お泊りミッションを成功させろ(6・了)
今回欠席のそうくんについては、旅行中に何度も悔しい気持ちになった。
旅行に行けた仲良しさんクラスの子ども達が楽しそうであればあるほどに、
その思いは強く感じられた。
二日目の朝に熱が下がったと連絡があったと、
旅行中に、あゆ先生から電話が入って、深いため息とともに
(残念だな)という想いしか込み上げてこない。
そして自分のというよりこの立場の微力を感じた。
本当は乗り越えられる大チャンスだった今回を棒に振った今回の一件は、
おそらくそうくんの人生にとっての、千載一遇の機会を放棄したことだと、
僕自身はそう感じていた。何とか乗り越えさせたい。乗り越えられるから。
そう切に願っても、本人の無理を家族が許容して、本人の意思に従えば、
結局は、伸ばしたいという思いも、この機会が二度と得難いものだから、
何としてもつかませてあげたいという願いもかなわない。
それはこの立場であれば、致し方の無いことだと思うしかない。
土日を挟んだ週明けに、あゆ先生にも観てもらえるように、
写真のスライドショーを見ながらの振り返りの感想を書く時間のとき、
「このときは、あんちゃんがさー。」
「はやくんも、なんだかんだいって、のりのりに・・・。」
「枕投げ楽しかったね。またやりたいね、みんなで。」
「料理がすごかった。なんかお殿様みたいだった。」
「吉野ヶ里も面白かったぁ。」
などなど、感想を書き綴る手よりも、振り返る楽しそうな声が尽きない。
「みんなよかったね。いい思い出になったのが伝わってくるよ。」
と、あゆ先生も、心底嬉しそうで、ちょっと涙ぐみながら大笑いしていた。
そして、そんな仲間の楽しそうな様子に触れたそうくんは絞り出すように、
「こんなに楽しいって分かっているなら、行けばよかった。」
とつぶやいた。少ないメンバーである。それを聞いた仲間たちは、
「ほんと、いけたらよかったのに。」
と、ただただ、そうくんがいっしょに行けなかったことを残念がった。
だが、そうくんだけはわかっている。
修学旅行の欠席は体調不良ではないことを。
他でもない自分自身が、そこから逃げる選択をしたことを。
仲間には気付かれていないその心情から出たつぶやきが。
どれほど彼の本音だったかは、僕にはわからない。
後日、おうちの方から連絡をいただいた。
「今度修学旅行のコースを家族で回ることになりました。なんかどうしても行きたいと言う事で。」
本当に必要なことは、そういう事ではなかったのだ。
仲間という家族とは一つ外周のコミュニティーの中で、
協力したり、仲間と自分の違いを見つけて認め合ったりして、
大きな課題を、楽しく乗り越えられるかどうかだったのだ。
僕にとってのこの修学旅行は、そういう意味では、
『お泊りミッションを成功させろ』と気合を入れて臨んだのものであって、
6人の成功を喜ぶ気持ちよりと同時に、
1人の不成功を悔やむ気持ちを抱く、そんな結果で幕を閉じたのだった。