船出から大冒険の予感しかない始まりの日(中)
「ありがとうございます。子ども達と読みます。」
そう返事をすると、主任の先生は、学年通信に込めている想いについても話してくれた。
「で、その学年通信の名前は『今日もどこかで』とつけたいんだけど、いいだろうか。自分が好きな小田和正さんの曲のタイトルなんだけど、子ども達には、学年通信の中で、毎日の新聞などのニュースも紹介していきながら、今日も世界では色々な事が起こっている事にも触れてもらって、広い視野を身に付けてもらいたいという思いを込めて。曲もとってもいい曲なんだけどな。で、色んなことに目を向ける視野の広がりと一緒に、そうして見えたことについて、自分の心を動かせるように育ってほしいという思いを込めているんだけど、それでいいかな?」
話を聴きながら、僕は言葉にできない熱い思いが胸の中で灯ったような気持にさせられた。
「異存ないです。ありがとうございます。」
と、再び返事をすると、主任の先生は笑顔で、僕と、姉さん先生に、
「なので、うちのクラスの学級目標は、毎年『広い視野と豊かな心で』なんだ。二人はそれぞれ学級目標などはあると思うけど、うちはそれで行くので、よろしく頼む。」
「その言葉、学級目標でなくて学年目標にしていいですか?」
と、姉さん先生が提案する。その提案グッジョブ!とばかりに、
すかさず、僕も「そうさせてもらえると嬉しいです。」
と続くと、主任先生は「それは全然かまわんよ。二人がよければ。」
と笑顔でOKしてくれた。初顔合わせからまだ30分経っていないのに、
ワクワクした気持ちがう膨らんでいく。
そして主任先生は、さらに続けた。
「そういった思いで『今日もどこかで』を子ども達と読みながら過ごす一年を、僕は航海と見立てて過ごすことにしています。もちろん船の主役のクルーは子ども達。で、僕らはそれを支える役割。船の世界一周の旅の責任者であるところの僕は『船長』のつもりで、この学年の子達全員に責任もって預かる気持だから、二人もそのつもりでいてね。はい、じゃあ二人は僕が通信を作りあげる今週中に、自分の役割を決めること。それが最初の学年の仕事です。」
いや、もう、そうか、これが・・・・生徒指導が大変だと言われている学校を歴任されてきたこの人の実力なんだ。
と、もう圧倒されまくりのままに、
僕と姉さん先生の最初の主任先生から与えられた最初のミッション
『船の役割で何になるか考える』、僕はすぐに返事をする。
「じゃあ船長。僕は錨でお願いします。どんなに嵐や台風が来ても、船が絶対に遭難しないように、しっかり泊めて置ける錨になります。」
主任先生(以下作中では船長と呼びます)は、大笑いしながら
「なるほど、人仕事の役割じゃなくて錨。おもしろいな。OK、ととろんは錨な。はい、姉さんも決まったら教えてね。」
「ちょっと、早い早い。二人とも仕事が早いですよ!」
と、姉さん先生(以下作中では姉さんと呼びます)も笑いながら二人に突っ込む。
こうして、始まった初日、僕らの一年は航海という子ども達との関わりを、
『今日もどこかで』の学年通信という地図を見ながら、
『広い視野と、豊かな心で』というコンパスを握り、
始まることが決まっていったのだった。