く見つめて、小声で話しかけてきた。

「Kさん、ダメやったん?」

と、僕は小声で訊き返す。

「いや、オーディションの結果は、月曜日に発表するんだけど、Kちゃん、最初の出だしを緊張して遅れちゃって、振りがおかしくなってしまったんです。その後泣くのをこらえながら最後まで一生懸命やったけど、上手く踊れなかったから、もうだめだと思ってるんだと思います。」

Yさんに頷いてから、僕はKさんの横に座って声をかける。

「お疲れさま、悔しかったね。」

そう声をかけ終わる前に、Kさんはぶわと両目に溜めていた涙を溢した。

「もう、ダメです。私絶対にセンターになりたかったのに。うううう。」

「そっか・・・・。でも船長先生は、なんて言ってた?」

「覚えてません。月曜日に発表するってことしか。」

「オーディションをするので、もちろん踊りも評価の点数に入るけど、これまでの練習の取り組み方や、演技に向かう気持ちの入り方も、総合的に見て決めるって言ってなかった?」

「いや、それは言ってたけど。でも、あそこに来た子はみんなやる気はあるし、それにみんなうまく踊れてました。」

Kさんは、もう落ち込んで受かることは無いと思っているようだ。

「これは気休めだけど言っとくよ。二つだけ。まず、結果が出るまでは、ダメだと自分で思わないこと。自分で自分を信じないとだよ。そして、もしダメだったからと言って、Kさんが、連休前から連休中も、この5年生の中で一番ソーランにハマって、熱心にやっていたことは間違いないと、先生は自信がある。だから、きっと、その事が報われないはずはないと思ってるよ。」

ぽろぽろと泣きながらKさんは、何度も何度もうなずいた。

さて、結果はどうなるのだろう?

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