どうせやるならとことん楽しもう(9)
二回戦はまだまだ優勝戦までは遠いのに、
勝ち上がってきた子達のレベルは実力伯仲で、
バシッ!と払った取り札が、教壇の下や、給食台の奥に飛んでいく。
まるで映画の中のちはやちゃんやたいちくんが、
ちっちゃくなってそこにいるように、躍動する。
10枚戦という試合形式のおかげで、1戦19首読みで一試合が終わるので、
二回戦はよりスピーディーに決着がついていった。
「ああ、運命戦まで食らいついたのにー…。」
「あっぶなかったぁ。Hさん、練習でした時よりめっちゃ強くなってるやん。」
「悔しい!次は絶対に勝つけんね。く・・・・悔しい!」
と、子ども達は、札を取るアグレッシブな動きが、
そのまま感情にも伝播したように、悔しい気持ちや、
リベンジに燃える気持ちを表に出している。
普段からそういったことが得意な子達だけでなく、
比較的おとなしめの子も、嬉しさや悔しさを思い切り出しているのが、
見ているこちらも嬉しくなってくる。
試合はテンポよく進み、3回戦。ベスト8の準々決勝ともいえるところで、
子どもたちが予想していた優勝候補が敗れるという出来事が起きた。
始業式後の2日目から、札を取る反応の速さがずば抜けていたSさんが、
運命戦にもつれ込んだ結果、1枚差で敗れる。
Sさんは、周りの友達がそう思っているからとかではなく、
自分自身がすっかりこの競技かるたにはまっていたのを自覚していたので、
「初代クイーンは絶対に獲ってやるんだから。」
と気合が入っていたので、試合が終わると泣きながら礼をする。
「Kさん、次はリベンジするから。」
流れた涙をぐっと拭いて、SさんはKさんに握手を差し出した。
「Sさん、本当に強かったよ。」
とKさん、差し出された手をぐっとつかんで握手する。
普段は一緒に遊んでいるグループではない二人が、
こうしてコミュニケーションをとって絆の様なものが強くなるのも、
なんだかドラマである。
・・・・これ、学級内イベントなんだが。
優勝ごほうびも宿題無しくらいの、お楽しみイベントなんだが。
子ども達のハマり様は、さながら自分たちもちはやふるの世界と同じ。
競技かるたの選手であるという気持ちで臨んでいるのだな。
ひしひしと伝わってくる緊張感。準決勝戦は、2試合ともに運命戦。
10枚戦なら力の伸びも早く、ベスト4までくると、
力の差などほとんどない。
気付けば、他の試合場でカルタを楽しんでいた子達は、一人もいなくなり、
みんなギャラリーになって、ピーンと張りつめた緊張感を、教室内に創り出している。
そして決勝戦。
赤杯の頂点についたのは、Oさん。
連休前にカルタを貸してほしいとお願いしに来たOさんが、
6の4の初代クイーンとなったのだった。