どうせやるならとことん楽しもう(8)
「しのぶれど~・・・」
バン!バンッ!
よっしゃあ!
っくっそー!
教室で行われている赤杯は1回戦から、白熱した熱気が渦巻いている。
32人で16試合、5試合ずつの3列に、黒板下のスペースでもう1試合分、
子どもたちが特に素早く札を払いに行ける得意札の一つ「しのぶれど」の瞬間は、
床を叩く音が何重にも重なって、ビシッと空気まで跳んでぶつかってきたような、
そんな錯覚を起こすくらいに、子ども達の動きは鋭さを増していた。
まだ五色百人一首に取り組みだして、7日目である。
抽選も完全にくじなのが子ども達にはまたよかったらしく、
1回戦から、強いとみんなが思っている者同士が当たっている試合場も2・3試合あって、
となれば、頑張りしだいでは勝ちあがって行けるのでは。
そう期待が膨らんで、やる気がわくのもまた、抽選トーナメントの良さである。
「・・・・・・こいにくちなん、なこそおしけれー・・・・」
と、19枚目の札まで読み終えると、早くに勝負が決まった試合場の子も、
1回戦から運命戦になった試合場の子達も、
ぴしっと背筋を伸ばし直して、「ありがとうございました。」と、相手に礼。
「ありがとうございました。」と読手に体を向けて礼をする。
競技かるたの映画をみんな真剣に観ていただけあって、
ただ単にカードゲーム、ではなく、その札一枚を大切に扱う事や、
試合として臨む時の気持ちを態度で示す礼を、
誰から言い出したわけでもなく、自然と練習試合の時からみんなでするようになっていた。
真剣に百人一首という競技を楽しむ中で、相手に対して、読手に対して、
札に対して、敬意をもって臨むための礼。
そういったことまで、子ども達は、百人一首から学んでくれている様子がうかがえて、
改めて僕は感心しながら子ども達を見つめている。
「3分間の休憩の後2回戦するからね。」
そう伝えると、1回戦で負けてしまった子たちが尋ねてきた。
「先生、負けたらもうしちゃだめですか?」
「いやいや、そんなことは無いよ。1回戦で敗退してしまった人は、2回戦で使われていない試合場で、振り返り特訓をしたり、今度は楽しさ重視で赤札戦をしたりしてもいいし、また、二回戦の子達の様子を、観戦してもいいよ。負けたら後なんもすることないじゃ、つまらないからね。」
「やったぁ!じゃあ、Mちゃん、あっちの隅の試合場で一緒にしよう。」
「じゃあ僕は、クイーン候補のMさんのとり方を研究するかな。」
そのための全員で出来る試合場設定だ。
1回戦でも敗退しても、カルタは何度でも楽しめばいい。
思い思いの楽しみ方の道筋が立ったところで、トーナメントは二回戦へと進んでいく。
ちょうど32人の6の4は、五回戦まで行けば優勝戦だ。
第1回のチャンピオンは誰になるのか。ますます盛り上がっていきそうな熱気を帯びながら、
二回戦は始まるのだった。