不登校先生 (46)
「荷物は、もともと置いてあった教室から廊下にまとめておきました。
あと、ととろん先生の退職について、昨日付で辞令書が出ているので
お渡ししますね。」
辞令書を受け取ると、初めて正式にもらったその内容は
【退職について承認する。】
という簡単なものだった。
「ありがとうございます。」
受け取ると、たてなくんと、たてなくんの息子君と3人で、
荷物を車に運び込む。自分で考えていたよりたくさんだ。
当然だが4か月の間、だれも触る事はなかった道具たちは、
少しすすぼけて見えた。
職員室の机も、デスクマットや引き出しの中はそのままで、
大き目の袋におもむろに机にある小物や写真を放り込んでいく。
あまりここに長くはいたくない。
誰もいないのに、ここの空気が重く、苦しく感じる。
「忘れ物はありませんか?」
校長先生が声をかけてくれた。
「はい。本当に最後までありがとうございました。」
校長先生には、申し訳なさしかない。
「本当に、校長先生のお役に立てないままにお荷物にだけなって、
最後までご面倒をおかけしてしまって。申し訳ありません。」
校長先生は、これまで毎週通院の度に報告を入れた時にも、
何度もかけてくれた言葉をくださった。
「いえ、ととろん先生。長い人生で見れば今年のことも、ほんの短い時間のことです。それより、まずはしっかり回復されて、先生が今体験している経験が、この先、ととろん先生と出会う子たちとの向き合い方に活かされればいいんですよ。」
ありがたい。まだ僕を先生として見て、話してくださる。
この状況で、一番きつかったのは、僕じゃない。きっと校長先生のはず。
なのに、そのことを最後まで一言も、責めずに、
最後まで寄り添ってくださったことに、何も報いれなかった。
荷物の重さより、職員室の空気の重さより、
この方への感謝と申し訳なさの重さを、忘れないでいよう。
そんな思いで、僕は、僕の先生だった最後の場所を、後にした。
帰りの車の中で、ぎゅうぎゅうの荷物の中に、
閉じ込められてしまったたてなくんの息子君。
トトロの最初のシーンのサツキとメイみたいに、
荷物の隙間から顔をのぞかせて、「大丈夫だよ。」と何度も言ってくれる。
先生ですらなくなった今日だけど、親友とその息子君、そして校長先生の
温かさを感じなら、僕は、心の中の大きな荷物を
片付けられたような気持ちになれた。
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〇作者より
この日で、先生は退職しましたが先生に戻りたい気持ちはまだ残っているので、次の話からもタイトルは「不登校先生」のまま進めていこうと思います。引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
↓次話
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