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桜の雨で卒業を(9)
「みんながやる気であることがわかればいいんよね?」
Rさんは、強く念を押すように確認する。
「時すでに遅しだとは思うけどね。月曜日の昼までには、先生は、前の学校に桜の紙を発送したいと思っているから。土日で全員に連絡できるん?」
「なんで、、そんな意地悪ばっかり言うのよ!もう私たちのことなんてどうでもいいって思ってることなの?!」
Rさんは、もう泣きながら訴える。後ろでKさんとMさんとⅠさんも涙目だ。
この4人の涙に、もう心の中で白旗を上げるしかない。
「だからね、例えば先生は月曜日は8時半にしか教室に上がらないから。ドカンと見える様に、黒板に全員が桜の雨計画をやりたいです。という署名などでもあれば。もうそれは、わかったと言わざるえんやろ?誰は携帯を持っていないとか、もう時間はないとかでなくて、使えばいいやん。教室を。」
「いいん?!やってもいいん?!そんなこと。」
涙の顔がぱっと明るくなる。
「ただし、そこに全員の名前がない場合は、みんながやりたいと言う事ではないものとして、先生は本当にやらないからね。それはもう約束だよ。」
と言いながらも、もう6の1の子達が、ほぼほぼやりたい気持ちなことも、
数名のどちらでもいい屋さんも、どちらでもいいではなく、
みんながやりたいなら、自分もやりたいに乗ってくることも、
想像だに難くはなかったけれど、そのうえRさんたちがきっと、
今日は残っていないⅠくんや、Sさんにもすぐに情報を共有して、
月曜日には少し早めに学校に来て、黒板に全員の決意表明を書くぞと、
土日でみんなに拡げるにちがいない。
この子たちは、6の1の子達は、本当に友達思いの子達なのだから。
友達思いの、情の繋がりまでを引きずり出して。
この意地悪で、しつこくて面倒くさくて、頑固な担任は、
【桜の雨で卒業を】という、こちらからの持ち込み企画を、
6の1の子達が、自分たちでやりたい企画として、
最後自分たちのものにしてほしい。そんな覚悟を決めていた。
意地悪で、しつこくて、面倒くさくて、頑固な態度で、
子ども達が落ち込み続ける時間に耐えなきゃいけない辛さは、
実は僕の方がずっときついのではないか、いつもそう思うが、
今回はもう本当に覚悟を決めたと自分に言い聞かせないと、
自分の方が、「じゃあやろうか。」と、
なんとなくのやりたい雰囲気に根負けしそうになっていたに違いない。
けれどまさか、一番ツンな、それが可愛らしいRさんが、
何とかこの計画を6の1でやりたいと、放課後呼び出しまで来るとは。
もはや僕の負けである。負かしてくれと切望していたが、
ここまで素敵な負かされぶりに、感動させられた僕は、
一時も過ぎようかというのに、黒板におっきな連判状を作るぞと、
3階に駆けあがっていた4人の後を、
「仕方がないな、後で叱られるか。」
とつぶやきながら、追いかけて上がっていくのだった。